最後

「おい、何をするつもりだ?」

 

 USBをもう一度差し込む。

 端末を操作していく。

 

「現在使用可能な戦力は?」

「だから何を……。」

 

 俺は銃を向ける。

 

「良いから答えろ!」

「……これだけだ。」

 

 陸軍参謀総長は端末を操作する。

 すると、モニターに軍の情報が表示される。

 

「これだけか……。」

「殆どは前線に出払っている。お前達のせいでな。それに壊滅した部隊も少なくは無い。航空戦力もお前達の妨害工作で駄目になったものも多い。無理だな。」

 

 アイのパスワード入力画面を開く。

 アイのパスワードさえ解除出来れば、あれが使える。

 あれさえ使えればまだ勝機はあるのだ。

 

「パスワードはローマ字四文字、三回まで間違うことが出来る。既に一度間違っているから後二回間違える事が出来るな。」

「ローマ字四文字……。」

 

 考える。

 柏木なら何をパスワードとするのか。

 何かヒントは無いのか……。

 最後に柏木は何を残してくれた……。

 

「……。」

 

 L、O、V、Eと入力していく。

 アイを英語に直訳する。

 安直だが、どうだろうか。

 柏木は最後にこのAIの名前を教えてくれた。

 つまり、それを意味するLOVEではないか。

 そう思い、エンターを押す。

 

「違ったな。やはりそんな安直ではないようだ。」

 

 悔しいが、陸軍参謀総長の言う通りか。

 ……いや、もう一つあったな。

 これが違ったらどうなるのか。

 これを間違ったらおしまいなのか、それとももう一度だけチャンスはあるのだろうか。

 わからないが、それを恐れて何もしない結末を想像すると、そちらのほうが恐ろしい。

 俺はもう一つの候補を入力し、エンターを押す。

 

「M.A.N.A?どういう意味だ?」

「柏木の妹の名だ。意味は……愛。」

「……そうか。」

 

 陸軍参謀総長も納得する。

 皆が画面に注目する。

 すると、画面にUNLOCKと表示される。

 

「よし!シュミレーションモードを起動する!」

「シミュレーションモード?何だそれは。」

 

 陸軍参謀総長は疑問を浮かべる。

 

「戦場のデータを入力すると、アイは一瞬のうちに数万回を超えるシュミレーションを行う。そして、最善策を表示してくれる。これまで表示されていたのはアイが記録した戦闘記録から類似したものを参考に表示されていたにすぎない。アイが考えた作戦じゃなかったんだ。」

「……ならば我々は全くAIとしての機能を使えていなかったのか?」


 俺は頷く。


「あぁ。厳密には全くでは無いがな。入力された戦場のデータから昔の戦闘記録を探すというAIの機能は使えていたな。まぁ、だからよくエラーが起きていたんだろう。俺達はそれを知っていたから戦えた。普通の人間が取らないような無茶な作戦をやってきた。つまり、普通の人間相手になら簡単に負けていたかもしれないな。」

「……何ということだ……。」

 

 銃剣突撃や明らかな劣勢での突撃等は意味が分からない事をしたわけではなく、記録が少ないであろう行動をしたにすぎないというのもある。

 そういった行動は人間の突発的な思考のものが多く、やはりエラーを起こしやすいのだ。

 そうこうしている間に入力が完了する。

 元々データは全てあったのでそれを入力するだけだった。

 

「アイがシュミレーションに入ったな。」

 

 しばらくローディングと表示される。

 が、すぐに元の画面に戻った。

 画面には次々と指示が出される。

 

「よし、ここからはあんたの仕事だ。陸軍参謀総長。」

「……分かった。」

 

 表示された指示を陸軍参謀総長は確認する。

 もう素直に従っている。

 

「良し、出撃可能な戦闘機は全て出撃させよ!太平洋艦隊の航空母艦からも出撃さ」

 

 アイの示した作戦はこうだ。

 現在、人工衛星は戦闘機の最高高度の倍程の高度にある。

 落下予測は約数十分後。

 戦闘機が到達可能な高度に来るのはほんの数分後と見積もられている。

 戦闘機が到達可能な高度に達したら戦闘機によって迎撃。

 これでほんの少しでも人工衛星の質量を減らす。

 

「太平洋艦隊は全軍アメリカ西海岸に集結せよ!一隻でも多く集まれ!」

 

 その後、艦隊のミサイルによる迎撃も行う。

 さらなる質量の低下を狙ってのものだ。

 

「陸軍はこの地域の周辺住民の避難を急がせろ!最適な避難ルートや部隊の展開ルートはアイによる指示に従え!」

 

 最終的には結局、ここに人工衛星を落とす。

 途中での破壊は不可能と判断したのだ。

 既にこの街は避難が完了している。

 つまり、被害が及ぶであろう地域を出来る限り小さくするための策だ。

 だが……。

 

「これだけやっても成功確率は30%か……。」


 画面には端に常に30%と表示され続けている。


「結局やるのは人間だ。我が軍は被害が大きい。疲弊も激しいからな。しくじるかもしれん。人工衛星も迎撃の影響で落下地点が変わるかもしれんしな。」

 

 そう、アイも初めての経験だ。

 学習したデータは一つもない。

 今回ばかりは不安要素が大きいのだ。

 

「どちらにせよ、我々はここで最後を迎えることになるのだ。今から逃げても間に合わん。そもそも逃げられないしな。」

「……報いを受けたな。」

 

 陸軍参謀総長は黙って話を聞く。

 

「お前は核を使い、自国民を犠牲にした。俺はこの戦争を引き起こし、多数の命を散らした。これが報いだな。」

「……この立場、役職になってから全ての責任を負う覚悟は出来ている。貴様もそうだろう?この作戦を計画した時、犠牲を考えなかったわけではあるまい?」

 

 俺は頷く。

 

「あぁ。それに、今回の作戦にはもう一つ意味合いがある。」

 

 俺は仲間達の方を向く。

 皆が画面に注目している。

 

「仲間達には悪いが、今後世界が平和になれば俺達のような戦うことしか出来ないやつは生き場を失う。それは大規模なテロや紛争に繋がる。だから今の内に消化させておきたかったというのもある。」

「……確かに今回の戦闘で殆どの傭兵は死んだな。お前達の結末を知って傭兵に憧れる者も少なくなるやもしれんな。しかし、私の知っているデータではお前は平和なんかを気にするような奴ではない気がしたが?」

「……あいつに感化させられたのかもな。」

 

 そうこうしている間にも作戦は進んでいく。

 そろそろ戦闘機が迎撃を開始する頃だ。

 

「さて、共に我が国の結末を見届けるとしようか。」

「成功するかどうかでこの世界のあり方は大きく変わるだろう。しっかりと見届けよう。」

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