第六話 もう一人の親友

夏休みも残り1日となっていた。

僕は残りの夏休みを全てカナエとの時間に

あてた。

朝起きてカナエが録画したメッセージと会話して一緒にお昼ご飯を食べながら

たわいのない会話して

夜になればまた彼女と会って過ごす。

何気ない日常が僕にとって色づいた甘い日常となっていた。


そして高校の夏休みが終わり

新学期が始まった頃

僕は不登校になってしまった。


だってしょうがないだろ。

やっと彼女とずっと一緒にいれた。

僕は忘れて会えなかった時間を取り戻すように全ての僕の時間を費やしたかった。

好きな人の側にいるのが何が悪い!

愛しているからこそ

大好きだらこそ

ずっと君のものになりかった。


僕は部屋からずっと出ないまま

誰とも話さずに

彼女だけをずっと眺めていた。

そしてまたあの部屋に戻った。

僕の心を閉ざすように


僕はカナエにずかるように抱きついついた。

「僕は悪くない……僕は悪くない……」


呪文のように自分を正当化するために

何度も言葉を繰り返していた。

そんな僕に彼女はまた優しく

寄り添ってくれた。


「うん、うん、悪くない〜悪くない〜

向こうに戻っても誰も本当の望の事を

知らないし認めてくれないもんね。

それならずっとここにいたいもんね。

大丈夫だよ、僕はずっと一緒だよ」


なぜだかわからないが

涙が出てきていた。

きっと間違っているのも

自分でも気づいているのだろう

それでもその間違いを否定できない。

否定をすれば自分を否定する事になる

そのジレンマが僕の不安を襲い

不安を拭うように彼女を求める。

僕は抜け出せないでいた。


不安定の中

僕はまた大っ嫌いな現実に戻った。


あれから不登校が5日続いた。

親からは初めの方は話かけられていたが

今はもうご飯を置くだけで避けられていた。


そんな中、叶恵は僕に学校のプリントを渡す

ついでにずっと僕に話しかけて来てくれた。

「望ちゃん、今日も来たよ。

今日ね!席替えがあったんだよ!

そしたら私とね

望と誠(まこと)の三人とも

近くにいるんだよ。

すごく嬉しかったんだ。

はやく望も学校に行こうよ!

また三人でいっぱい話さそう

そしたら絶対に楽しいよ!」


そんな言葉を塞ぐように僕は叫んだ。

「うるさい!!!

僕はもういいんだ……僕の居場所を見つけた。

学校に行ったからって何が楽しいの?

また普通に生きるために自分を抑えなきゃ

いけないだけじゃないか

叶恵はいいよね……明るくて可愛いくて

みんなにも好かれている。

どうせ僕の事を馬鹿にしているでしょ?

だからもういいんだ一人にして」


僕は冷たく突き放した。

そんな言葉を聞いた叶恵は激怒した。

「そんなわけないじゃん!

望ちゃんは私のことなんていつも見てない

し、それなのに私の気持ちを勝手に言って!

もう知らない!!!」

ドアを大きく叩き彼女は帰っていった。


また僕は呪文のように口ずさむ

「僕は悪くない……僕は悪くない……」

孤独と不安が僕を襲う。

またそれを拭うためにカナエの声を聞く

「僕はゴミだ……」


孤独に追いやられた中

その夜、僕を訪ねてまた一人来た。

誠だった。

彼は弥生誠(やよいまこと)

僕の親友の一人だ。

夏休みの間、誠はほとんど部活に行っていたので会うことはなかったのだが

唯一、僕が本当の相談ができていた男友達だ。

不登校で学校に来ない

僕を見かねて訪ねて来たのだ。


誠は扉をノックして話しかける。

「望、生きているか

叶恵から話を聞いてきた。

今、話せるか?」


僕はそのまま返事をせずに

扉をノックして返した。

少しだけだが叶恵に対しての発言に罪悪感を

持っていた。

そのままドアの前に座って誠の話を聞いた。


誠もドアの前に後ろ向きで座り、話はじめた。

「お前、叶恵に結構、酷いこと言っただろ

あいつめっちゃ怒っていたぞ。

ありゃ〜許してくれるまで時間かかるぞ」


その話を聞いて

そりゃあそうだと思い、僕は少し下を向いた。

誠はそのまま話す。

「夏休みの間、叶恵となんか作っていたんだろ。叶恵が望ちゃんは呪われている!

私のことなんて何も興味ないんだ!

せっかく一緒に遊ぼうと思っただけなのに!ってなんて言うかさ、とにかくやばかったとしか言えねぇよ

でもお前がそんなにハマるって初めて見たよ。

学校に行きたくなくなるぐらいそんな楽しいのか?今やっていること」


僕はその問いに関して

ドアを2回ノックして答えた。


誠は少し笑い

「そうか…なんかすげー悩んでいるとかじゃなくて良かったよ。

てっきりもう学校が嫌いで自殺するんじゃねぇかって思って……

高校入ってからのお前

なんかやたらと遠く見ていたって言うか

目に光がねぇって言うか

とにかく危なっかしくてさ

俺もほぼ部活だったから話す事も少なくなって……まあとりあえず心配だったのは心配だったんだ」


僕は誠からそんな事を

言われると思っていなかった。

また迷惑をかけてしまったと思い、申し訳なさを感じた。


僕は話すのが少し怖くなったのか

言葉を出すことができず、メモを書き

ドアの下の隙間から誠に渡した。


そこには

「ありがとう」とだけ書いた。


そのメモを見た誠は少し安心して

「そうか、とりあえず叶恵は当分これねぇと思うから明日また部活終わったら来るわ。

腹減っているからお菓子かなんか用意してくれよ、じゃあな」

と気さくに話して帰って行った。


少しだが久々に誠と話せた事が嬉しかった。

そしてなぜか

また誰かがドアをノックした。

誠だった。

帰ったはずじゃと思っていたら

いきなり誠が

「あ、叶恵から伝言

望ちゃん謝らなきゃもう嫌いになるからね!」ってドアの前で叶恵のモノマネをしながら伝言を伝えてきた。

その唐突なモノマネに僕は少し声を出して笑ってしまっていた。

そしてそのまま誠は帰っていった。


その夜、僕はカナエに会いに行って

今日、あった事を話した。

カナエはそれを聞いて

「そうか、やっぱり二人ともいい友達だね

でもそんなに学校まで行かないで僕と会って大丈夫なの?」

と聞いてきた。


それに対して僕は

「うん、だってカナエと離れる事が一番きついから……ずっと話せなかったから……

カナエに時間を使うのは当たり前だよ」

とカナエの手を握り話した。


そしてカナエは手を握り返して

僕の目を見ながら話した。

「だったら僕の事、誠君に話しちゃえば?」


僕はそれを聞いて

「できるわけないじゃん……そんな事、話したら変なやつと思われて嫌われちゃうよ

しかも誠になんて、怖すぎるよ」

と返した。


そしたらカナエは僕の後ろに手をやり

そのまま僕の頭を引っ張り

カナエの頭に近づけて

おでこをお互いにくっつけた。


顔と唇がすごく近かった。

彼女の体温と暖かい吐息が僕の唇にかかる。

すごくドキドキした。


カナエは吐息混じりで僕にささやく

「誠くんは望の事を否定しないよ

何より望がそう思うんでしょ?

僕は望が考えている事、なんでも知っているよ」

彼女はその煌びやかな瞳で僕を見ながら

まっすぐ話し、僕の気持ちの後押しをしてくれた。


僕はそのままの勢いでカナエを抱き寄せ

「カナエ、ありがとう」と返した。

そしてそのまま暗くなりまた僕は戻った。


僕が帰ったあとカナエは

一人、笑っていた。


「あー面白くなるな〜

これからだよ望……

君がどんどん壊れていくのは……」


不敵な笑い声だけが部屋に響いていた。

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