012 軍隊らしさはここにあり?
小走りで中庭に向かう。
中庭といっても、日本の学校の校庭以上の広さはあるところだ。ガヤガヤと声が聞こえてきた。
トロノイの十人が全員前に出てきており、それ以外の人たちは階級ごとに分かれて並んでいる。さすがにセラフィムとケルビムはいない。
こう見ると、意外にも男女比は同じくらいに感じる。
私とティアは、アンゲロイの列の一番後ろに並ぶ。
前に並んでいる人がサッとこちらを向き、隣の人とコソコソ話し始める。
「ねえ、もしかして後ろの黒髪って……」
「うん、あの
サーッと血の気が引く。もう知られているのかと。噂の『人』ではなく『人間』と言ったことからも、やはり私が死刑囚だとバレている。
……でもそりゃそうか。昨日はずっとトップニュースだったし。知らない方がおかしいか。
ふと隣のティアを見ると、鋭い目つきで前の二人を
「ティア?」
「
ひそめ声でボソッとつぶやくように言葉を吐くティア。静かな怒気が含まれている。
最後列でこんなことが行われているのをよそに、朝礼が始まった。
「休め!」
前に置かれた巨大なスピーカーから、号令が聞こえた。
みんながサッと左足を肩幅くらいに広げ、手を後ろに回す。これは私も小学生でやっていたことなので、真似して同じ姿勢をとる。
それと同時に、ガヤガヤとうるさかった話し声がシーンと静まり返る。
「本日の任務を告げる。ドミニオンズ・デュナメス・エクスシア諸君は、昨日と同じ場所にて巡回。時間は
「「「了解!」」」
昨日と特に変わりなさそうなんだね。まあ私は知らないけど。
「次、アルカイとアルカンゲロイの諸君も昨日と同様の配置で巡回。時間も先鋭組と同様、〇九〇〇より行う。以上」
「「「了解!」」」
私たちの隣の列の人たちが、数ミリの差も違わずに
次は私たちだね。
「次、アンゲロイ諸君は、引き続き訓練場にて戦闘訓練を行ってもらう。訓練内容は個人で違うから、コミュニカの指示に従うこと。時間はこちらも〇九〇〇より行う。以上」
「「「了解!」」」
よし、言えた。
戦闘訓練、まぁそうだよね。内容が個人で違うってのが気になるけど……後でティアに聞いてみよ。
「他に連絡のある者は」とトロノイが他のトロノイに聞くが、ないようだったので、このまま体操に移ることとなった。
体操は、陸軍のでも海軍のでも空軍のでもない、ドミューニョ部隊オリジナルの体操だという。
ティアによれば、陸海空軍の体操よりはハードではないらしいが……。
音楽がスピーカーから流れてきた。もちろんここは日本ではない。あのピアノ伴奏の体操ではないようだ。
朝からテンションが上がるようなダンスミュージックだったのだ。
こんなところで、また先入観が砕かれるとは。
『まずは足裏のストレッチから』
音楽はまさかの音声つきだった――とツッコむ間もなく、体操が始まった。
前の人の見よう見まねでついていく。なるほど、ストレッチがメインなんだね。これならいける。
そう思ったのもつかの間、中盤からだんだん雲行きが怪しくなってくる。体全体を使うようになってきた。何とか周りを見て食らいつくが、ワンテンポ遅れている。
ヒィヒィ言っていると、前からトロノイの誰かが腕を組んで歩いてきた。しっかり体操をしているかどうか監視しているようだ。
あの人は知っている。昨日色々教えてもらったメケイラだ。
列の前の方で歩みが止まり、その近くの人を指さした。
「もっと大きく!」
「了解!」
ひぃっ。じゃ、じゃあ私は絶対言われるじゃん!
心の中でブルブルと震えつつ、だんだんと難易度が上がっていく体操についていくしかなかった。
所々で注意を入れながら、とうとうメケイラが私のところに来てしまった。
彼女は変わらず腕を組みながら、じっと私の体操を見ている。
いつ終わるの、この体操!
もう三分は経っているだろう。メケイラは私を見たまま一歩も動かない。結局、体操が終わるまで私は彼女に監視されたままだった。
この後すぐに解散の号令がかかり、周りがぞろぞろと中庭を離れる中、私とティアはメケイラに呼び止められた。
「昨日、体操を教えるのを失念してしまった。申し訳ない」
……え?
「そうだったんですか⁉︎ 全くできてないので、てっきり前の人のように注意されるんだとビクビクしてました」
「本当に申し訳ない」
メケイラでもミスすることってあるんだ。すごくデキそうな人なのに。
「ということで、先程アンゲロイは戦闘訓練だと指示したが、
「りょ、了解!」
徹底的に……あんなキツいやつを⁉︎ か、覚悟しておこう。
メケイラはティアに視線を移す。
「セレスティアはその間、訓練場で個人練習をしてくれ。月城との件が終わり次第連絡する」
「了解ですわ」
指示を受け取り、うなずくティア。
メケイラとの用事はここで終わったので、私たちはそのまま朝食を食べに行った。
ティアに体操の件を慰められつつ、談笑しながら美味しい朝食を味わう。
トレーごと食器を返し、寮に戻ろうとしたその時、基地内にサイレンが鳴り響いた。
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