006 私の武器は妖しい刀⁉︎

「この『くしなだひめ』っていうやつかな?」


 休息部屋で初期設定したときに気になったものだ。『Communica ID: Kushinada-hime』と表示されている。


 メケイラが私のコミュニカをのぞき込む。


「そう、それがお前の武器ペスティの名前だ」


 そうと分かれば。

 私はメケイラに教わったとおりに唱えた。


「サモンヴォカテ=クシナダヒメ!」


 目の前に細長い棒状の光が現れたと同時に、腰の辺りにも同じくらいの大きさの光が現れる。


「うわぁっ、これは……刀?」


 光が収まると、目の前の棒状の光はゲームで出てきそうな禍々しい黒い刀になった。さらに、緑色の稲妻のような光が刃全体に広がっている。

 腰の辺りの棒状の光は刀のさやになった。


 鞘はひもで腰のベルトに巻き付いているようだが、刀は自然落下で床に落ちていく。とっさに刀の柄をつかむ私。


「なるほど、刀か。さすが人間界の日本出身といったところだな」


 えっ、私に教えといて、私の武器を知らなかったの⁉


「どういうことですか?」


 まだメケイラには敬語を使わなくてよいことは教わっていないので、丁寧語で質問する。


武器ペスティは初めて召喚するまで、私たち幹部でさえもわからない。隊員のデータをコミュニカに学習させると、自動的にIDを取得し、武器を生成するからな」


 コミュニカが武器を生成。とんでもなくSFチックな言葉が飛び出ている。


 さっきの座学で言ってたもんね。

 ペスティは、クリサイトに有効でヒトに安全な武器である。つまり、それまで存在していた武器とは別物ということだ。私が知っている武器の認識で、このペスティを見てはいけないようだ。


「私のデータをこのコミュニカが学習して……武器の名前を『クシナダヒメ』に、武器は刀がふさわしいとしたと……」


 妖刀と言うべき、柄から刃まで黒い刀。コミュニカが『刀』を学習したときの元データが知りたくなったが、黙っておく。


「そういうことだろうな。次はさっそく仮想の宿主と戦ってもらう」

「も、もうですか⁉」

「返事」

「りょ、了解!」


 メケイラは自分のコミュニカを操作すると、部屋の照明がだんだんと暗くなっていった。






 私の目には驚くべきものが写っていた。一面真っ白だったはずのこの部屋が、アウスティ駅前の広場に変わっていた。

 ホログラムかなと思っていたが、違う。気温も、湿度も、天気も、臭いも、地面のアスファルトを踏む感覚も、風が当たる感覚も、すべてが再現されている。懐かしい。


「基地の周辺では一番戦いやすい、アウスティ駅南口前に設定した。周りを見てみろ」

「……規制線が張られていますね」

「そうだ、ここは規制線の中。私たちドミューニョ部隊しか入れない場所だ」


 ということは……


「あそこの街路樹の陰に宿主が潜んでいる。宿主を浄化するぞ」

「了解!」


 メケイラは大剣を右手に持ち替え、音もなく走り出した。私は慌てて追いかける。


 体がふわっと浮いたような感覚がした。ただいつものように走り出しただけだが、移り行く景色がとてつもない速さで過ぎ去っていくのがわかる。


「はぁっ!」


 宿主に気づかれる前に、メケイラが先制攻撃に成功した。私たちに気づいた宿主は、メケイラに殴りかかる。


 私は無意識で、その拳を刀で弾いていた。宿主はバランスを崩して地面を転がる。そんなに強い力をかけたつもりはないのに。


「やるな、月城つきしろ。今からは己の赴くがままに戦ってみろ」

「えっ、そんなこと――」

「来るぞ!」


 メケイラに返事する間もなく、宿主は立ち上がってまたも殴りかかってきていた。とっさに横に避ける。

 避けられて体の軸が傾いた宿主。それを確認した私は後ろに回り込み、刀を握る右手に力を込めて振りかぶる。


斬心ざんしん!」


 刀を宿主の背中に突き刺した。宿主はその場に倒れた。不思議と血は流れない。それどころか、突き刺した場所から白い光が宿主の全身へと広がっていく。


「これで浄化完了だ。少々やり方が荒々しいかもしれないが、剣や刀などの近距離型の武器はこのように戦い、浄化する。銃型の遠距離型の武器もあるが、宿主の動きを止める役割がある」


 なるほど、剣や刀だけじゃなくて、銃もあるんだね。確かに遠距離攻撃があった方が戦いやすいかも。


「宿主の浄化が完了したら、救護班を呼び、宿主となったヒトを搬送すること。わかったか」

「了解」


 ただ己の体の赴くがままに従ったら、宿主を倒せてしまった。しかも「斬心」など、聞いたこともない言葉を口走っていた。斬新なら知ってるけど。


「初めてにしては身のこなしもなかなかだな。なら、予定通り、今日からさっそくお前に相棒パートナーを組ませよう」


 あっ、とさっきのことを思い出したが、ティアからは口止めされているので、「相棒、ですか」と知らないふりをする。


「お前のパートナーは、同じくアンゲロイのセレスティア・フィオナ・ウィザーソンだ。ただな……」


 メケイラが顔を曇らせる。


「彼女は少々癖があってな、今まで三回他の隊員と組ませたが、合わずに解体を余儀なくされた。覚悟はしてくれ」


 さっき、私にコミュニカの使い方をしっかり教えてくれたティアがそんな人だなんて、にわかには信じられなかった。だが、おそらく訓練をサボっているので、納得してしまう自分もいる。


「先程連絡を取ったから、もうすぐ来るはずだが……」


 数秒して、部屋のドアが開いた。

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