第89話 宿場町でのお買い物 その2

アトラ商店に到着しましたので、わたしとトリシャ様は店に入ります。


「こんにちは、失礼します」


お店のドアを開けますと、教えられたとおり女性の服が売っている店でした。

服は壁にかけられており、日常的に着る冬服の他に、目的の防寒着もあります。

しかし、店の方は見当たりません。


「店の方はおりませんね。奥でしょうか」


わたしがこう言いますが、トリシャ様は


「ドアの鍵が開いているから、店自体はやってるんだよ」


とおっしゃり、店の中に入っていきます。

トリシャ様が中に入りましたので、わたしも仕方なく店に入り、ドアを閉めます。


「そうですが、勝手に品物に手をつけてもよいのでしょうか」


わたしは自分での買い物はしたことがありませんが、勝手に店に入り

品物に手をつけてもよいのでしょうか。


「別に大丈夫だって。こういう店は、客が勝手に入って手をつけてもいいんだよ」


とトリシャ様はおっしゃり、壁にかかっている防寒着に手を伸ばします。


すると、お店の奥から


「お嬢ちゃん、それは見本だよ」


と突然、女性の声が奥からし、女性が出てきましたが、この方が店主のようです。

そして、トリシャ様はこの声に驚き、一瞬ビクッとしましたが


「そ、そうなんだ」


と触れようとした手を戻し、わたしの元に気まずそうに来ます。


「こんにちは。この店のご店主ですか?」


わたしは店の方に尋ねますと


「わたしは店を手伝ってるけど、店主はうちのばあさんだよ」


と答えて、笑います。


「そうでしたか。本日、お店を訪れたのは、防寒着を買うためですので、お願いします」


わたしがこう店の方に言いますと


「ははは、あんた……いえ、あなたが王女様か。うちのような山の中の店に、王女様が来るとは光栄だね」


とさらに笑いますが、わたしが王女だとすぐに気づきました。


(やはり、わたしが王女だとわかるのですね……)


子供たちもそうですが、そんなにすぐ王女とわかるのですかね。


わたしは気になり


「そんなにすぐに王女だとわかるのですか?」


と尋ねます。


「そりゃ、すぐわかるよ。そんないい服は役人でも町長でも着てないよ。

それに、その言葉遣いや上品さを見れば、誰だって王女様だとわかるよ」


と答えて、笑っています。


「そうなのですね……」


わたしは思った以上に、王女だとわかるようです。


「誰がどう見ても王女様だよ。それに、その人間が言うとおり、こんなところに

そんないい服を着てる人間はいないしね」


トリシャ様もこうおっしゃいます。


「そうなんですね。ただ、わたしのことはいいです。

トリシャ様の防寒着を買いに来たのですから」


わたしは話題を、トリシャ様の防寒着を買いに来たことに変えます。


「そうだね。これは見本って言ったけど、売り物は奥にあるの?」


トリシャ様が尋ねますと


「奥にあるけど、合うサイズがあるかわからないよ。探してくるから、待ってな」


店の方はそう言って、再び奥へ行きます。


「トリシャ様、わたしは王女ってわかるのですね」


トリシャ様にこう言いますと


「さっきも言ったけど、王女様が来てるって知ってたら、わからない方がおかしいよ」


とトリシャ様が珍しく、少し呆れた表情でおっしゃいます。


「言われてみればそうですね」


「言われなくても気づいてよ。姫様の服は、あたしにだっていい服ってわかるんだよ。

人間が見たら、すぐにわかるよ」


トリシャ様は着ている服が良い物だと言いますが、確かにそうですね。

良い物と言いましても、普段着ている服ですので、そう感じていませんでした。


「普段から着ているものなので、考えていませんでした」


「姫様はそうかもしれないけど、他の人間から見たら違うからね」


トリシャ様はこう言いますが、やはり王族は違うということですね。


「そうですね、覚えておきます。ところで、先ほど見かけた方たちが困った顔をしていましたが何でしょうね」


わたしが町で見た方々は、何かあったのか困った顔をしていました。


「なんだろうね。あたしも話してるのが聞こえたけど、なんかこの先の峠でなにかがあったみたいだよ」


トリシャ様は話している声が聞こえたとおっしゃいますが、峠で何かがあったのでしょうか。


「そうなのですね。昨日は馬車や旅人とほとんどすれ違っていませんが、何があったのでしょうか」


「どうだろうね。ただ、旅人や商人みたいな人間が困ってたから、何かあったのは間違いないよ」


トリシャ様は困っていた人たちが、商人や旅人だったため、このように言います。


「峠が通れず、足止めをされているのでしょうか」


わたしは足止めされていると言いますと


「かもしれないね。何で通れないかはわからないけど、足止めされてるようだね」


トリシャ様も同じく、足止めされているとおっしゃいます。


「そうなりますと、先に進めませんね」


わたしは先に進めないことを心配します。


「でも、アルニルの体調の回復を待つから同じだよ。だから、ちょうど良かったんだよ」


トリシャ様はこう言いますが、確かに2日間はここに留まる予定です。

しかし、困ってた方たちの表情を見ていましたら、すぐに通れないかもしれません。

ただ、峠で何が起こっているかわかりませんので、わたしは何も言いません。


(すぐに通れるようになれば良いのですが……)


わたしがこう思いますと、


「待たせたね。合いそうなサイズを持ってきたよ」


とお店の方が、何着かの防寒着を持って戻ってきたのでした。

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