第78話 トリシャが部屋に居なかったわけ

中からトリシャ様の返事がありましたので、わたしは


「ご用がありますので、入ってよいですか?」


とお聞きしますと


「構わないよ、入って」


とおっしゃりますので、わたしはドアを開けました。


「失礼いたします」


「姫様が用って何かな?」


わたしが部屋に入りますと、トリシャ様が尋ねてきます。


「ご用と言いますか、正しくはお話ししたいことがあります」


「……アルニルの事かな」


トリシャ様はアルニルの話だとすぐに気づきました。


「はい、アルニルの事です」


「姫様が、あたしに話す事はそれだけだからね」


トリシャ様はこのようにおっしゃり、ため息をつきます。


(トリシャ様も気づいていましたか)


トリシャ様もわたしが話すことは、アルニルのことだけだとわかっていました。


「トリシャ様もおわかりのようなので、お話が早そうですね」


「まぁ……今思えば、あたしも悪かったかなっと思った……」


トリシャ様は冷静になったためか、トリシャ様はご自身にも非があったと気づいたようです。

ただ、トリシャ様はアルニルへの支援として、魔法を使いましたので仕方がないのです。


「アルニルも熱があったため、ついついあのような事を言ったのですよ。

支援については責めていませんし、たまたま熱が出たのと重なっただけです。

山の上なので、この季節にしては気温が低かったですし」


わたしはトリシャ様にこのように言います。


「そうだよね。今考えたら、山の上で寒いし、氷の破片を浴びて濡れたら冷えるからね」


トリシャも濡れて冷えたと、理解しています。


「旅をしてひと月が経ちましたし、戦いの緊張が途切れて疲れが一気に出たのでしょう」


気温の変化と山賊の戦いに、長旅の疲れが一気に出たのでしょう。


「姫様もアルニルも同じ事を言うんだね……でも、そのとおりかな」


トリシャ様はアルニルもと言いますが、先程お部屋に居なかった理由がわかりました。


(アルニルの部屋を訪れたので、お部屋に居なかったのですね)


どおりでお風呂や食堂で見つからなかったのですね。

ただ、前世の記憶では、2人が揉めた場合、少なくとも3日は

口を聞きませんでしたので、アルニルの部屋を訪れているとは思いませんでした。

もっとも、アルニルの部屋がどの部屋かわかりませんが。

しかし、トリシャ様が訪れていましたら、お話声や灯りがついていたので

その時にアルニルの部屋を探せばすぐに分かったかもしれません。


(今更ですし、トリシャ様が見つかりましたので問題ないですね)


トリシャ様が見つかりましたので、良しとします。


「アルニルと言う事は、アルニルの部屋を訪れたのですか?」


「……さっき行ってみた」


「どの部屋かご存じでしたのですね」


「部屋に来た時、丁度イザベラが出て来たからね……」


偶然、イザベラが部屋から出て知ったようですね。


「そうでしたか。しかし、トリシャ様が自らアルニルの部屋を訪ねたのは意外でした」


わたしは前世でのトリシャ様の事を知っていますので、少しからかうように言います。


「200年以上前の話だし、あたしだって200年あれば成長するよ」


トリシャ様は照れくさそうに言いますが、エルフでも200年はそれなりの時間のようです。


「そう照れないでください。それで、アルニルはなんて言ったのですか?」


わたしが尋ねますと


「あたしが言った時は疲れて寝てた。イザベラが言うには熱はほぼ下がったけど、

疲れもあるから寝かせたままがいいって言ったから、そのまますぐに戻って来た」


「そうでしたか」


疲れもあり、眠っていたのですね。

アルニルは侍女として、わたしへの気づかいや、身の回りの世話をしていますが

護衛としての仕事もありますので、ずっと気を張っていたのでしょう。

なので、身体を休ませる良い機会だと思います。


「ずっと気を張っていたので、いい機会なので身体を休ませましょう」


「そうだね、その方がいいね。でも、長くここにいる事が出来るの?」


トリシャ様が訪ねてきますが


「はい、宿には悪天候などで足止めをされた事を考えて必ず3泊分を押さえています」


と答えます。


「そうなんだ」


「はい、なのでアルニルを少し休ませてからにしましょう」


熱が出ましたので、熱が下がっても3泊することにします。


「でも、アルニルのことだから、明日になったら大丈夫ですと言う気はするよ」


確かに、トリシャ様のおっしゃるとおり、明日になったら


『熱が下がりましたので、もう大丈夫です。さ、行きましょう』


と言うと思います。


「その時は王女としての命令として、身体を休めるようにと言いつけます」


わたしはこう言って微笑みます。


「なるほどね」


トリシャ様は一言だけ言うだけでした。


「トリシャ様を説得するつもりでしたが、その必要はなかったようです」


わたしはトリシャ様と口論する覚悟もありましたが、杞憂でした。


「あたしも、アルニルにああいわれてちょっと向きになったけど

馬車の中で考えたら、あたしも悪かったと思ったからだよ……」


とトリシャ様はおっしゃり、少し頬が赤くなっています。


「そうお考えになり、わたくしとしては嬉しい限りです」


「ならいいけど。それより、お腹が減ったし、冷えて来たからお風呂にも入りたいよ」


トリシャ様は誤魔化すように言いますが、確かに空腹ですし、冷えて来ましたので

お風呂にも入りたいですね。


「そうですね、わたしも空腹ですし、お湯に浸かりたいのでそうしましょう」


わたしがこのように言いますと


「それなら、あたしは先に行くよ」


とトリシャ様は言って、いつの間にかお風呂に行く準備をしていたのでありました。

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