第28話 騎士団長とエモリー
フローラ様たちと別れ、自分は騎士団へと戻ると騎士団長の元へ向かった。
「アラン、ご苦労だったな」
「いえ、騎士としての役目を果たしただけです。ただ……自分よりもトリシャ様の力のお陰ですが」
騎士団長に伝えると騎士団長に
「だとしても、フローラ様は無事に王都へ戻られた。
例えトリシャ様の力があったとしても、アラン、おまえの力でもあるから自信を持て」
と言われたので、素直に受け取る。
「ありがとうございます、騎士団長」
「この度の任務はフローラ様の初めての勇者としての旅であり、1人での旅でもあった。
その旅を成功させたことは、騎士としての任務を全うしたが、お前も疲れたであろう。
なので、しばらくは疲れを癒すが良い」
つまり、しばらくの間休暇を下さるという事であるが、今回は旅と言えるものではないと思うものの
休暇を取るという命令でもあるので、断る事も出来ない。
「そうさせていただきます。ところで、騎士団長、聞きたい事がありまが……」
「聞きたい事とはなんだ?」
「団長が以前、騎士団から出て行った男のお話をしてくださりましたが、その男の名前ですが、確かエモリーでしたよね?」
「ああ、エモリーの事か。今も騎士団に居ればこの老いぼれが未だに騎士団長をしていなかっただろう。
そのエモリーがどうかしたのか?」
「実はですね……」
騎士団長に道中でエモリーに出会った事を話した。
「その賊はエモリーと名乗ったのか」
「直接は名乗っていませんが、名前を知る機会がありましたので」
「そうか。年の頃はどれぐらいだ?」
「そうですね、30代半ば……35、6歳と言った所ですね」
「確かに、エモリーは36になるので年は一緒だが、それだけではただの偶然だ」
「かもしれませんが。ただ、賊のエモリーの剣は明らかに騎士団の剣術でした」
「……そうか」
騎士団長はそういうと、しばらく何も言わなかった。
「どうあれ、騎士団を出て行った後どうなったかはわしも、他の者も知らぬ。
もともとは貧しい村の出身だったが、その村には戻っていない事は確認している。
なので、賊に身をやつしたかもしれぬな……」
騎士団長はため息をつく。
「しかし、その賊が騎士団を出て行ったエモリーとは限りません」
「そうだな、偶然かもしれんな。ただ、わしはエモリーの事は心残りで
もっとうまくやっていれば今頃と思うが、もう10年前も事を悔やんでも仕方がない。
ただ、今はどうあれ、もう1度会って話をしたいものだ。
いかん、いかん、どうも年を取ると昔の事を愚痴ってしまう。
わしからの話は以上だ、下がってよい」
「失礼いたします!」
自分は騎士団長の部屋を出て行ったが、騎士団長の様子から……。
いや、騎士団長の言ってた通り、今は偶然としておく事にした。
しかし、自分の中ではエモリーは騎士団長が言っていたエモリーと同一人物だと考えている。
騎士団長からエモリーの事はそれとなく聞いている。
騎士団長と酒を飲まないかと誘われたが、自分は酒が飲めないの事を告げると
「それじゃ、老いぼれの愚痴でも聞いくれ」
と言われので、立場上断れないので酒を飲む騎士団長の愚痴を聞いた。
その愚痴の中の1つにエモリーの話があった。
地方の村から出てきて騎士団に入団したそうだが、そのために
騎士団に入団するには少し年齢が高かった。
さらに、騎士は身分が高い(自分も貴族の家の出)ので、周りから蔑まれていた。
そんなある日、他の騎手を斬る事件が発生。
原因は斬られた騎士ではあるが、エモリーの身分もあってエモリーのみが罰せられた。
理不尽のようではあるが相手の騎士は手出しをしてないばかりか、剣も持っていなかった。
つまり、エモリーが一方的に相手を斬ったので騎士道にも反するという事で
騎士団を追放さる事となったが、騎士団長はエモリーが一方的に
いじめや暴力を振るわれていた事を耳にしていたので、もっとしっかりと
調べ、追放でなく謹慎にし原因になった騎士にも罰を与えるべきだったと後悔していた。
なお、斬られた騎士はエモリーが追放された数か月後に騎士を退団したそうなので
余計に追放処分にした事を悔いていた。
騎士団長はせめて詫びようとエモリーを捜したが、数年かけても見つからなかったそうだが
レンゼ山へ向かう道で賊をやっていれば探しても見つからなかった。
しかし、エモリーの手配書は騎士団にもあったので、実は気づいていたのかもしれない。
気づいていてもあえて気づかない振りをしていたのか……。
騎士団長の本音はわからないので、いくら考えても自分の憶測でしかないので
これ以上考えるのはやめる事にする。
だがエモリーが騎士団長が話していたエモリーと同一人物なのは間違ないと思う。
騎士団長の表情はエモリーの事を自分に話してくれた時と一緒だったからだ。
エモリーが王都に入らず去ったのは、手配書があるだけでなく
騎士団長に出会う可能性があったためだろう。
それに、捕まれば騎士団長と顔を合わせる事になるので、それを嫌ったかもしれない。
しかし、騎士団長も年齢を考えれば本来ならば引退をしている年齢だ。
なので、単に捕まりたくないため、王都に入らなかっただけかもしれないが。
どうあれ、エモリーと騎士団長の事は個人の事なのでなので、あまり首を突っ込まない方がいいだろう。
だが、エモリーはたった2年間騎士団に居ただけであの剣の腕だと思うと
もし、騎士団に居たならならば、騎士団長が言う通り今頃騎士団長か
そうでなくても立派な騎士になっていたのだろう。
騎士団長が騎士の道を断ってしまった事を後悔したが、自分もエモリーが
賊になったことは大きな損失だと思っているが、もう元には戻れない。
ただ、自分が出来る事は……せめて賊をやめて欲しいと思いながら自室へと戻るのだった。
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