二代目の元へ集う者たち
ウルスの後を続き、川沿いに沿って少し歩けば山小屋が見えて来た。
巨体のウルスが住む山小屋だから、そのスケールも一段階大きく、人間の尺度で見ると自分が小さくなったのではと錯覚してしまいそうになる。
「着いたぞ」
その山小屋の元まで来れば、そこには来人たちの他に先客が二人居た。
正確に言えば、二人と二匹。
彼らがウルスの帰還に気付き、振り向く。
「――来人!?」
「げ、お前もか……」
そこに居たのは陸とティル、二人のライバルたちだ。
陸の肩にはイタチのモシャが、そしてティルの傍にはライオンのダンデ、二匹のガイア族の相棒も居る。
「ここに居るって事は、もしかして二人も――」
「うん。来人もお爺ちゃんに鍛えて貰いに来たんだねー?」
「皆考える事は同じって事か……」
図らずとも偶々同じタイミングで二代目神王の元を訪れていた三代目候補者たち。
仲良く話す来人の陸と対照的に、嫌う
「お前ら、二代目を気安く呼ぶな」
「おう、ティルもそんなカリカリすんなって。お前もお爺ちゃんって呼んでくれてもいんだぞ?」
「遠慮しておきます、二代目。それよりも、早く“あの技”を私に教えてください」
ティルの口にする“あの技”とは、おそらく――、
「ティル、それって
「……ふん」
来人が問えば、ティルは憎々し気に鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
しかし、それは同意を意味する物だろう事は来人には分かった。
「僕も
「陸もか。僕も『鯨』戦を見て、そう思ってたんだけど――」
ウルスが少し気まずそうに、がしがしと頭を掻きつつ答える。
「そうだな、
「そう言えば、ガーネもそんな事を言ってたな……。――お爺ちゃん、理由を聞いても良い?」
ウルスは少し渋い表情を見せた後、傍にあった倒木にどっしりと腰を下ろす。
「お前らは、
来人と陸は首を振るが、ティルは二人に見せつける様に一歩前に出て答える。
「こいつらの代わりに、私が答えましょう。
「ま、大体その通りだ」
ウルスは自身の右脚をばしんと強く叩く。
その右脚には大きくタトゥーが掘られていた。
「この紋様は、
「あれ? って事は、お爺ちゃんは今もその技を使い続けているって事?」
「そうだ。俺の右脚には相棒のアッシュの器が憑依したままになっている。そして、今の俺はアッシュの『分解』の
来人たちはごくりと息を呑む。
ウルスは相棒のガイア族と合体したままであり、その相棒はもう居ない。
「そんな代償が伴う技だったのか……」
「いいや、本来はこうはならない。技の使用後に元に戻るはずだったんだ。ただ、俺は“完璧にやり過ぎた”。完全にシンクロした二人の器は、完全に一つの器として融合してしまったんだ。その結果、アッシュを失ってしまった……」
本来であれば全く別の存在である二つの器が完全に一体化する事などあり得ない。
しかし、王であるウルスは上手くやり過ぎた。
完璧に、完全に重ねてしまった。
その結果、アッシュの存在はより大きなウルスの存在に呑み込まれて、消えてしまった。
来人と陸は表情を曇らせる。
そんな話を聞いて、
相棒のガーネとモシャを失うわけには行かない。
しかし、ティルは違った。
「二代目! 私はこいつらとは違います! 私なら、きっと
「――駄目だ」
ティルの訴えをウルスはぴしゃりと跳ね除ける。
「お前らも俺の血を引いている、王の血統だ。同じ様に完璧にやり過ぎて、相棒を失ってしまうかもしれない。制御する手段が無い以上、教えるわけには行かない」
ティルはまだ何か言いたげだったが、ウルスのその圧に言葉を呑み込む。
その少し重たくなってしまった空気の中、ガーネが口を開く。
「――ウルス様、ちょっと良いですかネ」
「うん? どうした、言ってみろ」
「
ガーネの突然の提案に、来人は驚く。
「おい、ガーネ!?」
「最近のらいたんは“ちょっとたるんでる”からネ。この機会にしゃっきりと打ち直して貰うネ」
来人はちらりとウルスの方を見る。
「そういう事なら、構わんぞ。びしばしと死なない程度に鍛えてやる」
ウルスは新しい玩具でも見つけたみたいに、楽し気に口角を上げる。
その様子に来人は少し身震いするが、修行を付けてもらえるのなら望むところだった。
「じゃあ、お願いします、お爺ちゃん!」
「おう、任せとけ!」
すると、そのやり取りを見ていた陸が飛び付いて来る。
「待って、僕も僕もー」
「おうおう、リクも一緒にやるか。――ティルはどうする?」
話を振られたティルは来人と陸を睨みつける。
「――ティル様」
「ああ、分かってる。――はい、お願いします、二代目」
相棒のダンデに促されて、ティルは渋々と首を縦に振った。
そんなこんなで、来人の当初の予定ではライバルの二人を出し抜こうとウルスの元を訪れたはずだったのだが、気付けば三人で一緒に修行を付けてもらう事になっていた。
それでも、来人にとっては共に研鑽する仲間が居るというのは心強い事で、陸という友人が共に居る事で修学旅行の様な胸の躍るイベントの様にも感じていた。
こうして、三代目
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