鬼人
祝勝会の後、地球へと戻った来人はテイテイと共に墓地に来ていた。
既に日付を跨ぎ、辺りは深夜の夜闇に包まれている。
来人は光源の玉をイメージで作り出し、宙に浮かせることで灯りとしていた。
「お疲れ様、テイテイ君」
「お疲れ様、来人。そして――」
「「――お疲れ様、秋斗」」
気づけば、もう秋斗の命日だった。
秋斗の墓の前で、二人は天界から持って来た酒を墓石に掛けてやる。
その下に秋斗の骨は埋まっていないが、それでも仇を討った、勝利を祝う酒だ。
「ついに、やったな」
「うん」
二人の手には、絆の三十字。
来人の手には秋斗の物も握られていて、ここに三本が揃っている。
二人は、勝利の余韻に浸る。
冷たい夜風が、二人の肌を撫でる。
そうしていると、背後に何者かの気配を感じた。
「誰か居るの?」
振り向くと、そこには来人が見た事の有る姿。
頭に三本の角、右腕は大きく
黒い表皮に覆われた人型。
「――『
あまりに殺気が無い物だから、てっきり一般人だと思って油断していた来人は一気に戦闘モードに切り替える。
テイテイも鎖を拳に纏い、臨戦態勢を取る。
しかし、『顎』の鬼は襲い掛かって来る事は無く、その場を離脱しようとする。
「待て!」
二人は『顎』の鬼を追いかける。
そして、木々を掻き分けて行けば、気付けば大きな湖畔に出ていた。
ここは、あの時の異界。
その湖畔の傍に、静かに佇む『顎』の鬼。
構える二人に対して、『顎』の鬼は一切の殺気を発さない事に来人は戸惑う。
そして、
「二人とも、久しぶり」
『顎』の鬼は優しく来人とテイテイに話しかけて来る。
その声色から、二人はすぐに分かった。
「もしかして、お前――」
「――秋斗、なの?」
姿かたちが異形の鬼だったとしても、その声色が、そして魂の色が間違いなく親友のそれだった。
「ああ、そうだ。来人、テイテイ君、会いたかったよ」
知らない顔で、知らない姿。
それでも、よく知っている親友の声。
「秋斗……。本当に、秋斗なんだね」
「そうだよ、来人。 鬼とは殺された物の魂が歪に変質した存在。つまり、『
「――でも、今こうやってまた秋斗として僕たちの前に現れた」
「ああ。
「確か、『
『赫』の鬼もまた、目の前に居る『顎』の鬼――いや、秋斗と同じ様に、鬼の姿をして人間の言葉を喋っていた。
「つまり、その鬼人っていうのが生前の記憶を取り戻した鬼って事か」
「流石テイテイ君だ、その通りだよ。我々鬼人は密かに数を増やし、裏で組織を成しているんだ」
「でも、『赫』の鬼は――」
「そうだね。あいつは我々の組織に加わるどころか、仲間を何人も殺した。生前からそういう奴だったんだろう、あいつは根っからの殺人鬼だよ」
しかし、その『赫』の鬼はもう居ない。
来人たちが討ち倒した。
「でも、秋斗にまた会えて本当に良かった。これからはまた、前みたいに三人で一緒に――」
「いいや。駄目だよ、来人。僕らはまたしばらく会わない方が良い」
「そんな、どうして!?」
秋斗の否定に、来人は声を上げる。
どうして、何故。
来人が求める親友が、目の前に居るというのに。
そう狼狽えていると、テイテイが口を挟む。
「来人、考えてみろ。お前は神だ。もし他の神が今の秋斗を見れば、どうすると思う?」
「それは――ああ、そうか」
「そうだ。他の神に見つかってしまえば、鬼人だとか生前の記憶が有るとか関係無い。問答無用で殺されて核にされてしまうだろうさ」
テイテイの言葉に、秋斗も頷く。
「ま、そう言う事だ。僕はあの時来人と接触して、鬼人として目覚めた。他の鬼人質も生前に近しかった者との再会をトリガーとして覚醒している。きっと、人間に戻る道も有るはずなんだ」
「つまり、秋斗は今人間に戻る方法を探しているんだね」
「ああ。これからはお互い別行動だが、来人たちも“鬼を人間に戻す方法”が無いか一緒に探して欲しい」
「勿論だよ! 秋斗とテイテイ君と、また昔みたいに三人で笑い合うんだ! その為なら、何だってやるよ!」
テイテイも頷き、拳を突き出す。
「ああ、俺たちは離れていても、繋がっている」
そのテイテイの拳に、来人と秋斗も拳を合わせる。
別れ際に、来人は秋斗に三十字を手渡す。
「秋斗、これ。秋斗の物だ、渡しておくよ」
「まだ持っていてくれたんだ。ありがとう」
秋斗は三十字を受け取り、首から下げる。
「それじゃあ、また」
「ああ、また」
「またね、秋斗」
異界の膜が、溶けて行く。
秋斗は去って行った。
この瞬間から、来人の目的は“秋斗を人間に戻す方法を探す”事になった。
そして、それは図らずとも藍を取り戻そうとする陸と同じ方向を向いていた。
二人の
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