大熊陸

 大熊陸おおくまりくと相棒のイタチの姿をしたガイア族モシャは自宅へ帰っていた。

 アクセスも悪い立地でお世辞にも広いとは言えない家だが、このくらいの規模ならペット一匹を除けば二人暮らしなので、まだ若い陸の神様の仕事の稼ぎでも何とかなっている。

 

「ねえ、モシャ」


 帰路の道中、陸は肩の上に乗せたモシャへと話しかける。


「どうしたんだい、陸」

「あいつ――来人、強かったねー」


 陸は半神半人ハーフだ、天界の神々からは幼い頃からもう一人の神王しんおう候補者――ティルと比べられる事も多かった。

 そんな事もあって、父が死んだ後からはあまり天界へは顔を出していない。

 それこそ核を返還し、報酬を貰いに行く時くらいだ。


「そうだね」

「来人、神の力に目覚めてどのくらいって言ってた?」

「……一週間くらい、だって」

 

 正確には一週間と少し経っているが、それでもその期間は――、


「――“短すぎる”ね。たった一週間で、あれだけの強さ――信じられないよ」


 陸は幼い頃から神として修業を積んで来た。

 そして、師事していた父の死後も一人と一匹で共に研鑽を積んで来た。

 それは神々の生きる時間からすれば短いものかもしれないが、陸にとっては人生の大半を費やしてきたのだ。

 だと言うのに――、


「二つ目の柱まで使って来るとは、予想外だったね」

「でも、来人に出来るなら、僕にだって――」


 陸は懐から取り出した王の証をに睨みつけ、握りしめる。

 今柱として使っているのは王の証、そのスキルは『炎』だ。

 しかし、これだけでは足りない。

 来人に、追い付かれる。

 

「陸は、悔しいのかい?」

「どうだろう。でも、もやもやする。――オレ様は、負ける訳には行かねえんだ」


 一瞬、陸の髪が白金に染まる。


「そうだね。でも、陸なら大丈夫さ」

「ああ」

 

 来人とガーネ、陸とモシャ。

 やはり似た者同士だ。

 同時刻に互いに同じ様なやり取りをしていた事なんて、彼らは知る由も無いが。

 

 現状の実力差ではまだ陸の方が勝っているだろう。

 しかし、たった一週間であそこまで自在に神の力を扱う来人。

 この先、どこまで成長するのか――。



 帰宅。

 

「あ、おかえり。陸、モシャ」

「ただいま、藍ー」

「お疲れさま、ごはんできてるよ」

「ありがとー」


 藍と呼ばれた女性は慣れた手つきで食事を配膳して行く。


 藍は陸の幼馴染の女の子だ。

 銀髪の長髪が特徴的な、まるで作り物の様に美しい少女。

 陸が両親を失って以降、それこそ本当の家族の様にずっと共に暮らしている。


 二人と一匹は食事を摂りつつ、今日あった事を互いに話し合った。


「――そう、お友達が出来たんだ」

「うん。僕と同じ神王候補者で、来人っていうんだー」

「そう、良かったね」


 藍は静かに、淡々と陸の言葉を聞いていた。


「藍はどうだった?」

「うん。動画投稿やってみたら、意外と見てくれる人が居るみたい。感想とかくれて面白いよ」

「そっか。藍のご飯は世界一美味しいから、きっとみんな参考になると思うよー」

「そうだと良いな」

 

 最近、藍は得意とする料理を作っている様子を撮影して動画配信サイトに投稿してみていた。

 陸の思い付きからのアドバイスの元、運が良ければ収入源になるのではないかと始めてみたのだ。


 スマートフォンで撮影したものだが、最近ではパソコンがなくとも簡単な編集も出来る。

 そんな簡素な動画だが、藍の綺麗な容姿と淡々とした口調からの分かりやすい説明、そして完成した美味しそうな料理が話題を呼び、ちょっとした“バズり”を引き起こしていた。

 もっとも、あまりインターネットに詳しくない藍からすれば“ちょっと感想をもらえた”くらいの物だと思っていて、それが所謂バズり現象である事に気付いてはいなかったが。

 

 同じく陸も忙しくて実際の藍のチャンネルをまだ見ていないので、気付くはずも無く。

 二人がそれに気づくのは、もう少し後の事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る