核
――速い!
鬼は一瞬で距離を詰め、その槍の様な腕で刺突を繰り出す。
反応が、間に合わない。
しかし、来人と鬼の間にユウリが割って入る。
ユウリの
結晶で出来た双剣を作り出し、その両の刃で刺突の一撃を受け流した。
「らいたん!?」
「来人君、大丈夫ですか!? すみません、手を出しちゃいました」
「いいや、すまないユウリ。油断した」
「あれ、なんだか印象が違う様な……」
鬼は一度後方へと退避する。
そして、そこに体勢を立て直した来人の反撃だ。
地を蹴り、鬼へと剣を振るう。
しかし、鬼は先程と同じ様に直線距離の超高速移動。
来人の一振りは空を切る。
「くそっ」
「来人君! 神の力を使うのです! 心の中に、あなただけのイメージが――“色”が有るはずです!」
ユウリの『結晶』の様に、そしてガーネの『氷』の様に。
来人の、色。
(――イメージを描き、世界を彩る。俺の
来人が力を振るう。
心の内で想像した『鎖』は、現実に創造される。
倉庫内のありとあらゆる“隙間”から鎖が現れ、倉庫内を張り巡らす。
それは檻の様に鬼を囲う包囲網だ。
「鎖の檻だ、これでその高速移動も使えないだろ」
先程鬼の見せた一瞬の間で距離を詰める超高速移動。
観察していれば、その全ては直線距離の移動しかしていない。
ならば、この鎖に囲まれた中では満足に動く事も出来ないだろう。
狙い通り、鬼は動きを止める。
鬼は腕の槍で鎖を断とうとするが、その程度で切れる程甘くは無い。
十字架のアクセサリー――三十字を柱として想像し、創造した『鎖』は強固な絆の鎖だ。
槍が鎖を叩く甲高い金属音だけが倉庫内に響く。
――好機だ。
“出来る”と言う想像が、あらゆるイメージを現実の物とする。
神となった来人の身体能力は飛躍的に向上していた。
来人は鎖を足場として、倉庫内を駆けまわる。
そして、袖口の隙間から発射した鎖を天井に打ち込み、そのまま巻き取り、その鎖を巻き取る勢いで来人の身体は一気に上空まで打ち上がる。
「はあああぁぁぁ――!!」
そして、上空から重力を乗せた金色の剣による一閃。
逃げ場を失った鬼は腕の槍を交差させる事で防御の体制を取るが、しかしその細腕は容易く砕け散る。
そして、そのまま鬼の身体を金色の刃が二つに割いた。
「ギ、ギギ……」
断末魔と共に、鬼の身体は端から炭のように黒くなり、ボロボロと崩れて行く。
やがて崩れた身体は塵と成り、風に乗って消えて行った。
カラン、と何かが地面に落ちる音。
鬼の居た場所に、最後に残った歪な形をした石ころが落ちた。
「やったネ!」
「来人君、流石です!」
鬼は討たれた。
来人の持つ剣は十字架に、そして髪の色も白金から明るい茶へと戻って行く。
そして、来人は落ちたその石ころを拾い上げる。
「……これは?」
「それは鬼の“
「え? 魂って、これが……?」
来人は手に持った石ころを眺める。
半透明で、赤とも黒とも付かない混沌とした色の石。
それが、魂だという。
「あれ、知らなかったんですか? 鬼も、元は人間の魂ですよ」
――え?
来人の手から、石ころ――核が滑り落ちる。
カラン、と乾いた音。
「おっと、これはネが預かっとくネ」
そう言って、ガーネは落とした鬼の核を口に咥えて、そのまま呑み込む。
ガーネやユウリはさも当然と言った風だが、来人の内心は動揺していた。
知らず知らずのうちに人間の魂を斬っていたと思うと、あまり気持ちの良い物では無い。
「偶に突然変異的に死した魂が
「歪に変質って、例えばどういう――」
「まだ鬼については解明されていない事が多いですが、良くない死に方をすると魂は
魂が歪む程の“良くない死に方”――その言い方的に、それがどういう物を指すのか。
そんな事、まだ経験の浅い来人にも想像出来た。
普通ではない良くない死に方。
「つまり――」
――“殺された者の魂”。
事故や病気、寿命ではなく、他者によって害され、死した魂の成れの果て。
それが、鬼の正体だ。
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