作戦を伝えられました

 恥ずかしさを抱えたままギルドに行く。ルナの手枷が目立っているが仕方がない。これは俺に対しての罰でもあるんだろう。当のルナはなんかちょっと落ち込んでいるな。部屋の中では拘束されると嬉しそうだったのに外では何かに怯えている。よくわからない、いや本当に意味が分からない。過去のことを知っても、こうなる理由がよくわからないんだけど。


「おい、結局作戦はどうなったんだ。若大将殿」


 ギルドに入るなり、冒険者に聞かれた。というか、若大将ってなんだ。


「作戦は分からないから今、ギルドに来たんだよ。あと、若大将ってなんだよ」

「お前の今回の役職名みたいなもんだな。俺たちできめたんだ。格好いいだろう?」

「そんな胸を張って言われてもな……」

「だが、ここにいる全員の総意だから覆すことはできないぜ」


 マジか。まさかこんなところで若大将って言われるとは思ってもみなかった。


「それよりもう行っても大丈夫か。ギルドマスターに呼ばれているんだよ」

「ああ、それは引き留めて悪かったな。早く行ってこい」


 冒険者たちに見送られて、階段を昇る。こうやって、冒険者と交流を持つのは実は悪いことではなかったのかもしれない。ここにいる連中と依頼をこなしていたらまた違う景色を見ることが出来たのだろうか。でもそれは過ぎたことだから悔いても仕方がない。何があろうとも時間は戻らないのだから。

 案内をされたのは昨日と同じでギルドマスターの部屋だった。


「翔太さんをお連れしました」

「入れ」


 昨日と変わらないやり取りではあったが、明らかにギルマスの声が疲れている。これは間違いなく夜を徹して作戦を練り上げていたな。


「失礼します」

「来たか、とりあえず座るといい。作戦はそれから説明しよう」

「ギルマス、大丈夫ですか?」

「大丈夫ではない。あれからお前を呼びにいくまでずっとここで詰めていたのだからな。だが、おかげで政治的なものは最大限配慮しつつもきちんとしたものにはなったと信じている。あとは翔太に見てもらうだけだ」


 ギルマス含め、作戦を企画立案した軍の司令官、街の執政官、国軍の将官も同様だ。


「それで作戦はどのようなものになったのでしょうか」


 ギルマスは地図を広げ説明を始めた。


「翔太も想像がついているかもしれんが、この街においては個々人の戦力としては冒険者の方が軍人よりも強いものが多い。しかし一方では軍には兵器と人員がいる。そこで、冒険者と軍の一部エース級の兵士には最前線で魔物の討伐にあたってもらおうと思っている。また、それ以外の軍で砲撃等、兵器を用いた援護を行ってもらう。強化魔法が使えるものに関しては国軍兵が多く冒険者は少ないが、それに関係なく一緒になってもらい、最前線で戦う者たちに魔法による支援を行ってもらう。

 また、街の住民の誘導といった安全管理は同様のことを行った経験の多い、兵士に任せる。魔法をメインとして戦うものはその者が最も得意とする魔法の特性によって最前線か、その後ろかになる。冒険者の戦い方を鑑みるに、冒険者で魔法を使うものが最前線、国軍の魔法を使う兵が後ろという戦い方になるだろう。


 そして我々が陣取るのはここだ」


 ギルマスが石を置いたのは街の外に広がる平原で森に近く、街から離れた場所だった。ここまでのことを聞いてみても悪くはないと思う。全員が力を出し切ることのできる配置になるだろう。ここまで持っていくのに調整が大変だったことは4人の疲弊具合を見れば分かる。


「それで俺たちの方でも分かるとは思いますけど、魔物の襲来はどうやって全体に伝えるのですか?」

「この街の城壁含め、平原から近く高さのある場所に目の良い者を配置し、見え次第のろしを上げさせる」


「そののろしについては一人が見えなくても問題ないように1つの場所には2,3人配置するのがいいでしょう」

「確かにその通りだ。では二人は最低でも配置することにしよう。それで作戦の方はどうかね」


 穴はないように見える。しかし穴がないときほど気を付けなければならない。綻びの大小関係なく、それが生じたら立て直すことが難しくなってしまう。


「穴がないのがむしろ怖いですかね。プランは一つだけでなく、もう一つ用意しておくべきです。作戦自体に問題があるわけではないですが……」

「なるほどつまり陣形が崩れたときの策も講じておくべきだと、貴殿は言うのだな」

「その通りです」


 腕を組む軍の司令官が扇子を仰ぐ執政官。ギルマスは目を閉じている。国軍の将官だけが俺をまっすぐ見ていた。


「私たちはどうも疲労で単一的な考えに至っていたようですね。ですが、陣形が崩れたときなどどうすればよいのか」


 そこが問題だ。退却している間にも魔物は襲ってくるのだ。その間の攻撃をどうするかが課題だろう。距離を取りつつ、しっかりとダメージを与えられる方法か。


「まるで戦争のことを考えているようだ。魔物相手だというのにな」

「いえ閣下、魔物の大群です。それも比較的統率が取れている可能性があるというのなら、下手な軍よりも戦争をしていると言えるでしょう」

「それもその通りだな。それでギルドマスター殿はどうしたらよいと考えるか」


 その問いにはギルマスも沈黙してしまう。この場にいる全員が手詰まりである。


「あの、つまり距離を取りながら攻撃して、最前線で戦っている人たちが後退できればいいんですよね」

「ルナ、なんか考えがあるのか!」

「い、いえ砲撃をしている場所から爆発するような砲弾を撃ち込むことが出来れば魔物の気も引けるし、その間にできるのではないかと」


 確かにその手なで魔物の注意を引くことが出来れば……


「残念だが、現在、軍にはそのような砲弾はない。いや、厳密には破裂する砲弾はあるのだが、魔物の気を引ける程のものがあるかというと微妙だ」

「では魔法ではどうでしょうか」


 ルナが冴えている。


「爆発ではないが、巨大な光を放つことが出来る魔法を使えるものに一人心当たりがあるな。そのものにはこちらから招集をかけよう。この緊急依頼自体は受けているはずだから大丈夫だろう」


「これで決まりだな。この作戦で行くぞ。まだまだ修正すべき点はあるかもしれんが、この短時間でこれ以上の修正をかけるのは不可能だろう。そして作戦の決行は明日の朝だ。明日の朝に、平原に移動していつでも攻撃できるように態勢を整えるぞ」

「翔太、理解したな。下の冒険者たちに伝えてきてくれ。そのあとは各自、休息をとるようにともな。それでは明日の朝会おう。期待している」


 ルナの言葉で大きく事態は動いた。とんだ功労者だ。

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