三章「奴隷と大規模戦闘」

奴隷に襲われかけました

「やっぱり作戦の立案で揉めてそうだな」

「そんなこと分かるんですか?」

「だって、夜寝ている間に誰も来なかったじゃないか。決まりしだい使者をよこすというようなことを言っていたのにそれがなかったんだ。まとまっていないという以外にないよ」


 宿屋に戻って、夕飯を食べて風呂に入って寝た。そして目が覚めたら朝だったわけだがそこまでに誰も使者が来なかったわけで、つまり、俺を呼びにこなかったということはまだまとまってはいないということだ。


「緊急事態のはずなのに作戦もまだ決まっていないなんて大丈夫なんでしょうか」

「まあ、冒険者だけじゃなくて、複数勢力が入っているからな。それぞれの戦力的にも政治的にも決めるのが大変なんだと思う。それに緊急事態であるからこそきちんとした作戦を立てて欲しいし。ま、あそこにい人たちなら多分上手くやると思うけど」

「確かにしっかりとした話し合いをしていそうではありますよね」


 とは言えこればかりは信じるしかない。俺が出来るのはきちんとした作戦であることを祈り、それに対しての意見を述べるだけだ。そしてその作戦でこの街を強襲するであろう魔物の大群を蹴散らす。それが俺のやるべきことだ。


「でも呼びに来ると言っている以上、ここかギルドにしか行くことが出来ないしやることがないんだよな。何しようかな。ルナは何かしたいこととかある?」

「私は何でもいいですけど、ご主人様は昨日魔力切れに近い状態になっていフラフラになっていたのにもう大丈夫なんですか? もう少し休んだ方がいいんじゃないですか?」


 何と、ルナは俺の体調を心配してくれている。これは驚いたし嬉しいな。


「俺のこと気にしてくれているなんて感動ものだよ」

「大げさです。私は、私をそれなりの条件で今後も養ってくれるであろうご主人様が倒れられるとどんな環境で働かされるかわからないので、なるべく生きていて欲しいという利己的な気持ちからです」


 それを言っちゃうかね。俺のこと都合のいい主人であるとしか見ていないと言っているのと同義だぞ。でもそれを言っても問題ないくらいには信用してくれているということか。過去のことも話してくれたんだ。でも、なんだかなあ……。神様、俺は今、とても複雑な気持ちになっています。どうしたらいいのでしょうか。

 しかし祈っても神託が降りてきて、神の言葉を頂戴できるなんてことはなく、自分で考えるしかない。絶対に神は笑っている気がする。


「なんだかとても複雑な気分だけど、少なくとも俺は大丈夫だよ。あれくらいの魔力使用なら少し休めば回復する。すっからかんになったらもう一晩はかかるだろうけどな」

「丈夫なんですね」

「丈夫だから強い冒険者をできているんだ」


 強い冒険者になれば頑丈になると思ってる人がいるかもしれないが、俺は逆だと思っている。頑丈な人が強い冒険者になれるのだ。何事も健康からだ。


「私も追いつけますか?」

「そのうち追いつけるとは思う。俺より小さな範囲での魔法は上手だと思うし、戦い方次第ではどうにでもなると思う」


 ルナは今まで鍛えていなかっただけで、天性の才能を持っている。その天性のものを活かすも殺すも俺とルナ次第だ。きちんと強くなれるように手ほどきしないとな。


「私がご主人様よりも強く戦えるイメージが湧きません」

「俺を超す気だったのか。それは簡単にはいかないだろう。少しずつステップアップしていけばいいんだ。無理にジャンプしたり背伸びをする必要なんてない。それよりも自分のできることを少しずつ増やしていけば必ず強くなれる。今は分からないかもしれないけど、それをいつか実感する日が来るさ。この仕事が終わったら外で魔法の訓練でもしよう」


 ルナと魔法の練習は実はしていない。色々と部屋でいじめて涙目にしたいし、するつもりだが、それよりもしなくてはいけないのはルナの基礎戦闘力の向上だ。実践も大事だが理論も大事だ。昨日までの生態調査と数日内にある魔物の大群との戦闘で実践は申し分ないくらいに経験できるだろう。あとは理論や基礎的なことをきちんと習得するだけだだろう。まったく、ある意味ではタイミングもいいということか。


「それにしても暇ですね。本当にギルドの人たちは呼びに来るのでしょうか」

「来ないなら、ここにいよう。ギルドに行ったって、目立って疲れるだけだろう」


 そして、ルナに俺の近くに来るように言うと、ゆっくりと近づいて座ったので、その耳元で尻尾撫でてもいいかと小声で尋ねてみた。ぜひ、その毛並みの良い尻尾で癒されたい。


「嫌に決まっているじゃないですか! この変態!!」

「待て、早まるな! 杖を構えて俺に向けるなやめろ。何を発動させようとしているんだ! 俺を殺す気か!」


 猛烈な拒否感を示したルナが涙目でぐるぐるになって俺の方に杖を向けている。しかも魔法陣が出てきている。あ、やばいどうしよう。これじゃ、俺もルナも宿屋もただじゃ済まないかも……


「ひ、いやああああああぁ。いたい!いたい!やめてえぇ」


 ルナの悲鳴が聞こえて閉じていた目を開けると、魔法陣はなくなり、代わりにルナの手の甲にある奴隷紋が綺麗に光を放ちルナを苦しめていた。相当に激痛なのだろう杖を落として膝を床につけて悶えている。何の魔法を使おうとしたのかは分からないが、俺に攻撃の意志ありと判定されて奴隷紋は発動してしまったのだろう。まったく迂闊な奴め。


「おーい、生きてるか?」

「し、死ぬかと思いました」


 手の甲から光が消えると、痛みも消えたのか本当に涙を流して肩で息をしている。


「まったく、何を使おうとしたのか知らないけど俺に攻撃なんぞ当てようとするからだ。俺に攻撃を充てることもそうだが、建物の中で攻撃魔法なんぞ使うな。壊れるだろうが。少しは頭を冷やせ」

「も、申し訳ありませんでした。あの、私はどうなるんですか……」


 このどうなるのかというのはきっと、殺すか、それとも奴隷商に返品かのことを言っているのだろうがあいにくと俺はそんなつもりはない。


「そうだな、ご主人様である俺に歯向かったんだ。相応のお仕置きが必要だな。準備するからそこで正座して待ってるんだ」

「はい……」

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