第3章 奪還作戦
24話 冷酷に、確実に
わたしは、なるべく王族とわかるような威厳を保つよう気を張り、ヴィドの前へ立った。
ルークス王子のもとへ忍び込んだあの日、わたしはすぐにお父様へ謁見を申し込んだ。もう、わたしひとりの力ではどうにもならないと思ったからだ。そこでお父様から得た知見と力を携え、ここへ戻ってきた。
ヴィドたちを助けたいというのは、わたし個人の意思だ。でも、それだときっと、この前と同じように彼に拒絶されてしまう。だからあえて、今日は王族としてふるまう。ヴィド以外の猟師たちから見れば同じかもしれないけれど、彼ならきっと、意図をくみとってくれるだろう。
「三日後に、皆さんの脱出計画を実行します。これから内容を説明するので、よく覚えておいてください。なお、今回の計画は我が国の王命です。わたしの言葉は、国王イセリオスの言葉として聞いてください。皆さま、協力をよろしくお願いします」
王命、という言葉にわずかなざわめきが生まれる。なぜ猟師を助けるのに王の命令が、といぶかしんでいるのだろう。しかしヴィドだけは違った。わたしの真意を探るかのように、じっとこちらを見ている。わたしはその視線に気づかないふりをして、淡々と作戦内容を告げた。
「まず、あなた方の作戦指揮者はヴィド・ランゲルとします。緊急時は彼の動きに従ってください」
「お待ちください。俺はそんな指揮能力はありません」
「これが国王の指示です」
わたしがあえて冷たい目線をヴィドに向けると、彼は黙った。罪悪感が胸元までこみあげてきたけれど、気合で抑えて話を続ける。
「まず、今日の午後、ベズたちが狩猟の番になっているかと思います。その際、ベズから周囲の『影』たちに、『新たな狩りの仕方を学べばクイールをもっと狩れるかもしれない』と言って、オルセン王国の猟師全員での狩りを提案してください」
「お、おれが、ですか?」
「ええ。最も若い貴方からの提案が、一番説得力があると思います」
「わ、わかりました」
やはり牢に訪れたわたしに一番最初に話しかけてきたベズは、若いけれど肝が据わっているようだ。突然仕事を振っても、戸惑いながら頷いてくれた。
「ルークス王子は集団での狩りをしたいと考えているようです。おそらく、周期的にみても、三日後に狩りは行われます。その際ヴィドは、ついてくる『影』の人数と配置を確認して、わたしに教えてください。『影』がいる位置に目線を向けるだけで、わたしには伝わります」
「王女様が、狩りの場にいらっしゃるということですね」
ヴィドの確認の言葉に小さく頷く。彼はわたしの「隠密」を見抜けるほどの技量の持ち主だ。姿を見せている『影』の気配を探知することは容易だろう。
「ええ。そしてわたしが得た情報をもとに、『光陰』が動きます。合図と同時に『光陰』が『影』を制圧。その間、万が一の確認漏れがあるといけませんので、猟師の皆さんは警戒を怠らないでください。
すべての『影』を制圧後、特務救護隊が皆さんを保護して、王宮までお連れします。皆様にはいろいろと伺いたいことがあるので、少しの間王宮に滞在いただくことになりますが、その後は今まで通り猟をしていただけるよう、国王は考えていらっしゃいます」
「『光陰』が来る、ということは、王女様が今回の作戦の指揮官なのですね」
「ええ。先ほど今回の作戦は王命である、と申し上げましたが、今回の作戦指揮は、わたしに一任されております」
『光陰』に直接指示を下せるのは、本来ならば国王だけだ。しかし、お兄様が外遊で不在の中、お父様までもが王宮を離れるわけにはいかない。よって今回は例外的に、『光陰』はわたしに従うようにという王命が下された。期間限定ではあるが、お父様の部隊を預けられたわたしの責任は重い。
「……おれ、今まで王族の方って偉くて遠い存在だと思ってたんです」
ふいにベズが口を開いた。そちらに目をやると、彼ははにかむように微笑んだ。
「でも、ここまでお一人で来られたマニー王女様のことなら、信じられます。おれ、作戦頑張ります」
「ありがとう。わたしも、最善を尽くします」
猟師側から、作戦に同意するという言葉が出たのはありがたい。同じく賛同の言葉が欲しくてヴィドを見やると、彼は厳しい顔つきのまま頷いた。
「王命ということであれば、オルセン王国のいち国民として従います。イセリオス国王のために、最善を尽くします」
「ええ。よろしくお願いしますね」
わたしは、強い胸の痛みをこらえながら頷いた。本当は、ヴィドには「マニー様のために」と言ってほしかった。でも、頑固で優しい彼は、王の命令で動く王女に従うという形でしか、わたしの作戦には賛同してくれなかっただろう。己の身のために、わたしの安全を危険にさらしたくないと言って。だからこんなまどろっこしくて仰々しい、わたしらしくないやり方で作戦を進めることになってしまった。
「では、三日後に西の森の中で」
地下牢を出たら、無理やり気持ちを切り替える。過程はどうであれ、ヴィドを助け出すことが優先事項だ。あそこまで仰々しく振舞った以上は、きちんと結果を出さなければならない。
(ヴィド、きっと助け出してみせる。オルセン王国に一緒に戻ったときには、わたしに対するいらない遠慮を取っ払ってみせるんだから)
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