鍵
「今日のお客は、なんだらほいっ。」
事務所の奥で、楓さんはテレビを見ている。
ソファーに寝そべって。。。。
― ニャー ―
― カランカラン ―
女性が扉を開ける。
「こんにちは。」
俺は挨拶をした後に、一礼をする。
これがお店でのマナーらしい。
女性も軽くお辞儀を返すが、言葉は発さず首を左右に振りながら、事務所全体を何となく眺めている。
こういう時、俺はこれ以上何も話しかけない。
相手には相手のタイミングがあることを俺は知っている。
気にしない素振りをして、ミケと戯れている。
すると、
「あ、あの。。。」か細い声で女性が、俺に話しかける。
俺は『待っていました!』という気持ちを抑えて、目線は下に「はあーい。」と返事をする。
「この写真のキーケースを探してほしくて。」女性は、俺のいる机の上に写真を1枚置く。
「お探し物ですね、鍵ですか?」と言いながら俺はミケに『ごめんね』と伝え遊びを中断し、写真を覗く。
「はい。自宅と実家の鍵が1本ずつ付いていて。」
「鍵が2本。赤い色をしたキーケース、ですね。」俺は、写真を見ながらメモに書き留め、
「その他、何か特徴はないですか?」と続ける。
「えっと、、、、。」女性は言葉に詰まる。
「例えば、生地は革ですか、それともプラスチックですか?」
「確か革、牛革だと思います。」
「牛革ですね。後は、ファスナーとかボタンとかはありますか。」
「ボタンです。3つ折りにして、最後ボタンで留めていました。」
「分かりました。後は、何かシールとかお名前とか目印とかはありますか。」
「特に、特になかったと思います。あ、でも、RSWのメーカーだったと思います。」
「RSWですね。RSWって、キーケースも作っているんですね、知らなかったです。」
「はぁ。。。」
楓さんからは『情報は一つでも多くあった方が良い。言葉数の少ない相手からは特に、相手の言葉や様子・仕草あるいは持ち物といった一つ一つの情報を観察して情報を更に引き出すように意識して応対するように。』と言われているが、これがなかなかうまくいかない。
「あ、いえ、すみません。こちらの写真は頂いてもよろしいですか。」
「写真は、、、ちょっと。。。」
初めから下向きがちの様子が、更に下を向いてしまった気がした。
「そうですよね、大事な写真ですもんね。では、こちらのコピー機でコピーしても良いですか。」
「それなら。」
「ありがとうございます。では、少しお借りしますね。少々お待ちください。」
俺は机下にある使い捨てのビニール手袋を付けてからその写真を拝借し、机の横にあるコピー機で印刷を掛ける。
― ピー ―
「はい、こちらお返ししますね。ありがとうございます。」
俺は、手袋をしたまま写真をコイントレーの上に置き、女性の近くまでコイントレーを押し出す。
女性は軽く会釈をしながら、写真を受け取り、鞄の中にしまい込む。
「それでは、支配人をお呼びしますので、詳しいお話はそちらで。」
俺は、女性を個室へと誘導し、楓に声を掛ける。
「少年よ。よくやった。後は私に任せろ。」
そう言って、楓さんは創の肩をポンポンと叩き、依頼者の控える個室に入っていった。
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