7話「彼女の事情」

 さて、なにはともあれ、ミチルとのお出かけだ。

 これは一応デートということになるのだろうか? はたから見れば、妹か親戚の子供の御守おもりをしているようにしか映らないだろうけど。


 姿見の前でセルフファッションショーを展開する。

 カジュアルにいくか、フォーマルにいくか、奇抜にいくか。


 けっきょく俺は、ブルージーンズと七分袖の黒いTシャツを着て家を出た。いつもどおりのラフな格好だ。


 もはや俺たちの拠点と化しているほねほね公園のベンチで、彼女は待っていた。

 俺は十分前にはつく予定で家を出たというのに、彼女はさらに早く家を出たようだ。


 入口に差しかかったあたりで、ミチルは俺に気が付いた。

 彼女はベンチを立ち、こっちに駆け寄って来る。


 ただでさえ天使のミチルさんは、純粋無垢の代名詞ともいえる純白のワンピースをお召しになられていた。

 いつもは後ろでむすんでいる長い髪が解放されており、走る度に爽やかに揺れる。


 こりゃあ、ロリコン連中ならイチコロだな。

 むろん俺は大丈夫だ。純粋にかわいいと思うけど。


「ごめんね、遅くなっちゃって」

 俺はまったく遅れてはいないのだが、一応後から来た者の礼儀として言う。


「ううん。私が早く来すぎちゃっただけです」


 どこに行くかはまだ決めていない。


「あ、そうだ、五月くん。スマホの連絡先教えて下さい」


「え? ミチル、スマホ持ってたんだ」


「はい。今までは学校帰りに公園によっていたので、スマホは家に置きっぱなしだったのです。学校に持っていくと、没収されちゃうのです」


 連絡先を交換。


「うわぁ、なんか嬉しいです!」


 ミチルは、アドレス帳に俺の名前を追加できたことがすごく嬉しいらしく、しばらく画面を眺めてニコニコしていた。

 ちなみにLINEはやっていないらしい。最近の若い子はLINEをやらなくなってきているという話は、本当なのかもしれない。


 とりあえず、気の向くままに行動した。

 ゲーセン、ファミレス、カラオケ、カフェという順番で楽しい時間を満喫すると、時間は早くも午後五時。


 今は街中をぶらついている。


「そういえば、ミチルって門限何時なの?」


「モンゲンってなんですか?」


「家の、なんていうか、この時間までには絶対に帰らなくちゃダメっていう、決まりみたいなやつだよ。ミチルはまだ小学生なんだから、両親も心配するでしょ?」


「ないです」


「え?」


「親とほとんど顔を合わせないので、その、そういう決まりはなくて、その、何時に帰っても怒られたりはしないのです」


「ご両親は共働き?」


「ええと、その……あの……」

 ミチルは目線を落として言いよどむ。


「ごめん。変なこと聞いちゃったかな?」


「いえ、大丈夫です……」


 俺は無理に詮索しようとはしなかった。


 電車に乗って、辺鄙へんぴな自宅周辺に戻った。

 そのあいだ、ずっと無言だった。


「今日は楽しかったです。また遊んで下さいね」


 ミチルはそう言い残し、家に向かって歩いて行った。


 俺は、ミチルの寂しそうな背中をただ見つめていた。

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