第20話

 「どうやら、大外れを引いちまったみたいだ」 

 

 変異種とは、稀に出現する通常より強力なモンスター。ランクとレベルに見合わない高いステータスやエクストラスキルを持つことが多く、ゲームだった頃は油断して返り討ちに遭うプレイヤーを少なくはないがその分レアなドロップアイテムが入手することが多い。


 ゴブリンキング・メイジは物理攻撃と魔法攻撃に加え、同族を統率するエクストラスキルを持つが、高く見繕っても中級でレベル20だから、俺たちの脅威にはならいけど······フェルネスには厳しいか。


 「フェルネスは下がって、ここは俺が──」


 「私に······任せてください」


 「えっ?」


 「私に、任せてください」


 ムクロはフェルネスの一言に驚いた。


 「ダメだフェルネス! 君のレベルじゃあ、まだ太刀打ちできない! なら俺が──」


 「わかってます!」


 フェルネスが初めて大声で叫んだ。


 「私だって、敵わないのはわかってます! 今でも······怖いです!」


 「だったら──」


 「だけど、私は······いつまでも守られていたら、だめなんです! だからお願いします!」


 「フェルネス······だけど······」

 

 ここはフェルネスの意志を尊重すべきか? だけど、ここはゲームの世界じゃないから生き返れるわけじゃない……


 ムクロはフェルネスの眼を見ると、恐怖はあるが迷いがないように感じた。


 「······わかった······だけど、むちゃはしないこと、いいね?」


 「はい!」


 「うん······相手はゴブリンキング・メイジ。ゴブリンキングの変異種で物理攻撃と魔法攻撃に加え同族を統率するエクストラスキルがあるけど、最後のは無視してもいいあらかた片付いたからな」


 「はい!」


 「あのでかい杖で棍棒のように振り回して物理攻撃するけど、距離をとれば問題ない。魔法攻撃は強力だから注意が必要、いいね?」


 「はい! 行ってきます!」


 フェルネスはゴブリンキング・メイジに向かって駆け出した。


 「マイマスター、よろしかったのですか?」


 「よろしくはないだろうね。今のフェルネスのレベルじゃあ、変異種のゴブリンキングには勝てない」


 「でしたら、どうして?」


 「俺もよくわからない。けどこれだけは言える······フェルネスは強くなると思う」


 フェルネスはゴブリンキング・メイジの近くまで来ると足を止めて短杖を構えた。


 あの大きい杖は魔法を放つだけでなく、棍棒のように振り回して物理攻撃もするってムクロは言ってた……杖が届かない距離を保ちながら魔法で攻撃──


 「グァァァァァァァァ!」


 ゴブリンキング・メイジは奇声を発しながら杖を振り上げ、フェルネスめがけて杖を振り下げた。


 「うそっ!? 速い!?」


 フェルネスは攻撃を右に避けるが、転倒するも立ち上がりそのまま走りゴブリンキング・メイジの背後に回りこみ、短杖を構えた。


 「くらいなさい!──〈火球ファイアーボール〉!」


 短杖の先から〈火球〉を放ち、ゴブリンキング・メイジの後頭部に命中し爆発が起こった。

 

 「やった!」


 「──グァァァァァァァ!」


 奇声とともに爆煙が晴れるが、ゴブリンキング・メイジの頭部には傷一つ、ついていなかった。

 ゴブリンキング・メイジは怒ったかのようにフェルネスにめがけて持っていた杖を縦横無尽に振り回した。フェルネスは攻撃が当たらないように急いで距離を離した。


 「今の効いてない!? だったら──〈砂の束縛サンドバインド〉」


 フェルネスが魔法スキルを唱えると、ゴブリンキング・メイジの足元が砂になり沈み始めた。


 「これでしばらくはそこから動けませんよ。私は安全圏からあなたを攻撃します」

 

 フェルネスが短杖を構えたと同時にゴブリンキング・メイジは振り回していた杖をフェルネスに向けた。


 「何をしても無駄です。あなたはそこからは動け──」

 

 「──フェルネス! そこから逃げろ!」


 フェルネスはムクロから言われているまで、忘れていた。ゴブリンキング・メイジは──魔法が使えることに。


 「■■■■■■!」


 ゴブリンキング・メイジが何かを唱えた瞬間、フェルネスが放った〈火球〉より数倍、巨大な火の球が放たれた。


 「えっ?」


 気づいた頃には、巨大な火の球はフェルネスの目の前で爆発、爆音と爆風があたりに広がった。


 「フェルネスっ! そんな今すぐに──」


 「待て」


 ムクロは駈け寄ろうとするが、センの腕が前に出た。


 「セン! どいてくれ! フェルネスが!」


 「主、よく見ろ」


 「えっ?」


 煙幕が晴れると、そこには片膝をついたフェルネスが現れた。


 「フェルネス! でも、どうして?」


 ムクロはフェルネスをよく見ると、全身に半透明の何かを纏っていた。


 「あれは?······〈大気の壁エアウォール〉!? まさかフェルネス、攻撃が当たるまでの一瞬で〈大気の壁エアウォール〉を発動させて身を守ったのか······けど〈四属性魔法〉レベル1の防御魔法スキルじゃあ、中級ましてや変異種の攻撃を防ぐのはほぼ困難なはず、なのにどうして?······そうか、【聖魔女学院の聖装】と【精霊守護のマフラー】の装備スキルか」

 

 フェルネスはムクロから貰った装備品でもあるS級装備【聖魔女学院の聖装】の魔法攻撃に対して防御力が上昇する装備スキル〈魔防壁〉と、S級装備【精霊守護のマフラー】の火、水、風、土の属性に対して耐性を得る装備スキル〈四元障壁〉によって、ゴブリンキング・メイジの魔法攻撃を防いでいた。


 「だけど、いくらステータス補正込みでもダメージは相当入っているはず、あと一回でも攻撃が入れば······やっぱりここは──」


 「だから、待て」

 

 センは再び、ムクロの前に腕を出した。


 「セン、どうして?」


 「主、よく見ろ」

 

 フェルネスはふらつきながらも、立ち上がり短杖を構えた。


 「どうやら、まだ諦めてはいないようだ」


 「フェルネス······」


 けど、このままだとジリ貧だ。あの短杖だと攻撃力が足りない······まだ、持つには早すぎるが、しかたない。


 ムクロは【収納の指輪ストレージリング】から赤、青、緑、黄の4つの色の水晶がついた杖を取り出した。


 「フェルネスっ!」


 フェルネスはムクロに大声で名前を呼ばれて、振り向いた。


 「受け取れぇぇぇぇ!」


 ムクロはフェルネスに向かって杖を投げつけ、フェルネスの近くに突き刺さった。

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