第4話 アントワープ・ブリュッセルへ

トラベル小説


 入国4日目、6月20日。ホテルの軽い朝食をとって、今日からはブリュッセル泊まりだ。1時間ほどでアントワープに着いた。制限速度120kmの高速道路は快適だ。木村くんも落ち着いて運転している。

 中心部に入るとトラムが走っていて、運転はしにくいが、なんとか立体駐車場に停めることができた。ここからは歩きだ。

 まずは、港に行って、ステーン城に行く。運河沿いに建てられた城塞だ。規模は小さい。昔はここから船に向かって大砲を向けていたのだろう。少しいけばオランダだ。外観は城塞そのもののイメージだ。でも、中に入ってがっかり。もろ博物館で、展示物が多く、城としての機能はない。中にはオフィスまであった。

 そこで、中央広場にもどってきて、ある教会に木村くんを招きいれた。

「また教会ですか? 目的は城めぐりですよね」

とぼやきながらついてきた。

 ステンドグラスの光がきれいに差し込んでいる。そして、私はある画の前で止まった。たたみ8枚分ぐらいの大きな宗教画である。

「キリストの降架という画だ。アントワープの有名な画家ルーベンスの画だ」

「すごい圧倒的なパワーを感じる画ですね」

「日本人なら、みな知っている画だと思うよ」

「エッ! ぼくも日本人ですけど・・・」

「この画の前で死んだ少年と犬の話知っているよね」

「画の前で死んだ少年と犬といったら、フランダースの犬じゃないですか?」

「そう、それがこの場所」

「ワォー、感激ものですね」

木村くんはしばらく立ちすくしていた。

「あの物語は、イギリス人の創作だから、ベルギーでは知られていなかった。ベルギーの人たちは、あんなに貧しい子どもはいなかった。と言っているけどね。観光局の人が日本人がここに来て涙を流しているのを見て調べたら、日本で有名な物語だというのがわかったんだって」

私の説明も耳に入らないくらい、木村くんは見入っている。その場を移動するのが心苦しかった。

 昼食は教会近くのイタリアンレストランでピザを食べた。変哲のないピザだったが、ピリッとからさを感じ、コーラがうまく感じられた。

 午後は、ブリュッセル近郊のベールセル城に行った。池の間にある小規模な城だが、3つの半円形の尖塔が珍しい。週末しか開館しないということで、外から見るだけに終わった。

 次は、城ではなく古戦場に行くことにした。ワーテルローである。

1815年6月、ここでプロイセン・オランダ連合軍とフランス軍が激闘を戦わしたのである。まずは、古戦場の中心ともいえるライオンの丘に上った。100段ほどの狭い階段を上ると360度が眺望できる。平原地帯の中央なので、地球が丸いのが実感できる。この丘の中には戦闘で使われた銃や大砲が埋められているとのこと。ライオンはフランスをにらんでいるということだ。今からおよそ200年前のこの時期にここで歴史を変える戦いがあったということを思うと感慨深いものがあった。その日は雨ということだったが、今日は晴れ。雨でなくてよかった。

 その後、ナポレオンの本陣にいった。ふつうの民家に長テーブルがあり、そこで作戦会議をしたという。敗者側はこんなものかと思わされた。最後に連合軍側の本陣に行ったが、こちらは2階建ての役場みたいなところだった。勝者側の方が用意周到だったといえるかもしれない。

 今日のホテルは空港近くのHインエクスプレスである。2つ星のホテルだが、駐車場に窓ガラスが割られたクルマがあった。おそらく車上盗難にあったのだと思う。外から見えるところに荷物を置いてはいけない。というのが鉄則だ。

 夕食は、チェックインを終えてから、近くのフードコートでハンバーガーを食した。やや食べ過ぎていて体が重い。

 

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