第7話 出逢いⅡ

 それにしても珍しい瞳の色だ。ロードライトガーネットのような真っ赤な瞳はキラキラと輝いている。それに、額に貼られた赤色で雫形の石も――


「取り敢えず、花束を横の席にでも置いて? ご飯食べよう?」


「あっ、はい!」


 見惚れている場合ではない、このままでは料理が冷めてしまう。

 抱えたままの花束をクラウとは反対の席に置き、ちょんと座り直した。


「これ、どうぞ」


「ありがとうございます」


 フレアの手によって、料理が次々と取り分けられる。目の前は美味しそうな料理が乗った小皿でいっぱいだ。

 口に溜まる涎を飲み込み、その時を今か今かと待ち侘びる。


「よし!」


 アレクが声を掛けると、三人ともナイフとフォークを手に取ったので、私も手を合わせてみる。


「いただきます」


 呟くと、三人に不思議そうな顔をされてしまった。フレアに至っては小首を傾げてもいる。


「えっと……」


「ソレ、何かの呪文か?」


「えっ?」


 成程、この世界には『いただきます』の文化が無いらしい。

 ブンブンと首を振ってみせる。


「ご飯の前の挨拶ですよ」


「そんなのがあるんだな」


 アレクは納得したように頷いた。

 この人もそう。シトリントパーズのような濃い黄色の瞳をしている。額には、やはりあの雫形の石がある。

 クラウの方を見てみれば、前髪で隠れていて額は確認出来ないものの、その瞳はロイヤルブルーサファイアのように深い青色だ。

 三人とも、この世のものとは思えない程に美しい色の瞳――


「どうかした?」


「い、いえ……。ごめんなさい……」


 まじまじと見詰め過ぎてしまっただろうか。クラウはほんのりと頬を赤く染め、左手を頭に乗せる。


「あの、おでこの石って……アクセサリー、ですよね?」


 実は、私にも心当たりがある。この世界に来て初めて顔を洗った時、額に違和感があったのだ。鏡で確認してみると、そこには音楽室で見た、あの緑色の雫形の石が貼り付いていたのだ。何度も擦ったり、爪で引き剥がしにかかるも、未だにその石は取れそうにない。

 アレクは口をへの字に曲げ、小首を傾げる。


「オマエ、ホントにアリアから何も聞いてねーんだな」


「は、はい……」


 そういう風に言われてしまうと、凄く申し訳無くなってくる。

 俯いていると、アレクはそっと口を開く。


「この石は魔導師の証だ。魔導師ってーのは何か分かるか?」


「魔法が使えるって言う事くらい……。この世界は魔法を使えるのが普通なんですか?」


「いや、魔法を使えるのは魔導師と各国の王、それと使い魔だけだ」


 だから、アリアは『貴重な魔法』という言い方をしたのだろう。

 そんな大層なものに、私はなってしまったらしい。


「取り敢えず食え。オレが作った料理残したら後が怖いぞ?」


「はっ、はい……!」


 慌ててナイフとフォークを手に取り、一番近くにあった照り焼きチキンを頬張ってみる。

 緊張し過ぎて、味は良く分からない。


「あの、アレクさん」


「『さん』は止めろ。あと、敬語も禁止な」


「は……う、うん」


 小さく頷いてみせると、フレアとクラウに小さく笑われてしまった。


「で、なんだ?」


「えっと……何だっけ……」


 先程聞きたいと思った事も忘れてしまった。これにはアレクも笑い声を上げる。


「オマエ、やっぱ……いや、何でもねぇ」


 何だかこれでは、私が変わった人、みたいに思われている気がする。

 緊張すれば、誰でもこうなる筈だ。口をへの字に曲げ、ポテトサラダを一口頬張った。


「ミユ、美味しい?」


 味が分からないとも言えないので、クラウの問いにちょこんと頷く。


「良かった。俺の好物なんだ、ポテトサラダ」


 整った顔立ちで王子様のような見た目なのに、質素なものが好きなようだ。意外だな、と思いながら、もう一口ポテトサラダを頂く。


「ミユの好きな物はある?」


「うん。ケーキ」


 私は大の甘党だ。食後のデザートは至福以外の何物でもない。

 ただ、今日ばかりは美味しく食べられるかどうかは分からない。


「アレクとフレアの好きな食べ物は?」


「オレは肉だな」


「あたしは辛い物」


 二人とも即答する。

 通りでアレクの目の前には肉料理が、フレアの前には赤色のスープがある訳だ。

 少しだけ、ほんの少しだけ、三人の事が分かった気がする。

 今度はサーロインステーキを口の中に放り込んだ。


「フレア、こっちのも辛いぞ。食ってみろ」


「うん。……美味しい」


 こちらの二人も正しく美男美女だ。とは言っても、アレクとクラウは格好良いのタイプが違う。アレクは切れ長の目で逞しい印象を受ける。

 フレアは可愛いと言うよりも、正しく美人系で、スタイルも良い。

 アレクとフレアが並んでいると、互いが互いを引き立て合っていて、溜め息が漏れそうだ。

 私が異質なもののように思えてくる。

 少し自信を無くしながら、もう一口ステーキを噛み締める。


「ミユ、どうかした?」


「ううん、何でもない」


 三人にはバレてしまわないように、こっそり口から息を吐き出した。


「そーだ! ここら辺でゲームでもしねーか?」


「何するの?」


「そーだな……。他己紹介ゲームなんかどーだ?」


「良いじゃん。ミユに俺たちの事を知ってもらえるし」


 三人は頷き合い、にっこりと笑う。


「ミユは見ててくれ。んじゃ最初はクラウがフレアの他己紹介だ」


「分かった」


 クラウは頷き、フレアの方をじっと見る。

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