第7話

 渦に飲み込まれた先に出た場所。

 ここは……そう、町の人たちがおそれていたあの魔王の城の中だわ。

 見覚えのある大広間。アニメで見た時に、とても素敵だと思ったの。

 決して豪華絢爛ではない。けれど、柱には繊細な彫刻が施され、太陽の光をふんだんに取り込むべく、等間隔に大きな窓が配置されている。

 ──やっぱり素敵な大広間ね。

 思わず、うっとりと一つ一つの柱やシャンデリアと見回してしまう。

 そして、視線を奥に進めると一人の人物が立っていることに気づいた。

 

 まるで、私の不躾ぶしつけな観察が終わるのを待ってくれているかのように、相手は穏やかな微笑みを浮かべながら立っている。

「あら、やだわ。ご挨拶が遅れて申し訳ないですわ。──はじめまして、魔王様」

「うん。はじめまして。こだわって造りあげた内装だ。じっくり見てもらえて嬉しいよ。それに、あなたのキラキラした瞳や、我を忘れて夢中になる様は、懐かしくて大切な人にそっくりだ」

「──そう、偶然ね。私もあなたの穏やかな笑い方や立ち振舞いを一目見て、とても懐かしくて大切な人の姿を思い出したわ、魔法様」

「──魔王という響きで呼ばれるのは、やはり不思議だ。何故だか此処に来た者は皆、そう呼ぶんだ」

 

 あら、魔王は魔王と呼ばれることが好きではないのね。

 アニメではそんな描写はなかったから、彼のことは“魔王”の呼び名しかなかった。

 まあ、“魔王”だと呼び始めたのは町の人たちだし、本人にとって気持ちの良い呼び名ではないわよね。


「私はソラっていうの。あなたの名前を聞いても良いかしら?」

「ロイドだ」

「ロイド、これまで“渦の森”に入る者たちをくれていたのよね? ありがとう。とても感謝しているわ」

「元はただの商売人だ。生まれ持って魔法に対するが強いだけのね。この場所を拠点にしながら、あのおぞましい魔法が暴走しないよう見張っていただけさ」


 いとも簡単に言っているけれど、自分の身を粉にしてまで人々を守り続けるなんて、並大抵のことではないわ。


 そんなことを考えていると。


「ソラ!! ここまでたどり着けたんだな!!

 聞き覚えのある、相変わらず大きな声が響く。 まあ、びっくりするじゃないの!


「ネオちゃん! いつも通り、元気そうで良かったわ!」

「ソラこそ、怪我一つなさそうで安心したよ! ──他のみんなは? ……ララは、大丈夫だよな?」

「大丈夫なことはネオちゃんも知っているでしょう? 必ず、三人でこの場所に来るわ」

 私がそう言うと、ネオちゃんは少し安堵したように眉を下げ、軽く頷いた。

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