第2話 紡ぐ物語① 書院紡子の物語
私は本が好き。
食事の時も、通勤の最中も、休憩時間も、お風呂に入っても、眠っている時だって本を読めたら素敵だと思う。
お洒落にお金を使うくらいなら本をたくさん買いたいし、人と語らう時間があるなら本に耽っていたい。
それくらい私は本が大好き。
夢を追うよりファンタジー小説で夢のような冒険に思いを馳せたい。
誰かと恋をするよりも恋愛小説を読む方がずっと胸がキュンとする。
泥棒も殺し屋も全ての犯罪者はミステリー小説を読めば良いのよ。
純文学を読めば、感動も喜びも人生の豊かささえも与えてくれる。
私は読書が死さえも克服できるって本気で信じてるもの。
だから、私は本がとっても大好き。
そんな私の天職は何だろう?
小説家?
小説を執筆していたら読む時間が無くなってしまう。私は物語を生み出したいんじゃないの。物語に没頭したいのよ。
編集者?
確かにそれなら本をたくさん読めるわね。だけど、部署によってジャンルは限定されてしまうんじゃないかしら?
私のような活字中毒の天職……それはやっぱり司書。
本に囲まれて仕事をする幸せ。
好みの本をいつも選べる喜び。
もちろん司書の業務も多岐に渡るので読書だけしていれば良いわけじゃない。業務は周囲が思っている以上に大変よ?
それでも他の仕事より本に触れる機会は圧倒的に多いし、本の匂いに囲まれた世界はやっぱり最高。
それに、推薦図書を選定する為と称して好きな本を読めるし、図書館内は静かで誰にも読書を邪魔されないもの。
それにしても学生時代やたらと読書を邪魔してくる男性たちは何だったんだろう?
私はただ静かに本を読んでいたいだけなのに、『何読んでるの?』って声を掛けてきて答えてあげているのに本とは関係ない話題を振ってきて、最後は『本ばかりじゃなくて遊びに行こう』だとか『本では得られない楽しいことを教えてやる』だとか頭のおかしなことを宣う。
鬱陶しいことこの上なし。読書以上に楽しいことなんてあるわけない。
ただ、視力が落ちて眼鏡を掛けるようになってから男性からの妨害が激減したので、今ではもはや外出時の眼鏡は必須アイテム。
数少ない友人からはコンタクトにしないのは勿体ないって言われたけど何故かしら?
まあ、どちらにせよ図書館には読書を妨害する男性は少数派なので今となってはどちらでも良いけど。まったく高校や大学はあんな男どもを量産しているのかしら?
司書ってやっぱり最高の環境よね……だけど……そんな天職を手にした私にも悩みはある。
それは私の
私は感情移入した物語の中に現実として入り込んでしまう能力を持っている。これのせいで戦争ものやサスペンスものは下手をすると命懸け。
実際、死にかけたことが何度かあるし。そんなわけで私はなるべく物語に感情移入しないよう日頃から気を配っている。
「はぁ……」
手にした本の表紙に目を落としながら私はため息を漏らす。
「異能なんて無ければ読書三昧できるのに」
異能なんて世界から消えてしまえば良いのに。そう願っても世界は変わらない。
だから今日も私は殺せぬ世界の代わりに表情を殺すのだ……物語に感情移入しないように……
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