第15話 三島side ひとつ屋根の下って、大丈夫かよ!?
藤崎のやつ何考えてんだ。男を家に呼んで、しかも泊めるってのが、どういうことかわかってんのかよ!
いや。この際、藤崎がわかってないならそれでもいい。
けど、コイツにはしっかり言ってやらねえと。
「どうしたんだ? 何かまずいことがあるなら、藍も一緒にいた方がいいんじゃないか?」
わかってねえのは、コイツも同じかよ。
そりゃ、できれば藤崎にだってわかってほしい。けど、これから話すことは、藤崎の前だと言いにくいんだよ。
「お前、泊まるって、藤崎の家にだぞ。一緒の家にいるんだぞ」
「ああ。やっぱり、いきなりは迷惑かな?」
「そこじゃねえよ!」
くそっ。なんでわかんねえんだよ。
仕方ない。こうなったら、ちゃんと説明するしかねえか。
「前は泊ってたって言っても、それって藤崎が小学生の頃の話だろ。今のあいつは、もう高校生だぞ」
「ああ。すっかり綺麗になったな」
「まあ……綺麗にはなったな。それに、少しは女らしくもなった。だから、つまりその……あれだ」
「あれって?」
ここまで言ってもちっとも伝わらねえ。もっとハッキリ言わなきゃダメなのかよ。
やっぱり、藤崎についてくるなって言っといてよかった。
これから言うことは、あいつには絶対聞かせられない。
「お前は男で、あいつは女なわけで。一つ屋根の下で一晩過ごすわけだろ。そりゃお前は触れることができないから、間違いなんて起こるわけないけど、理性が揺らぐことの一つや二つあるかもしれない。例えば、色々見えたりするかもしれないだろ。風呂上がりとか、パジャマ姿とか、寝起きとか。もしかしたらうっかり着替えてる所なんかも……」
言っててだんだん恥ずかしくなってくる。
泊まるって聞いてこんなこと考えてたなんて、藤崎の前じゃ絶対いえねえ。コイツに話すのだって気まずい。
どうして俺は、コイツ相手にこんな話をしなきゃなんねえんだよ。
けど、俺がそれ以上話を続けることはなかった。
「……なあ、三島」
「なんだよ────ヒィィッ!?」
話を折られて、次に出てきたのは悲鳴だった。
目の前にいるコイツが、とてつもない怒気を放っていたからだ。
それはもう、震え上がるくらいハッキリと。
「────今、藍で何を考えた?」
そう言ったコイツは、なにも鬼みたいな顔をしてるってわけじゃない。
パッと見ただけじゃ、むしろ穏やかそうにも見える。
なのにどういうわけか、それでも怒ってるってハッキリわかるんだ。
小学生のころ、藤崎にちょっかいを出した後コイツにやり込められたことが何度もあったけど、そんなのとは比べものにならない。
「……い……いえ、何も」
震える声で、それだけを言う。
ここで余計なことを言ったら、どうなるかわからない。
「……何もか。よかった」
俺の答えは間違ってなかったのか、それを聞いて、安心したようにため息をつく。
同時に、今まで放っていた殺気も、少しずつ薄れていく。
けどそれが完全に消える直前、小さな声でこう付け加えた。
「もし何か変な想像をしていたら──」
「していたら、どうなったんだ?」
ごくりとツバを飲み込み、恐る恐る聞いてみる。
そしたら、ほんの少し間が空いた後、ゆっくりと口を開いてこう言った。
「────もしそうなっていたら、殺すところだった」
怖えーよ!
心の底から震え上がった。
少し前、コイツが悪霊になるかどうか話していたけど、悪霊にならなくたって十分に怖い。
コイツは、絶対に怒らせちゃいけないやつだ。
「だいたい、俺と藍は兄妹みたいなものなんだ。お前が言うような何かなんてあるわけないし、藍だってそんなこと考えちゃいないよ」
それだけ言うと、あとはスタスタと藤崎のいる方に歩いて行く。
俺もそれに続きながら、二度とコイツの前で余計なことは言わないって心に誓った。
それにこの様子だと、本当に変な気を起こすことはなさそうだ。
けどそれでも、ひとつだけ気になることがある。
確かにコイツなら、俺が心配しているようなことにはならないだろうし、意識だってしてないだろう。
けど藤崎はどうなんだ?
コイツを家に泊めること、本当に全く意識していないのか?
それだけがわからないまま藤崎のところに戻ると、藤崎はこっちに背中を向け、一人で何かブツブツと言っていた。
なんだ?
俺たちが戻ってきたことに気づいてないみたいだし、そっと近づいて聞いてみる。
「私、うちに泊まればって言ったんだよね。どうしよう。そりや、昔はユウくんが家に泊まることも何度かあったけど、なんだか今は凄く恥ずかしい。だって一つ屋根の下に好きな人がいるんだよ。ユウくんがいつまでこの世にいるかはわからないけど、もしかしたら何日もってことになるのかな? 部屋は片付いてるよね。変なところ見られたらどうしよう。部屋だけじゃなくて、私のお風呂上がりとか、パジャマ姿とか、寝起きだって見られるかもしれないし、それどころか……」
めちゃめちゃ意識してるじゃねーか!
本当に大丈夫なのかよ!
幸か不幸か、今の言葉は俺にしか聞こえなかったようで、意識されてる本人はというと、これっぽっちも気づいていなかった。
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