Afterlife

すきま讚魚

第1話

 時を戻す砂時計hourglass、それを逆さにすると人生の中で一番後悔していた時間に戻ることができるという。

 世界の何処かにあるという砂時計。けれどもそれは、人間が通常決して手に入れることはできないものなのだ。


 不死鳥は唯一、その砂時計を知り——また蘇らせることのできる存在だと言われている。言い伝えでは彼らが一度死ぬ時に自らの炎に飛び込み灼かれ、そこから生まれる灰が、その砂時計に入っているのだそうだ。


 世界の果てから、終わりと始まりの風が吹く。

 誰しもに平等にやってくる死と生の風、凍てつく寒さのようで春風のような仄かな温かさを孕んだその風が、頬を撫ぜた時に心地よいと感じるのもまた——彼ら不死鳥だけ。


「そうも云うけれど、平等のようで一見死とは不条理なものもあるのさ」


 そっと不死鳥はその背に刺さった矢を一本、また一本と引き抜きながら言った。


「そして死のその先が楽園であるという身勝手な思い込みもまた、ね」


 そうだろう不死鳥? と明け方の星が控えめな輝きのままにこりと問いかける。


「さあどうだろうね。せめて……この地上よりは楽園だと、そう信じる子らがいてもわたしは悪いことではないと思うけれどね」


 この世界にもう不死鳥という存在はこの一羽のみ。

 それを知っている明け方の星は、ほんのりとした苦笑いを噛み殺しながら瞬いた。


「きみは何度裏切られ、傷ついても。そうやって終わりを望もうとしない。いつだって」


 そりゃそうさ、そう不死鳥は燃え盛る矢が散り散りになるのを見つめながら、至極当然のように頷く。


「またいつかどこかで……会えることを夢見てる。それだけで案外ね、生というのは楽しいものなんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る