第203話 太湖石
金巡検がさらに言うことには、巡検の官署の中に太湖石がひとつある。高さは庇(ひさし)の際を越えており、その紋様はとりどりの色が複雑に混ざり合い華やかで、またそこに開いた穴は玲瓏であり、離れて眺めればまるで今にも飛びたとうとするかのような佇まいであった。
伝えるところによれば、これは遼、金の時代の古物であるとのことだった。考察するに、金はその昔、艮岳(宋の徽宗帝の時代に造られた庭園。金の兵が開封を攻めた際に破壊された)の奇石を切り出し、これを北に運び込んでいた。これはもしやその「卿雲萬態奇峰」ではないだろうか?
金は大定府(遼、金時代の行政組織)を置いてそこを北京とした。これが現在の大寧城(内モンゴルの寧城西北付近)である。一方、三座塔は遼の時代は興中府が置かれていたが、金の時代になって州に降格した。州の管轄の官署にそのような由緒の石を置くだろうか。これまた疑わしいものの明らかにすることはできない。
また、京城の兔兒山(北京皇城内にあったとされる場所)の石もすべて艮岳の遺物であると伝えられている。私がまだ幼い時分にはこれを見ることができた。私の所有する虎坊橋の邸宅は、威信公の旧宅であり、広間の東側の石はその高さが七、八尺あり、雍正年間に初めて邸宅を建てた折、賜ったものであると伝えられている。これもまた兔兒山より移したものであるとのことだ。南城にある太湖石の中ではこれが第一である。
私の号が「孤石老人」であるのも、これに由来しているのである。
紀昀(清)
『閲微草堂筆記』巻十五「姑妄聽之一」より
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