第10話 奏多、感慨深い気持ちになる
「それにしても……テレポートまだですかね。ミノタウロスを倒してから十分程経ったのに」
「はやくみんなのところに戻りたいね」
ミノタウロスを倒した私たちは、その場で座って休んでいた。
すると――
「やぁやぁ~彼女たち☆」
後ろから不快な声が耳に入った。
振り向くとそこにはドレイクと緑色の髪をしたナルシストの男がこちらに向かってきた。もちろん名前は知らない。というか興味がない。
「なにかよう?」
気に食わないのでタメ口で受け答えする。
「いや~。とっくに種目はクリアしたのにまったく戻してくれないからさ。散歩をしていたんだ」
「そうですか」
「どうやら参加者すべての種目が終わるまでテレポートはしてくれないみたいなんだよね。まったく、委員会の対応はどうなっているんだか……それにしてもこのダンジョン薄暗くて気味が悪いよ」
ドレイクが一人で永遠と愚痴る。
「でも、君たちに出会えた。俺ってなんて運がいいんだろう。よかったらどうだい? 僕たちと一緒に散歩でも☆」
「そーだ! ドレイク、彼女たちにサインを書いてあげるよ! きっと喜ぶ!」
「さすが次期センターの丸山くん! Good Idea!☆」
「だろっ!☆」
ドレイクと丸山と言う男が勝手に盛り上がっている。
私たちはその様子を冷たい目で見る。
「遠慮しておきます」
「どうしてだい? これは運命なのに!」
ドレイクが演劇をするかのように胸に手を当てながら言う。
「め、芽衣ちゃん……」
「大丈夫、無視してよう」
暗女が不安そうにつぶやく。
「まさかSSランクのモンスターを倒しちゃうなんて、やっぱり僕が見込んだ女性なだけはあるよ!」
ドレイクがここにいるということは種目をクリアしたということ。
ムカつくけど二人共実力はあるみたいだ。
「まさしく僕の女性にふさわしい。あんなインチキ探検家とは別れて僕たちと組もうよ」
「さっきからなんなんですか。あなたたち」
さすがに奏多さんを馬鹿にされては黙ってるわけにはいかない。
頭に血が上っていた。
「これ以上しつこいと殴りますよ」
「おっと! 僕は女性と戦う気はないよ。それに探検家同士の争いはだめだって委員会のルールにあっただろう? キリ☆」
ドレイクは決め顔でそう言った。
「うっ……」
拳を握りしめようとしたその瞬間、痛みが全身を伝った。
先ほどの怪我の所為で腕は使い物にならない。
「怪我をしているみたいだね。さぁ、さぁ僕たちと一緒に……」
「ったく、霧切、てめぇのせいで迷子になっちまったじゃねーかよ!」
この声は――
後ろを振り返る。そこにはシャルルと霧切が愚痴をこぼしながらこちらに向かってくる。
「おや、君たちはシャルルちゃんと美鈴ちゃんじゃないか!」
「ッゲ、ドレイク……」
美鈴は明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
どうやらドレイクのことをよく思っていないらしい。
「いやぁ、僕は本当に運がいい。またもや最高の女性たちと出会ってしまうとは……これはまさしく運命だ!」
「霧切、なんだこいつ?」
「こいつはドレイク、SSランクの探検家。もしかしてシャルル初対面?」
「そうだね! シャルルちゃん、宜しくね! キリッ☆」
すぐさまシャルルに向かって自己紹介をするドレイク
「……」
冷たい目で決め顔を見つめる。
そして、ドレイクがシャルルに詰め寄る。
「これも何かの縁だ。僕たちは同じSSランクの探検家だ! 交流も兼ねてお茶でもどうかな? 僕のタワマンでさ! キリッ☆」
「……」
シャルルはドレイクの存在などなかったかのように私たちに目を向けながら口を開いた。
「どうやらおめぇらも種目をクリアしたみたいだな」
「どうも……」
「倒したのにボロボロじゃねーかよ。情けねぇな。そんなんじゃ探検家失格だぜ」
「くっ……」
言い返す言葉が見つからない。
「ねぇ、無視してないでこっち向い――」
その時だった、ドレイクがシャルルとの距離を詰めようとしたその瞬間、ドレイクの頬にシャルルの拳が繰り出された。
「ぼげえええええええええええええええええええええええええ」
遥か彼方へと吹っ飛ぶドレイク。
その一連の動作は私にはまったく見えなかった。この人凄い……。
「ド、ドレイク!? だ、大丈夫かい!?」
丸山という男が心配そうにドレイクの元へ駆け寄る。
「やべっ! つい手がでちまった……まぁ正当防衛ってことでセーフだよな」
「シャルルちゃん、アウトだよ……」
霧切が呆れ顔を浮かべると同時に一斉に種目クリア者がテレポートされ始めるのだった。
◆ ◆ ◆
「一時はどうなるかと思ったけど、二人ともなんとかクリアしたわね」
真奈美さんはモニターを見ながら微笑した。
「うふふ、さすが奏多くんの弟子と言ったところかしら?」
「だから違いますって……」
それにしても二人共、立派になったもんだ。
俺が知らないうちに芽衣は必殺技を二つも会得していた。
そして暗女。魔力出量を完璧に制御していた。
しかも最大出力を超える魔法を二回も放つなんて。
「奏多様……どうして笑っているのですか?」
エレノアが小首を傾げる。
「あっ、いや、なんでもないよ。さぁ、二人を労ってやろう」
自然と笑みがこぼれていたようだ。
二人の成長がこれほど嬉しいとは。師匠になるっていうのも案外悪くないかもしれないな。
俺は、モニターに映された二人の笑顔を見てそう思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます