第8話 奏多、第二種目を観戦する①
◆ ◆ ◆
二人がテレポートされた先はとあるダンジョンの中。恐らく最下層だろう。
異様な空気があたりをつつんでいる。嫌な雰囲気だ。
「ここ、どこだろう……」
暗女が不安そうに口を開いた。
他の探検家たちはどこにテレポートされたのだろうか……。
そんなことを考えていると――
『356番、失格。5386番、失格。9784番、失格』
委員会のアナウンスがダンジョン内に響き、無慈悲に失格者の名前が淡々と告げられてゆく。
スタートして数分しか経っていないのに脱落者がいるということはそれほどこの種目がいかに難しいかを物語っていた。
二人に嫌な緊張感が走る。
どれくらいやれるかわからないけど、奏多さんは私たちを信用して送り出してくれた。
絶対に情けないところは見せたくない。それに、見てくれているリスナーの皆にもいい所を見せなくちゃ。
「芽衣ちゃん、あれ……」
そんなことを考えているとおもむろに暗女が呟いた。
暗闇の先にいるなにかに指を向ける。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
「――あれは」
ミノタウロスだ。ミノタウロスは牛の頭を持つ巨人だ。筋骨隆々の姿に鋼の鎧を見に纏っている。右手には斧を携え、まるで獣の戦士のような風貌だ。
いったいその斧で何人の探検家が犠牲になったのだろう。
通常のモンスターとは違いホログラムで映し出されている。
「暗女ちゃんあれって……」
「うん、多分あのミノタウロスは本物じゃない」
恐らく委員会には最新のAI技術が搭載されており、モンスターのデータが管理されているだとか。
いま目の前にいるミノタウロスがAI蓄積したデータを元に作られた疑似モンスター。
「ミノタウロス……。私たちに倒せるかな」
不安な表情を浮かべる暗女。
無理もない。SSランクのモンスターは基本高ランク帯の探検家を何人かで編成して討伐に挑むのがセオリーだ。
本物じゃないとはいえ委員会のデータに間違いはないだろう。
でもやらなきゃ、私たちのことを信じて送りだしてくれたみんなの為に!
「……っ!」
ミノタウロスがまるで獲物を見つけたかのように私たちに鋭い視線を向けた。
「来るっ!」
「芽衣ちゃん! サポートは任せて……!」
私は暗女との距離を取る。
暗女は近距離による攻撃が苦手だ、私みたいに打撃技が使えるわけでもない。
まずはミノタウロスを引き離す。私が近距離で戦い暗女が遠距離で魔法を使って援護する。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
ミノタウロスが突進してくる。
ものすごいスピードだ。
暗女は、ミノタウロスがこちら突進してくるより前に支援魔法を詠唱していた。
『防御上昇――』
『永続回復魔法――』
「芽衣ちゃんに支援魔法を施しました! これなら多少の攻撃なら防げるはず!」
「ありがとう! 暗女ちゃん!」
なんて頼りになるんだろう。
初めて会った時より詠唱の速度が速くなっている。暗女ちゃんも成長してるんだ。
私も負けてられない!
ミノタウロスが私との距離を一瞬で詰めてくる。そして、斧を大きく振り下ろしてきた。
私はそれを紙一重で躱す。
斧が地面に突き刺さり、半径十メートルほどの地面が抉れる。
なんて威力だ。防御魔法を施しているとはいえもろにくらったらひとたまりもないだろう。
「……ッ!」
それを引き抜こうとするミノタウロスの隙を見逃さなかった。
私はすぐさま構えを取り、ミノタウロスの腹目がけて打撃を繰り出す。
「はあああああああああああああ!」
奏多さんに教わった踏み込みによる打撃。
「はいった!」
その打撃はミノタウロスの腹に直撃。
しかし――
「グオオオオオオオオ」
ミノタウロスが怒りにみちた雄たけびをあげる。
「き、効いてないの!?」
「芽衣ちゃん! 離れてください!」
背後から暗女の合図。
それを聞き、ミノタウロスとの距離を取る。
『サンダーボルト! 出力80%』
暗女は杖を上に掲げ、魔法を素早く詠唱した。
すると、ミノタウロスの真上から
「凄い……!」
ものすごい威力の魔法がミノタウロスに直撃する。
私の知らないうちにここまで成長しているなんて……。
『グオオオオオオオオ』
しかし、暗女の魔法はまったく効いてすらいなかった。
「そんな……! 80%の威力なのに」
暗女が驚く、恐らく渾身に一撃だったのだろう。
だけど、まだ負けたわけじゃない。
「こういう時は冷静に考えなくちゃ――」
奏多さんが教えてくれたことだ。
ピンチの時は常に冷静に、相手を分析することが大事だって。
どんなモンスターにも弱点はある。それを見つけなくちゃ。
「暗女ちゃん! お願いがあるの! ミノタウロスに向かって色んな魔法で攻撃してほしいの!」
「わ、わかった!」
暗女は杖を高く掲げ、唱える。
『ファイア――』
『アイスボール――』
『アース――』
『ウィンド――』
炎、氷、地、風属性の魔法を連続でくりだす。
『グオオオオオオオオオオオオオオ』
だが、ミノタウロスは避ける動作を一切せず、すべての魔法攻撃を受けきった。
効いている様子は一切ない……。さすがSSランクのモンスターなだけはある。一筋縄ではいかない。
「芽衣ちゃん、どうしよう……私の攻撃が効いてない……」
暗女が不安そうに口を開く。
「大丈夫! 暗女ちゃんはさっきと同じようにミノタウロスに隙ができたタイミングで魔法をお願い!」
「わ、分かった!」
もしかしたら……いや、絶対にそうだ。
「暗女ちゃん、分かったよ。ミノタウロスを倒す方法」
「ほ、ほんとうに!?」
「うん、恐らく――」
芽衣は確認を得た。ミノタウロスを倒しうる方法を――
私はミノタウロスに向かって思い切り駆けだした。
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