第6話 奏多、真奈美さんを信じる
『きたきたきたー!!!! 『悪魔の執行人』vs タイラントワーム。これは見逃せませんね』
『えぇ、どう戦っていくのか楽しみです』
"真奈美ママ頑張れー!!!"
"さすがに超大型モンスターをスキルなしは厳しくね?"
"これ大丈夫?"
"委員会はいったいなにを考えてるんだ……"
"探検家と交流どころじゃねーぞこれ笑"
コメントもタイラントワームが現れてから大盛り上がりだ。
「ま、真奈美さん、大丈夫でしょうか……」
芽衣と暗女が心配そうにモニターを見つめる。
真奈美さんのスキル「デテクト」を使えばモンスターの弱点が分かるから、そんなに難しい相手ではない。
だけど今回のルールではスキルの使用は禁止されている。
「普通の探検家なら不可能だろうな」
俺がボソッと呟く。
「そ、そんな……それじゃあ……」
「この戦いは無謀ってことですか?」
不安な表情で見つめられる。
俺は自信満々な表情で首を振る。
「普通ならね……」
◆ ◆ ◆
「たああああああああああ!!!」
真奈美はタイラントワームの顔目がけて攻撃を繰り出す。
「これは片っ端から攻撃して、反応がある部分を叩くしかないわね」
高速で鎌を振りかざし、至るところを切り刻んでゆく。
だが、タイラントワームはびくともしない。
「うーん。どうしようかしら……このままじゃ体力が消耗するばかりだわ」
RTAって言うぐらいだから、いま戦ってる時間も含まれる。
スキルを使えば弱点がすぐ分かるんだけど……。
「あれれー? 『悪魔の執行人』ともあろう者が苦戦してる?」
「霧切ちゃん?」
戦闘に夢中になっていたから気づかなかった。
「もしかして、手伝ってくれるのかしら?」
「まったくしょうがないわね。こいつを倒さないと先へ進めなさそうだし。ここは共闘してあげる」
「あら、ありがとう。あなたって案外優しいのね」
「ふん、今回だけなんだから」
霧切は照れながら言った。
「それじゃあ、タイラントワームをのけぞらせることはできるかしら?」
「お安い御用ですー」
すると、霧切は懐からトンファーを取り出した。
彼女の身体能力はSSランクの中でも随一だ。
「イヒヒ。私の攻撃にちゃんとあわせてよね」
「もちろん」
霧切は大きく跳躍し、タイラントワームの下腹部目がけてトンファーを思い切り叩き込んだ。
「やああああああああああああ!!!!」
その衝撃で宙に浮き、仰け反るタイラントワーム。
いまの一撃で突風が吹き荒れる。
すぐさま、真奈美も攻撃に参加する。
「はああああああああああ!!!」
仰け反った部分を片っ端から切り刻んでゆく。
そして――
『ガガガガガ……』
お腹の辺りを斬ったときにタイラントワームが苦しそうな声をあげた。
「どうやらここが弱点みたいね」
やはり弱点は下腹部。どうりで手ごたえがないはずだわ。
態勢を整えられる前に、目にも留まらぬ速さで切り刻んでゆく。
「はあああ!!!!」
渾身の一撃を下腹部目がけて繰り出す。
すると、タイラントワームはその場で絶命した。
「ふぅ~」
安堵の息を吐く。こんなに激しく動いたのは久しぶりだわ。
これは明日筋肉痛確定ね。
タイラントワーム討伐に費やした時間は約十分弱。
スキルを使えば一分とかからなかっただろう。今回は霧切ちゃんのおかげね。
「ありがとう。霧切ちゃん、あなたがいなかったらタイラントワームは倒せなかったわ」
「あっそ……別に、私が来なくてもなんとかしたでしょ。あんたなら」
「そんなことないわ。私にはあの大きな身体を持ち上げるほどの力はないわ」
霧切が頬を赤らめる。
どうやら照れているようだ。プイッと後ろを向いてしまう。
ちょっと口が悪い人だと思ってたけど意外と素直でいい子なのね。意外な一面が知れた気がした。
「まぁ、こいつを倒さないと先へは進めなかったからお互い様だし……。ちなみにさっきの攻撃は力の半分程度だから、まだまだ私の本気はこんなもんじゃないんだから!」
霧切は腰に手を当て、自信満々に頷く。
「それはともかくこっから真剣勝負と行きましょう。私とあなた、どっちが上かしょう――って、いねーし!!!!!」
真奈美は霧切が言い終える前に先へ進んでいった。
そして――
◆ ◆ ◆
『一位、真奈美!!! タイムはなんと11分50秒! 素晴らしい救出劇でした! あの超大型タイラントワームをスキルなしで倒してしまうとは!』
『素晴らしかったですね。あの動きはスキルに頼らない戦闘を常に心がけている証拠です。SSランクの威厳を見せつけてくれました』
次々にゴールした人たちがテレポートで戻ってくる。
"さすが真奈美さんー!"
"ママああああああああああ!"
"俺は真奈美さんを信じてたぞ!"
"写真集十個買いました!"
"買いすぎで草"
真奈美さんを称賛する拍手と共に、コメントも大盛り上がり。
「うふふ、ありがとうみんな」
さすが真奈美さんだ。汗一つかいていない。
相手に隙を与えず、最終的には一位をもぎ取ってしまった。
『おぉーと! そして二位は霧切美鈴!!!! タイムは15分20秒!』
『最後の最後で油断を見せてしまいましたが。先ほどのタイラントワームに与えた一撃は凄まじかったです』
「くっそ~~~~~~~!! 悔しい!!! あの女にやられた~~~~~!!!!!」
相当イラついているのか地団駄を踏んでいる。
『さぁ、三着はな、なんと! 三着はドレイク選手! タイムは17分10秒!』
「三着か……まぁ、僕の力はこんなもんじゃないけどね! キリッ!」
『涼しい顔でカメラ目線をしております! こんな時でもファンサを忘れない。素晴らしいですね!』
"ドレイク様~♡"
"素敵~!"
"さすがドレイクさま~! 好き~!"
"付き合って~!!"
女性によるコメントで配信は大盛り上がり。
『そして、四着は―――おっと、ニンニン選手だ!! タイムは18分42秒!!』
『この人は、昨日正式に探検家デビューをした人ですね』
「ふん、ぬるいな。俺様にかかればこんなものだ」
『能面を被り、忍者姿で印を結んでおります! いったいこの男は何者なんだ!!』
『まさかここでダークホースが現れるとは……要注目ですね』
あの忍者、どこかで見たことあるな……。
いや、気のせいか。
「あの能面の人、さっきから奏多さんのこと見てますけど、お知り合いですか?」
芽衣が訊く。
「いや……知らない」
ニンニンという男からものすごい殺気が伝わってくる。
目を合わせないようにしよう。これ以上めんどうごとは避けたいし……。
『第一種目のゴール者は以上の四名になります! みなさんお疲れ様でした!!』
どうやら、ゴールした人は四人だけだったようだ。
スタート地点には何万人もの探検家がいたはずだが、ほとんどの人は脱落したらしい。
「霧切てめぇ! なにやってんだこの!!」
「いてっ! そんな殴らなくても……」
シャルルがげんこつをした。
とても痛そうだ。
「真奈美との勝負に負けただけでなく、出し抜かれて二位とはどういうことだ! あぁん」
「ご、ごめんって~~~~~」
霧切が涙目になりながら逃げる。
そしてその後ろをシャルルが追いかける。
意外と仲いいんだなあの二人。
「ただいま、みんな」
真奈美さんがたくさんの拍手で迎えられながらこちらに戻ってくる。
「おかえりなさい! 真奈美さん!」
芽衣と暗女が笑顔で迎える。
「真奈美さんさすがでした。これお水です」
「あら、気が利くわね。ありがとう」
あんなに動いたのに真奈美さんは汗一つかいていない。
それに宣言通りにいい結果を持ってきてくれた。さすがSSランクの探検家だ。
「あら? 私の顔に何か付いてる?」
「いや、凄いなと思って……」
まずいジロジロ見すぎてしまった。
「うふふ、熱い視線だったからドキってしちゃったわ」
「えっ!? そんな目で見てないですよ!」
「あら残念。でもありがとう」
真奈美さんは嬉しそうに呟いた。
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