第10話 奏多、アドバイスをする

「んぁ♡ 奏多さん、こんなところでするんですか!?」

「うぅ♡ 恥ずかしいですよ~」

「ダメだぞ二人とも、俺の言う事を聞くんだ」

「んぁ♡ キツイ……ですぅ♡」


 二人の女の子が頬を染め汗を流している。

 ――そう、俺たちはいま。






 筋トレをしている!!!!!!!!!!!!!!!






 エレノアのお店で装備を整えた俺たちはとあるダンジョンに来ていた。


「うぅ……か、奏多さん、これって意味があるんでしょうか?」


 暗女が苦痛の表情を浮かべながら問う。


「探検家にとって体力づくりは大切なことなんだぞ!」

「そ、そうなんですね。私、頑張ります……」


 すぐに腕立て伏せにもどる暗女と芽衣。

 師匠との修行の日々を思い出すな。最初の一年は筋トレばっかりしてたっけ……。


「「一、二、三……四……んあ……はん♡」」


"可愛い女の子の辛い表情っていいよな"

"ドゥフフフ……"

"変態がいるんで通報お願いしまーす!"

"切り抜き班出番ですよ……!"

"でも、二人とも頑張ってて偉いな"

"芽衣ちゃんミニスカだから見え……"

"暗女ちゃん意外と胸大きいんだな……"

"俺たちは一体なにを見せられているんだろう"


 配信が変態コメで溢れかえっていた。

 なんで、俺の視聴者はこんな人たちばっかりなんだろうか……。


 さすがに彼女たちを見世物にするわけにはいかない。

 筋トレはここでやめておこう。


「次は何をするんですか?」


 芽衣が訊ねる。体力づくりは今度やるとして……。

 まずは、スキルの使い方についていま一度おさらいしてもいいだろう。


「まずは芽衣」

「はいっ!」

「芽衣のスキルは『超パワー』俺の師匠、雅さんと同じスキルだ」


 力は申し分ないが、まだ踏み込みがまだ甘い。

 ここさえ改善できればすぐにSランクモンスターと渡り合える。


「まずは、力を込めやすい構えから改善したほうが早いだろう」

「構えですか?」


 芽衣が小首を傾げる。


「いいか? 拳を突き出すときは、こう! 脚を後ろにして、ずばばばー!って感じでやるといいぞ」


 俺は拳を前に突き立てレクチャーする。


「なるほど、ずばばばー! ですね!」


 これは師匠から教わった簡単に力を込めやすくする構えだ。

 すると、芽衣は教えの通りに構えを取り、思い切り拳を振るう。

 

「やぁっ!!」


 拳を思い切り突き出すとともに、目が開けられないほどの風圧が放出された。

 コツを掴んだのか、先ほどよりも踏み込みがよくなった。さすが、本部長の娘なだけはある。戦闘センスが桁違いだ。


"すげー!喰らったら痛そう……"

"ってか、「ずばばばー」って何?"

"大丈夫、俺らもよく分かってない"

"なるほど、分からん"

"よくわからないけど、芽衣ちゃんが嬉しそうでなにより"

"みんなよく分かってなくて草"


「す、すごいです! 奏多さん! こんなに変わるものなんですね!」

「それにしても芽衣はすごいよ。教えたことを一発でできるようになるなんて」


 俺が褒めると、芽衣は照れた表情を浮かべた。


「えへへっ、私、もっと強くなります!」

「あぁ、頑張れよ」

「前回の装備より力が込めやすくなってます! これって装備を強化したからなんですかね?」

「そうなのか。エレノアに感謝だな」


 そんなに違いが分かるのか、俺の村正も早く試してみたいな。

 それよりも前に……。


「次は、暗女だな」

「お、お願いします!」


 杖を両手で持ち真剣に見つめる。

 暗女のスキルは『魔力バフ』通常の魔法を数倍の威力で出力することができる。一見最強に見えるスキルだが、弱点はスキルを一度使うと、暗女の体力が著しく消耗し、挙句の果てに吐いてしまうこと。その原因は……。


「どうして、スキルを使うと体力が消耗してしまうか暗女は分かるか?」

「一度に放出する魔力出量が多いからでしょうか?」

「その通り、最初俺と会った時にケルベロスにファイアを放っただろ? あれがMAXだとするなら……最初は三倍程度の出力で放てればいい方かもな。それが慣れてきたら四倍……五倍……最終的には千倍とか……?」


 魔力出量さえ自在に操れるようになれれば、味方との連携もしやすい。


「千倍……!? そんなことできるんでしょうか?」


 暗女の頭からプシューと煙が噴き出した。


「最初は上手くいかないと思うが、徐々に慣れていけば大丈夫だ。俺だって昔は水をお茶にするぐらいの能力しかなかったんだから」

「あの奏多さんが……?」


 師匠から教わったことだ。どんなスキルでも応用次第で化ける。

 それに、暗女は気づいてないかもしれないが、魔力量が凄まじく多い。これは化けるぞ。


「あぁ、それに、魔力量も増えせれば無敵だぞ?」

「無敵ですか……!? 私にできるでしょうか?」

「暗女にも間違いなくポテンシャルはある。必ず強くなれるよ。だから自信持て」


 俺は、暗女の頭を撫でる。

 すると、えへへと、笑顔を浮かべた。


 お世辞ではない。二人にはセンスがある。

 これからの成長が楽しみだな。


"二人の成長が配信で見れるのはいいな"

"なんか我が子を見るような感じで楽しい"

"二人とも頑張れー!"

"二人のチャンネル登録したぞー!"

"奏多、暗女を宜しくな!"

"暗女チャンネルの視聴者めっちゃ温かい人ばっかりだ"

"あったけぇ~"


 コメントも大盛り上がりだ。楽しんでくれて嬉しい。


「頑張ろうね! 暗女ちゃん!」

「はいっ! 芽衣ちゃん! お互い頑張りましょう」


 二人は真剣な眼差しで修行を始めるのだった。

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