第4話 奏多、傍観する

 ダンジョンの中は荒らしで悲惨な状態だった。

 地面は割れ、避難し終えた探検家たちのアイテムがあたりに散らばっている。


 俺らがダンジョンに入るやいなや俺たちを睨みつける数百人の荒らしたち。


「派遣されてきた探検家が男と女二人だけかよ」

「へへ、男の方は弱そうだけど、隣のばばぁはギリギリいけそうだわ」

「おい、あれは俺の獲物だぞ、お前は男の方をやれ」

「まとめてぶっ〇してやる」


 など、盗賊らしい言葉がずらりと耳に入った。

 そして言ってはいけないあの言葉。





“ばばぁ”







「奏多くんは手出ししないでくれるかしら?」

「わ、分かりました……」


 さっきとは声色が違う真奈美さん。

 気のせいだろうか周りの空気が一瞬ピリついた気がした。


「死刑執行」


 そう告げ、真奈美さんは何もない空間から女性の手には収まらないほどの大きな鎌を取り出す。

 その場でくるくると回した後、数百人いる敵へと突っ込んでゆく。


「はぁっ!」


 地面が大きく割れ、その場にいた数百人の荒らしたちが足場を失う。


「なんなんだよこのばばぁ!」

「相手は一人だ、いくぞ野郎ども!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


「うふふ、安心してちょうだい。すぐ終わらせてあげるわ」


 不敵な笑顔を浮かべる真奈美さん。その瞼の裏には鋭い目つきが隠れているに違いない。

 一応配信に映ってるんだけど大丈夫かな。


「たぁっ!!」


 真奈美さんは一人、二人、三人とその場で荒らしたちを無力化してゆく。

 大きな鎌を振り回すその姿はまさに悪魔。探検家からは『悪魔の執行人』と呼ばれているらしい。


「くそっ! こんだけ人数がいるんだ一斉攻撃で仕留めるぞ!」


 数十人にもおよぶ荒らしたちの攻撃が一斉に放たれる。

 だがそれを真奈美さんはいとも簡単に受け止め、弾き返す。さすがSSランクの探検家。

 すべての動きに無駄がない。


「こいつ、どんな力だよ!」

「あらあら? おばさんに傷一つつけられないのかしら? あなたたちって思ったより弱いのね……」


 その場で荒らしたちを煽る真奈美さん。


"真奈美さん激おこで草"

"俺は真奈美さんのこと大好きだぞ!"

"真奈美さんはお姉さんだぞ!"

"おばあさんは禁句ね。メモメモ"

"本当に悪魔で笑う"

"Devil Woman!"

"海外ニキも恐怖してるやん"

"さっきまでの笑顔はどこ行ったんだ……"

"無双ゲーしてるみたいで笑う"

"真奈美さんスキル使ってないよな。それであの強さってヤバすぎだろ"


 真奈美さんの戦闘を見て視聴者も大盛り上がり。いつの間にか同接も6000万人を突破していた。やっぱり真奈美さん効果は凄い。

 だけど、「悪魔」だの「おばさん」だの本人には絶対言ってはいけない言葉がたくさん流れ始めてしまった。

 真奈美さんがアーカイブを見ないことを祈ろう。


「な、なんなんだよこの女……」

「おい! 野郎どもずらかるぞ!」


 そして、当の俺は、ダンジョンから逃げようとする荒らしたちを倒していく簡単なお仕事をしている。


「うぐぅ!」

「おげぇ!」

「どうして俺たちがこんな目に……」


 村正は使わず、パンチで荒らしたちを撃退していく。

 これは楽だ。


 もう、敵がどっちなのか分からなくなってきたけど……。


"奏多お荷物すぎて笑うわ"

"今回は真奈美さんに手柄を渡すスタイルね"

"こちら側が敵サイドですかこれ?"

"もう可哀想だからやめてあげて"

"荒らし側に同情したくなるのはどうしてだろう"


 そして、真奈美さんは約五分で数百人の荒らしたちを無力化してしまった。

 俺の出番はほとんどなかった。


「ん~! 久しぶりにたくさん動いたから、肩が凝っちゃったわ~」

「お疲れ様です」


 伸びをする真奈美さん。

 大きな胸がその場で揺れる。恐らくそれが原因だろう。


 ――すると、ダンジョンの奥からモンスターの影が三体鳴き声を発しながらこちらに向かってきた。


『ガガガガガガガガガ』

『ギギギギギギギギギ』

『グググググググググ』


 黒いローブに身を包んだモンスターが三体。

 間違いない。さっき受注した依頼に書いてあった見た目と一致する。


「あら、次から次へと忙しいわね……せっかく一息つけると思ったのに」


"どんなモンスターなの?"

"これ新種じゃないか?"

"奏多がどう戦っていくか見ものだな"

"でも、結局斬撃でワンパンじゃないの?"

"奏多気をつけろー!"

"油断したら死ぬ可能性もあるからな"


 まさかわざわざ向こうから現れてくれるとは……。


「真奈美さんは下がっていてください。ここからは選手交代で行きましょう」


 配信を開始してからいいとこなしだし、それに真奈美さんに手柄を渡されるのも困っていた。

 ここは俺の出番だろう。


「うふふ、それじゃあ遠慮なく、サポートなら任せてちょうだい」


 俺は、真奈美さんにそう告げ、村正に手をかけた。

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