第235話 リュージーンはどこに?

「Sランク級の冒険者なら、例え他国の人間だったとしても、冒険者ギルドとしてその者の情報を把握しているはずではないのか?」


「いえ、それが、その者の冒険者ランクはFなんです……。そのため、大した情報が記録されていないようでして。なんでも、旅をするのに冒険者の身分証を利用しているだけだと言ってまして、ランクアップには興味ないと……」


「怪しい話だな。その、魔法が無効化されたというのは、何か魔道具を使ったのではないのか? 隣国の新兵器とか?」


「私もそれを疑ったのですが、魔道具ではないと……特異体質だと本人が言っておりました」


「体質? 魔法が無効な? そんなの聞いた事がない。というかあるわけないだろう……。信じられんな。……その、対戦した冒険者にも話を聞きたい、誰か呼べるか?」


「ちょうど、モルボが居たはず……おい、ピンコ、モルボを呼んできてくれ!」


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「大勢で一人を襲うという、リンチまがいの事をしたらしいな?」


「い、いえ! 本人がいいと言ったんですよ! 本人が無理な様子なら止めるつもりだったんで……本当です」


「まぁ今はとりあえずそれはいい、で、どうだった? それほど強力な魔法使いなのか、そのリュージーンという冒険者は? 実際に戦った者としての印象は?」


「いえ、それが……あいつは魔法は使っていなかったんです、終始、俺たちは殴られて……恐ろしいスピードで、呪文詠唱の間に全員瞬殺でした……」


「だが無詠唱が可能な者も居たと聞くが?」


「はい、私がBランクでした、無詠唱が可能です、が、魔法はすべて躱されてしまいまして……最終的に仲間全員で拘束魔法を使って奴を捕らえ、動けない状態で魔法で攻撃したのですが、攻撃は到達する前に全て霧のように消えてしまい、拘束魔法も霧散してしまいまして……結局、殴り倒されて負けたんです……」


「それだ、その、魔法の無効化というのは……奴は何か魔法を使っていたか?」


「いえ、すみません、まったく分かりません……」


「魔法が効かない物理特化の超高速戦士か……まさか、フェルマーはそんな戦士を育てているのか?」


「いえ、模擬戦の後、少し話したんですが、そんな真似ができるのは自分だけだと言っていました。それと、フェルマーの人間でもない、通過してきただけだと」


「あ、その者は、魔法が使えないわけじゃないです、実際に使って見せてくれました」


「ああ、そうだった」


「模擬戦の後、手から炎の奔流を放ち、なんと、訓練場の壁に穴が開いてしまったんです……」


「なんだと? 訓練場の魔法障壁が壊れていたのか?!」


「いえそれが、障壁は正常でした。単純に、それを上回る攻撃を加えられただけのようです」


「いやいやいや、ありえんだろう? 訓練場の魔法障壁の発生装置は、この “不滅の要塞” ドロテア・リンジットが設計したのだぞ……?」


「そ、それが、その……」


「本当なのか……? その壁を見せてくれるか?」


席を立とうとするドロテア。


「いえ、もう修復されて元通りになっていますので」


「何? もう修理が終わってるのか? 早いな」


「いえ、それが、それを修理したのもそのリュージーンでして」


「…は?」


「修理代を請求すると言ったら、自分で直すと言って」


「壁を直す職人の技術も持っているのか?」


「いえ、それが、魔法で壁を直してしまいました」


「…は?? 壁を修理する魔法? 土属性の魔法か?」


「いえ、回復魔法だと言ってました……」


「…は??? 壁を直す回復魔法なんてあるわけないだろう! 何を言ってるんだお前は?」


「いえ、本当なんです、実際、壁は直っていますし……」


「うーむ……聞けば聞くほど信じられん。考えられるのは……


…幻覚を見せられていた?!」


「……ああ! なるほど、それなら全て辻褄があいますね!」


「だが、全員揃って幻覚にを見せるなど、それも信じられん……


とりあえず、そのリュージーンという冒険者に会ってみないと何とも言えんな。手配してくれるか?」


「ピンコ、受付に徹底しておけ。もし、リュージーンが来たらすぐに知らせろ」


「はい…、でも、リュージーンは昨日も今日も顔を出していません」


「何か依頼を受けて出掛けたか?」


「いえ、依頼は何も受けずに帰りました」


「まさか、街を出たか?」


「いえ、街の衛兵にも、もしリュージーンという冒険者が街を出ようとしたら知らせてくれるように頼んでありますが、まだ街を出たという情報は来ていません」


「奴はどこに泊まっているんだ?」


「分かりません」


「訊かなかったのか?」


「いえ、訊きましたよ! でも、入国してその足でここに来たそうで、あの時点ではまだ宿も決まっていないと言っていたのです……」


「リュージーンと連れの女なら、街の中をブラブラ歩きまわっているのを見かけましたよ?」


「……街の様子を探っている? やはりどこかのスパイか?」


「いえ、店の人間に、街の観光スポットについて聞いていました」


「……やはりただの旅行者?」


「取り敢えず、奴を捕まえてギルドに顔を出すように伝えろ! 冒険者が泊まっていそうな安宿を回れば見つかるだろう」


だが、ギルド職員が宿を回ったものの、残念ながらリュージーンはどこの宿にも見つからなかった。当然である、二人は高級宿に宿泊していたのだが、職員はそんなところに二人が泊まっているなどとはつゆ思っていなかったのだから……


仕方なく、その日はドロテアも街で宿を取る事にした。王宮でもトップクラスの地位にあるドロテアである、宿泊は高級宿である。部屋をとり、食事をしようと宿のレストランに向かったドロテア。店内にはちらほら数人の客が食事していたが……。


「ずっと猫の姿でいればいいのに、そうすれば食費も浮く」(笑)


「いやよ、キャットフード食べさせる気でしょ? 食事は人間の姿で食べます、金持ってるんだからケチケチするな」


すぐ近くの席で目的のリュージーンが食事をしていたのだが、ドロテアは気づかないのであった……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュージーン捕獲命令


乞うご期待!



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