第148話 リューの棒読み迷演技にイライラが苛々

「……もうあの頃の俺ではないさ。時が行けば誰でも成長するもんだろう?」


「ほう? 面白い、今からそれを確かめてやる。まずはパピコ、相手をしてやれ! この間は油断して醜態を晒したらしいが、今度は油断するなよ? 万年Gランクにこの街のEランクの実力ちからを見せつけてやれ!」


リューとパピコは練習用の木剣を渡され、訓練場の広場の中央に移動する。


構える二人。


「この間は油断したが、今日はそうはいかねぇ! 最初から全力でやらせてもらうからな、覚悟しろ!」


そう叫ぶとパピコはいきなり打ち掛かってきた。それを剣で受け止めたリュー。そこから一気に打ち合いが始まる。


カンカンカンカンと木剣同士が当たる音が響く。


一見互角に見えるが……


もちろんリューはかなり手加減していた。


パピコはEランクの冒険者であるが、この街のEランクは他の街で冒険者になった者のD~Cランクの実力ちからがある。


だが、それでもリュー相手ではかなり力不足であった……。


リューは時空魔法も一切使用せず、素の身体能力だけを使っているのだが、それでも、パピコの剣はリューにとっては十分遅いのであった。


だが、リューは今は力を誇示する気がない。今回、リューはなるべく目立たないようにするつもりであった。実際、それはそこそこ上手く行っているとリューは思っていた。


パピコ相手にも、格上相手になんとか互角でやりあえているというていを演じるリュー。


ただ、さすがにこのレベルの相手に負けてやるつもりはなかったので、適当なところで一本取る事にした。


相手の剣筋を見切ったリュー。振り下ろされてくる剣を数ミリという紙一重の距離で空振りさせ、カウンターで胴を薙ぐ。剣が当たったと思った瞬間空振りしてしまったパピコは、前のめりの体制のまま、まともにリューの胴打ちを受けてしまう。


「ぐっ」と言う声を出しながら前に一回転して倒れたパピコ。


「あっ、ええと、すまん、大丈夫か?」


「ばかな~~~ちっっっくしょーーー!」


「まぐれ当たりだよ。もうダメだと思って破れかぶれに振り抜いたら当たった」


我ながら名演技だとリューは内心自画自賛していたが、そんな迷演技にイライラは苦い顔をしていた。


「ふん、やはりマグレか! もう一度だ、次こそ…」


「もういい! 次、カイロ、行け!」


イライラに言われて慌てて出てくるカイロ。


パピコはまだやれると抗議したが、イライラにジロリと睨まれてスゴスゴ下がっていった。


休む間もなく相手をさせられるリュー。今回も相手に合わせて適当に打ち合う。カイロはDランクの冒険者であったが、残念ながらカイロもまた、リューの相手にはならないレベルであった。


ただ今回リューは、適当なところでカウンターを食らって負けて見せる事にした。勝ったら負けるまで延々続けさせられそうな気がしたためである。今はあまり目立ちたくないのだ。Eランクに勝って、Dランクには負ける、元経験者としては妥当なレベルであろう。


「ああっ!」とリューは声をあげながら倒れた。


起き上がったリューは言った。 


「いやぁ、サスガDランク、敵ワナイナ~」


「お前……


…いい加減にしろよ?」


リューの迷演技の棒読みセリフに、イライラの苛々は頂点に達していた。


「「?」」


「カイロ、お前、今ので本当に勝ったと思ったか?」


「……いや、正直言うと、相手が自分から当たりに来たような……」


「それに、打たれたにしては、何のダメージも受けていないようだな」


リューは常に次元障壁を自分の体に沿わせて纏っているのでノーダメージである。


「リュージーン、お前、手抜きとは、舐めた真似をしてくれるなぁ?」


「ありゃぁ……? バレてーら?」


「おいパピコ、 今日は “蒼天の虹” がギルドに来てるはずだろ、呼んでこい!」


イライラの剣幕に慌ててパピコが呼びに行ったのは、Bランクパーティ “蒼天の虹” のメンバーである。


やってきた冒険者は三人。名乗れとイライラに言われて名乗った。


「ジェロ、Cランクだ」

「サラディ、Bランク」

「ヴァーレ、Aランク」


「イライラ、新人教育なんてEランクだけで十分なんじゃないのか?」


「ふん、実力を隠して弱いフリをする元経験者殿が居るんでな。どの程度の実力もんなのか確かめてやろうと思ってな。ジェロ、サラディ、ヴァーレの順に相手してやれ! 手加減は無用だ、殺すつもりでやれ」


「殺すつもりって、酷いな。じゃぁ俺もそうさせてもらうか、殺されたくないんでな」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


イライラは相手をしないの?


乞うご期待!



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