第139話 ヴァンパイアロードの居城に乗り込むリュー
「どうしてもやる必要があるのか?」
「当然だ。退けたとは言え、侵略を受けて反撃せずに泣き寝入りして終われば、相手に勘違いさせる事になる。平和を維持したいなら、手を出したら手痛い反撃を受けるという事を示す必要がある。そうでなければ、またいずれ侵略を受けることになるぞ」
ラルゴ王が健在であったからリューは戦後処理は任せたのだ。ラルゴ王なら外交面でもうまく立ち回る事ができたであろう。
だが今後は政治的には未熟なソフィが国を治めていかねばならない。防衛の意味でもきっちり報復する事は必要な事だとリューは考えたのだ。
反撃の方法については、自分に一任してもらえれば、きっちり片を付けてくるとリューは言った。
リューとしても―――特に赤魔大国については―――きっちり落とし前を付けておきたい。
相手には相手の正義があるだろう。敵の大将のヴァンパイアロードが言っていたとおり、単に食料を狩りに来ただけなのかも知れない。人間達も獣や魔物を狩って食べているではないかと言われると言い返せない部分もある。
だが、リューとしても、第二の故郷とも言うべきミムルを滅ぼされたのだ。相手が何と言おうと、やられた分はやり返す。
赤魔大国にリューは単身で乗り込む。神眼の能力をフルに発揮し、国境の先をサーチ、逃げたヴァンパイアロードの居城は既に突き止めてあった。
実は、ロードを殺す方法については、未だリューにも浮かんではいないのだが……
色々非常識なこの世界である。もしかしたら、ヴァンパイアが不死身であるというのは本当かも知れない。
だが、目的は報復である。必ずしもロードを殺す必要もない。むしろ殺してしまったら報復にならない。生かしてしっかりと報復を見届けてもらうほうがよい。
* * * *
ヴァンパイアロードの居城
リューの目の前にはヴァンパイアロードが座っている。転移でいきなり敵将の前に乗り込んだのだ。
わざわざ正面から乗り込んだのは、これが侵略を受けた事に対する報復であると言うことを宣言するためである。
リューはガリーザ王国を代表して来た大使でもあるのだ。
「!? お前は……あの時の?」
「リュージーンだ、ネムロイ伯爵」
「何故私の名を知っている? あの時……いや、やはり名乗った覚えはないが。つまり……こちらの情報は調査済みということか、人間もなかなかやるな。何の用だ?」
「何の用? 俺の故郷とも言うべき街を滅ぼしておいて、とぼけるつもりか?」
「復讐に来たのか……
あの時言ったはずだ、我々はお前と戦う気はない」
「そんな言い分が通用すると思うか?」
「故郷と言ったな? お前の家族が死んだのか……? それは済まない事をした。
だが、我々も食料を得るために狩りをしただけだ。お前達も同じ事をしているだろう、獣や魔物を狩って食べている、違うか?」
「魔物が殺された家族の復讐に来るというなら、堂々と受けて立つさ。
攻撃したからには反撃される事は覚悟すべきだろう?
それに王国としても、侵略を受けて報復しないわけには行かない。一方的に国民を虐殺されて泣き寝入りするなら国家としての体裁が保てんからな」
「……お前が手強いのは知っている。戦って負けるとは思わないが、お互いに、払う代償は大きくなるだろう。やめておいたほうが賢い判断というものではないか?」
「確かに、俺も戦って負けるとは思わないが、お前を倒す手立てを思いついていないのは事実だ。
だが……
俺もお前と戦いに来たわけではない。やられたらやり返す。街を滅ぼされたのなら、同じことをやり返す。それだけの事だ。
わざわざ顔を出したのは、攻撃は王国からの報復である事を宣言しに来た」
「街を滅ぼす? どうするつもりだ? いくらお前が強くとも、一人ではどうにもなるまい。街には俺ほどではないにせよ、部下のヴァンパイアが多数居るのだぞ? 人間の軍隊を連れてきたとしても我々が負けるとも思えん」
「おれがやるのは一つだけだ。ヒュドラを街に放つ」
「……!? ヒュドラだと?! そんな事ができるものか?!」
「お前が滅ぼしたミムルの街の近くにダンジョンがあったのを知っているか? そのダンジョンのボスモンスターがヒュドラだ。それを街に転移させる。一度戦ったことがあるが、なかなか厄介なモンスターだぞ? まぁ、お前ほどの力があれば、退治する事は不可能じゃないだろうが、それなりにいい仕事はしてもらえそうだと思うんだが、どうだ?」
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ヴァンパイア土下座
乞うご期待!
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