第137話 Side Duke ~ 断頭台のジョルゴ

◆時は少しさかのぼり、リューが追放処分(?)となった直後のサイド・ジョルゴ


「うむむむ、ラルゴめぇ……なにが王命だ、偉そうに! しかもどこの馬の骨とも分からんガキを信用して、大金まで支払うとは! 奴はう゛ぁかなのか?! こうなったら……やはり早々に奴には引退してもらうしかないな」


「父上、ソフィは殺さないでよ、僕の奥さんにするんだから」


「できればソフィも消してしまったほうがいいんじゃが……王位継承権はソフィのほうがお前より上じゃからな」


「いやいやだめだよ、絶対だからね!」


「仕方ない。まぁ妻になったら余計な事を考えんようしっかり躾るんじゃぞ」


「ソフィを調教……楽しみだなぁ」


涎を拭きながらローダンがニヤける。


「で、どうするの? やっぱり暗殺者ギルドに頼む? それとも例の薬?」


「暗殺者ギルドは高い金を取る割に失敗する可能性があるからのう。先日も、クーデター派の貴族が王を暗殺しようとギルドに依頼したらしいが、あのリュージーンに簡単に捕らえられてしまったという噂じゃ」


「リュージーン……」


ローダンはリューに斬り落とされた腕を擦って怯えた顔をした。


「まさか、ワルドが敵わないほどとは思わなかったよ。あの天才ワルドより強い剣士が居るなんてね……」


「だが、奴はもう居ない! ……自分から出ていってくれてよかったわい」


    ・

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結局、ジョルゴは暗殺者ギルドに払う金をケチり、王と王子に薬を盛る事にしたのだった。


殺すためではない、飲ませると、死にはしないが意識レベルを著しく低下させ、知能も損ない錯乱状態にして自分の意志をなくさせてしまう薬である。心を壊して操り人形にしてしまうつもりだったのだ。


そして、下手に暗殺者を使わなかったのが良かった。夜遅くまで公務に追われていた王と王子、ローダンもそれに付き合わされ、仕事を手伝わされていたのだ。


ローダンを気遣って、ジョルゴが気を効かせてお茶を淹れさせる事は極めて自然な事だったのである。


そうして、まんまと王と王子に薬を盛る事に成功したのであった。


(ちなみに三男マルケスは頭の堅い正論を主張するタイプで、いちいちジョルゴのやり方に異を唱えてくるので面倒になって遠ざけていた。たとえ息子であっても、自分に対してうるさく言う人間はジョルゴは嫌いなのである。性格的にも権謀術数渦巻く政治の世界にはマルケスは向かないだろうと判断し、優秀な家庭教師をつけて将来は学者にでもさせるつもりであったのだが、実はその家庭教師がマルケスに間違いは正すべきと指導していた事までは気付いていなかった。)


ジョルゴは本当はソフィにも同じ薬を盛って操り人形にしてしまいたかったのであるが、ローダンが人形が妻では面白くない、自分がきっちり調教したいと言うので任せることにしたのだ。


しかし、ここで誤算があった。薬の量を間違ってしまったのである。精神を壊すだけで殺す気はなかったのだが、予定の倍の量を使ってしまい、ショックで王と王子が死んでしまったのである。


そこで慌ててお茶を淹れたメイドを殺し、暗殺者ギルドの犯人に仕立て上げたのだ。(薬の量を間違えたのはそのメイドだとジョルゴは思っていたが、実はジョルゴの指示が間違っていただけであったのだが。)


あとは、既に公爵派として取り込んでいた者達と結託し、さっさと王と王子の遺体を処分し、自分が摂政の地位についたのであった。


ソフィが王位継承権第一位であるが、未だ15歳で政治に関わった経験が少ないとジョルゴは主張、公爵派の者達に同意させ、自らが摂政の座についたのである。


そしてジョルゴは、王宮内に残っていた宰相を始めとするラルゴ王のシンパの家臣達をあっという間に更迭し王宮から排除したのであった。


ソフィは監禁してある、これで安泰、盤石。





そうなってまず行ったのは、民から徴収する税率を上げる事であった。実は、倹約家のラルゴ王に贅沢を禁じられ、かなり締め付けられていた公爵家の台所事情はかなり苦しかったのである。それを立て直すため、税金を三倍にあげると発表したのだった。(もちろん名目は別の理由となっているが)


だが、そんな時に、リュージーンが監禁されているソフィを助けに王都に戻ってきているという情報が入ってきたのである。


もしソフィを奪い取られてしまったらやっかいな事になる。王宮内の人心は公爵が掌握しているとはいえ、ソフィには根強い人気がある。そして何より王位継承権第一なのだ。それを主張されるとジョルゴには大義がなくなってしまうのである。


確かにリューは強かった。驚くほどであった。なにせ【剣聖】が負けたというくらいである。正面から戦って勝てる相手ではない。


だが、暗殺には対応できまいとジョルゴは高をくくっていたのであった。あれだけ警備厳重な王と王子だって、自分たちの手にかかればあっさりと毒殺に成功してしまった。


素人のリュージーンであれば、プロの暗殺者には敵うまい。


クーデター派の貴族が送った暗殺者をリュージーンが捕らえたという話はあったが、あれはリュージーンを狙った暗殺ではなかった。リュージーンもまさか自分が直接狙われるとは思っていないはず。それに失敗した連中はきっと金をケチったのであろう。金は掛かるが一流の暗殺者を雇えば大丈夫だろう。王達の時には金を節約したのにリュージーンごときに大金を使うのは癪に障るが、リュージーンが手強いのはもう十分理解った。自分たちが直接手を下すのはさすがに危険過ぎる。


     ・

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だが、ジョルゴが雇った暗殺者はリューに倒されてしまったという報告が届けられ、結局、その後リュージーンの襲撃を受け公爵は捕らえられる事になってしまうのであったが……


ちょうど公爵がリュージーンに捕らえられていた頃、王都の公爵家の屋敷。


一台の馬車が門を潜り屋敷に入っていた。馬車から居りてきたのはジョルゴ公爵その人であった。


リュージーンに捕らえられ、王宮の牢に入れられたはずのジョルゴが何故ここに居るのか?


それは、暗殺が失敗したと聞いた時、当然リュージーンが乗り込んでくるだろうと予想したジョルゴは、影武者を玉座に座らせ(できればソフィを殺すよう命じ)自分は秘密裏に王宮から脱出していたのである。


(ちなみに牢に入っているローダンは本物である。我が身の命がかかっているとなったら、可愛がっていた息子達ですら平気で裏切る、基本自分さえよければいい、それがジョルゴという男である。)


屋敷に戻ったジョルゴはすぐに屋敷から金目のモノを馬車に積ませ、王都を脱出した。


「実は生きていた」と公爵が舞い戻り、王位に着く、そんな計画であった。


王宮からは公爵派の人間は排除されてしまうだろうが、実は金を渡して隠れ公爵派となっている者もそれなりに仕込んであった。長い間王位を奪うチャンスを狙って準備してきたジョルゴである、その辺は抜かり無いのであった。その者達を使えば、リュージーンの居ない時を狙えばソフィ暗殺は難しくはないだろう。所詮は経験の浅い小娘である、自分の信頼している部下に裏切られたらひとタマリもあるまい。





王都を脱出したジョルゴは、数日掛かって王都からかなり離れたとある街にある隠れ家に辿り着き、そこに潜伏して機を待つ事にした。


折しも、今日は牢に入っているジョルゴ公爵(既にジョルゴからは爵位は剥奪される事が決定していたので“元”公爵だが)とローダンの処刑が行われるというタイミングの日であった。


影武者は、魔道具と薬を使って洗脳、公爵本人であると完全に思い込ませているのでバレる心配はないはずである。自分が死んだ事になれば、追っ手に怯える必要はもうなくなる。


あまり贅沢な暮らしができないのが悔しいところだが、いずれソフィさえ消すことができれば、王位継承権は自分が第一位となるのだ。チャンスはきっとあると思っていた。


だが……





書斎の椅子に座り、王都から瓦版を届けさせ読んでいたジョルゴ。


だが、自分以外、誰も居なかったはずの室内に人の気配を感じる。


顔を上げると、そこにはリュージーンが立っていた。


「さぁ、処刑の時間だぞ、公爵?」


「リュ、リュージン……!! …っ誰か! 誰か居らぬか! 侵入者だ!!」


大声をあげ、護衛の騎士を呼ぼうとしたジョルゴであったが、リューの時空魔法によって部屋は完全に外界と遮断されており、声は外には届かないのであった。


そして、魔法陣がジョルゴの足元に浮かぶ…




   *  *  *  *




処刑場、ギロチンに掛けられているジョルゴ公爵の影武者。本人は自分を公爵本人だと思い込み、最期まで悪態をついている。


だが、その影武者の下に魔法陣が浮かぶ……


    ・

    ・

    ・


「…………?! ここは?!」


先程まで王都から離れた街にある隠れ家の書斎に居たはずのジョルゴは、突然自分がギロチンに掛けられている事に気づき、パニックに陥った。


「逃げられると思ったか?」


「ジョルゴ伯父上、きちんと罪を償うのじゃ」


ふと見ると、前の台に見覚えのある人物の生首が乗せられている。既に処刑を終えた息子のローダンであった。ローダンの首は目を閉じておらず、虚ろな瞳がジョルゴを見つめていた。


それを見てガクガクと震え出し小便を漏らしてしまうジョルゴ。


先程まで、コーヒーを飲みながら優雅な朝を過ごしていたはずなのに……!突然、気がついたらギロチンにかけられ、殺されようとしているのだ。


ジョルゴはパニック状態で喚き散らすが、もはや何を言っているのか分からない。


ソフィは踵を返し、その場を離れていった。


ソフィの姿が見えなくなったところで、処刑係がジョルゴに見えるように斧を掲げる。


「や、やめろ~~~~~!」


処刑係は、無言でギロチンの刃を固定しているロープを切ったのであった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


けじめは必要です


乞うご期待!



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