第127話 人類の敵?

リューは、先程助けた女に王への報告を頼み転移で王宮へ送ると、街の中でどこかにまだ生き残っている人間が居ないか神眼を発動して調べた。


街全体に探知範囲を広げてみたが、残念ながら他に生きている人間は発見できない。


ただ、先程の戦闘の前は、下級種と思われる吸血鬼ヴァンパイアが街中に居る気配を感じていたのだが、もうどこにも吸血鬼は感知できなかった。


街の中を跋扈していた魔獣も街から出て行っているようだ。


おそらく先程のロードが撤退命令を出したのだろう。


吸血鬼を追い払った後、街中の魔獣を掃討しなければいけないと思っていたリューであったが、どうやらその手間は必要ないようだ。


リューは、隣街のトロメ(=旧ギット子爵領)にも転移で移動してみたが、状況はだいたい同じであった。街に生きている人間は居らず、魔獣達も撤退済み。ゴーストタウンのような不気味さとなっていた。


さらに赤魔大国との国境の街であるヴァレードも確認してみたが、同様の状態であった。


ヴァレードは第二王子のアジーが防衛していたはずなのだが、生きている者は誰も居ないので、おそらく死んだのだろう。


リューのような者がいるなら割に合わないからこの国には攻め込まないような事をロードは言ってはいたが、早急に国境の軍備はしっかり堅めておく必要はあるだろう。


とりあえず、リューは王都に帰る事にした。




   *  *  *  *




転移で王宮に戻ったリューは、王に魔族の事を報告した。


王は宰相に、魔族について王宮の資料庫にある古い文献を調査するよう指示した。資料の確認はリューも一緒に手伝わせてもらう。


それによって分かってきたのは、吸血鬼ヴァンパイアというのは魔族の中でも最強に近い種族であるという事。


赤魔大国を支配している“魔王”はヴァンパイアなのかも知れない。


伝説に語られるヴァンパイアの実力ちからが本物であるなら、とても人間が太刀打ちできる相手ではなさそうである。


リュー自身も戦ってみて、負けはしなかったが倒す手段が思いつかない。


リュー自身も能力を全開にしていないと負けてしまいそうなほどである。そんな奴らがその気になれば人類は簡単に滅ぼされてしまうだろう。


だが、ヴァンパイアは魔族の中では比較的穏健派で理性的であり、人間を滅ぼすというよりは共存を考える傾向が強いらしい。


人間が彼らの食料であるとするならば、人間を滅ぼしてしまうのは彼らも困る事になるのだから当然であろう。


そういう意味では、ガリーザ王国の人間にとっては、隣国が―――魔族の中では比較的理性的な―――ヴァンパイアの国であると判明したのは、不幸中の幸いと言えるかも知れない。


魔族の中には、人間を敵視し、問答無用で滅ぼしてしまおうと考えるような種族も存在するのだから。


ガリーザ国王は近隣の国に、魔族が再び世界に現れた事を通達し、警戒を訴える事にした。(実はもともと消えては居らず、普通に国として存在していたのだが)


魔族が姿を消して2000年以上だが、ここ500年ほどは、人間同士で戦争を繰り返し領土を奪い合っていた。だが、人間より遥かに危険な存在が現れたとしたら、人間同士で争っている場合ではない。力を併せて防御を固める必要があるだろう。




   *  *  *  *




それから数日後、リューは、王宮を離れ、西の国境の街ヴァレードに来ていた。


ヴァレードの城壁の外に立つリューの目は、魔族の国がある西の方向を睨んでいた。


「行くか……」


そう呟いたリューは、時空魔法を発動する。


時間を操作する魔法、これまでもケガ人を治療するのに使ってきた時間を逆行する魔法であるが、それを、これまでやった事がないほど全身全霊を込めて発動する。


やがて、リューの姿が消える。


時間転移。リューは空間ではなく時の壁を超え、過去の世界へ―――魔族の襲撃が起きる前の時点に戻ったのだ。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


国境を越えようとする魔族を迎撃


乞うご期待!



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