第125話 街を襲ったもの
確かに人らしきものが数人居た。
だが、それは、人間ではなかった。
……魔族?
赤魔大国とは、魔族の国であったのだ……
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この世界には、人間以外にも知能の高い“人型”の種族が居る。
「亜人」と呼んだりする。
ガリーザ王国には亜人は少ないのであまり見かけないのだが、亜人がたくさん居る国や、亜人だけで形成された国などもある。
ただ、亜人と言われる種族は総じて人間に近く、人間と共存している。中には人間にあまり良い感情を抱いておらず、人間と接点を持たない種族も居るが、人間と敵対まではしていない事がほとんどである。
「魔人」と呼ぶ。
ゴブリンやオークなど、集落を形勢し家などを建てる魔物がいるのだから、それ以上に高度な知能を持った魔物が存在してもおかしくはないわけである。
それら魔族は、人間や亜人よりも圧倒的に強く、魔獣を従え使役する。
そして、魔族は基本的に、人間とは敵対する存在である。それは、魔族にとっては、人間は食料に過ぎないからである。
人間が動物や魔獣を狩って食べたり、植物を伐採して食べたりするのと同じように、魔族が人間や亜人を狩って食べるのは生きるために当然の行動なのだ。
地球であれば、言葉が通じるほどの知能が高い動物を食べる事は躊躇われるという区別があるかも知れない。そもそも、地球には人間以外に知的生命体がいないので問題が起きない。だが、この世界では、オークなど、稚拙であるにせよ、ある程度の知能がある魔物も食料として食べたりするのであるから、知能の高低では区別をつけないのである。
仮に、地球で、人間以外の動植物、全ての生命が全て高い知能を持ち、言葉を話すような状態であったとしたら……?
それでも、他の生物を食べなければ生きていけない。そのような世界であれば、言葉を話すほど知能が高いという事は、食料にしてはならない理由ではなくなるであろう。
当然、人間・亜人連合と魔族は対立する事になる。魔族の側は単なる食料なのだから憎しみまでは抱いていないのだが、人間・亜人からすれば、家族や仲間を食われる天敵であり、憎しみの対象となる。それ故、過去に人間・亜人連合が魔族に戦争をしかけた歴史があった。そして、その戦争に人間側が勝ったのである。
「勇者」と呼び、魔族側の王を魔王と呼んだ。それが現在に伝わる勇者の魔王討伐物語に語り継がれているのである。
ただ、最後に人間と魔族が戦ったのは2000年以上前の事であり、その時、魔族は絶滅したと思われていた。それ以降、人間達は魔族の存在を忘れつつあったのである。
「国家」を形成し、力を蓄えていたのである。そのひとつが赤魔大国であったのだ。
ただ、魔族達は潜伏して復讐のチャンスを狙っていたというわけではない。彼らにとって人間は、単なる食料でしかない。人間が食料となる獣に逆襲され一時退却したのと同じ状態と考えれば分かりやすい。
野生の動物が食われまいとして人間を攻撃してくるのは当然の事であり、あまり被害が大きければ駆除を考えるが、その種そのものに憎しみを抱くという事には通常はならない。
人間も個人的に家族を殺されて憎しみを抱くような事はあるだろうが、魔族は家族の繋がりの意識が人間より希薄であるので、それもなかったのである。
そして、人間も、いくら憎くても食料である動物を全て滅ぼそうとは考えないだろう。食べ物がなくなってしまうのは人間も困るのである。
魔族もまたそれと同じ状況・感覚でしかなかったのである。人間と同じ、狩って食べる。時は家畜として保護・飼育したりもする。食料である以上、憎しみもなければ滅ぼす事も考えられないのである。
では、赤魔大国が長きに渡って隣国に手を出さなかったのはなぜか? それも深い理由はなかった。
人間も、危険な動物が居ても、その動物と生活圏が接していないならば、わざわざ相手の生活圏に出掛けて行って争ったりはしないだろう。
だが、その動物が食べると美味で希少価値があり、かつ確実に狩る事ができる方法があるなら、狩りに行く事はある。
今回、彼らが侵攻してきたのは、獲物側の防備が手薄になっていたので、狩りに来ただけなのであった。
ただ、魔人は人族よりはるかに強い。喩えるなら、リュージーン(レベル1)と同じような強さの者がたくさん攻めて来るようなものなのである。しかも、人間の側の防備は手薄になっていた。襲ってみたら、人間の側があまりに脆く、あれよあれよと街を三つ陥落させてしまったのであった。
それは、人間が武器を使って一方的に動物を狩っていくのと変わらないかも知れない。
― ― ― ― ― ― ― ―
リューは、シスター達の微弱な魔力を感知した領主の館に飛び、そこで魔族を発見した。
領主の家の前庭に、何人も人間が転がっている。どうやらすべて既に死体であるようだ。ただし、町中で魔獣に食い散らかされた死体とは違い、人間の形を保っている。
屋敷の中を神眼サーチしてみると、屋敷の玄関を入ったホールにまだ生きている人間が居るのを感知。リューが中に入ってみると、一人の魔人が人間の首筋に噛み付いて、血液を吸い取っている所であった。
「吸血鬼」であったのだ。
リューは血を吸っていた吸血鬼を即座に次元断裂で斬り飛ばす。血を吸われていた人間は干からびて絶命してしまったところであったが、死後直後だったので時間を巻き戻し生き返らせる事ができた。
血を吸われていたのは若い女であった。
「おい、大丈夫か?」
「あ……あ…? 助かった…の?」
「何があった?」
「何が……
ああ…吸血鬼よ!
吸血鬼に街が襲われたの! 魔獣もたくさん入り込んできて、街をめちゃめちゃに……」
「スラムの教会のシスターと子供達を知らないか?」
だが、女の答えはリューの期待を裏切るものであった。
領主の屋敷を占拠した吸血鬼たちは、使役する魔獣を使い、若い女と子供を屋敷に集めさせたという。そして、吸血鬼たちのごちそうとして、順番に血を吸われたのだと。
女に教えられ裏庭に行ったリューは、そこで見たくなかったものを発見した。
多数の干からびた死体が転がっており、その中に子供達とシスターの服を着た死体があったのだ・・・
近づいて確かめてみたリュー。干からびていて外見からは誰だか分からないほどであったが、身につけている衣服から、シスターアンと孤児院の子供達であるのは間違いない。微量な魔力の残滓はこの遺体から出ていたものであった。
残念ながら、シスター達は既に死んでから時間が経っているので、リューでも生き返らせる事はできないのであった。
その時、背後からリューを狙う攻撃があった。
もちろん危険予知能力によって回避したリュー。
振り返ると、数体の吸血鬼が立っていた。
「オ前ハ誰ダ?」
街に居た人間などすべて瞬殺してきたヴァンパイアは、攻撃を躱されて驚いているようであった。
リューは吸血鬼を睨みつける。
次の瞬間、吸血鬼達の身体はバラバラに切断されていた。
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次回予告
ヴァンパイアとバトル!
乞うご期待!
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