第23話 ビッグとパーティ結成?!

「おかしい……」

 

リューが冒険者達に襲われた日から数日後。

 

冒険者ギルドのマスター、ダニエルは困惑していた。

 

冒険者十数人の姿が見えなくなったのである。これで、レイドに参加した冒険者の大部分がいなくなってしまった事になる。(自主的に街を離れた者も多いのだが。)

 

最初は商業ギルドで依頼を受けているため、冒険者ギルドに寄り付かなくなっているのかと思ったが、そうではないらしい。

 

リューが恨みを抱いて冒険者達に復讐しているという噂はあった。

 

同時に、ヨルマ達がリューに対して何かする動きがあるのも、ダニエルは知っていた。

 

もしヨルマ達がリューを始末するのならそれでよし。よもやあの人数で返り討ちにあうことなどないだろうとダニエルは思っていた。

 

だが、まさか……

 

あれからリューは変わらず毎日ギルドに顔を出し続けている。ヨルマ達は姿を消した。

 

つまり、そういうことなんだろうか……?

 

 

 

 

ただ、冒険者が大幅に減ってしまった冒険者ギルドであったが、幸いにも―――という言い方はおかしいのだが―――依頼も激減していため、特に問題は起きていなかった。

 

それに、今、街にはAランクパーティ「赤い流星」が滞在している。彼らが活躍するようになれば、また冒険者ギルドの評判も上がり、状況も改善していくだろうと、漠然とした期待をダニエルは抱いていた。

 

 

 

 

赤い流星は、Aランク冒険者のアミラとジョジョ、Bランクのチャチャ、そしてリーダーである貴族のビッグの四人のパーティである。

 

Aランクパーティであるが、実はビッグのランクはBである。パーティがAランクなのはアミラとジョジョというAランク冒険者が二人居ることと、貴族のコネで認定されたのである。

 

しかも、ビッグのBというランクも、実は貴族のコネでゴリ押しして手に入れたもので、実際のところはビッグの実力はD相当というところであった。

 

実はこのパーティは、アミラ達の組んでいたAランクパーティ「流星」を、ビッグの父親が大金を積んで雇う事で結成されたパーティなのである。

 

 

 

 

「赤い流星」は現在、ダンジョンの情報を集めいているらしい。準備ができ次第、近日中に攻略を始めるらしいが、その日、赤い流星のメンバーは冒険者ギルドに併設された酒場で人を待っていた。

 

(最近は、商業ギルドでも酒場を設置したので、商業ギルドで受けた依頼をこなした冒険者たちはそのままそこで飲むようになり、冒険者ギルドの酒場も閑古鳥が鳴いているのであったが。)

 

やがて、いつものようにリューが冒険者ギルドに現れた。

 

依頼ボードを一瞥し、変わり映えがない事を確認した後、買取カウンターに向かおうとしたが、そこで、赤い流星のリーダー、ビッグに声をかけられた。

 

赤い流星の待ち人はリューであった。

 

 

 

 

「よお、リュー、元気か?」

 

「………」

 

無視して行こうとしたリューだったが、その腕を掴んで止めるビッグ。

 

「まぁ待てよリュー、友達じゃないか、無視するなよ。」

 

「お前と友達になった覚えは一度もないが? 忙しいんでな、構うな。」

 

リューはビッグの手を振り払い、買取カウンターに向かった。

 

いつものように倉庫に行き、解体済み素材の回収と、新たな解体依頼の素材の取り出しを行う。

 

最近リューは、大きめのバッグを持ち歩いており、それを使って素材を運搬していた。

 

正確には、運搬しているように「見せかけて」いたのだが。

 

何もないところから出したり入れたりする収納魔法はあまりにレアすぎてで、行く先々でいちいち好奇の目で見られ質問責めにされたり、しつこくスカウトされたりするので、面倒になってしまったのである。

 

そこで、バッグから物を出し入れすることで、そのバッグが内部を空間拡張されている「マジックバッグ」であるように見せかける事にしたのであった。

 

もちろん、そのバッグは魔導具などではなく、単なる普通のバッグである。リューはバッグに手をいれ、バッグから物を出し入れしているように見せかけながら、普通に亜空間収納庫から物を出し入れしているだけである。

 

最初にリューが亜空間収納を使うところを見てしまった者達は当然それを知っているが、リューに口止めされている。

 

空間収納魔法を使える者は非常に希少なので、見つかれば騒ぎになる事は間違いないのは皆、理解できるのでその事は暗黙の秘密ということになっていた。

 

おかげで、その後に知り合った者には、リューが非常に高性能なマジックバッグを持っている、と誤解させる事に成功していた。

 

よく観察すればバッグからモノが出し入れされていないのは分かるだろうが、リューがモノを出し入れするのを見る機会がある人間はそれほど多くないし、そこまでじっと観察する事もなかなかできないので、一見誤魔化す効果はあるのであった。

 

そうなると今度は、時々そのバッグを盗もうとする者が出てくる。

 

だが、リューには相手の悪意が読める。

 

神眼の能力で、心を読む事ができる。また、危険を察知する近接未来予知の能力があるのである。(悪意のある人間に騙されないために転生時に女神に要求した能力である。)

 

ただ、悪意を抱いている事が分かっても、その段階では何も罪を犯していないので、人間の社会のルールとしては裁く事ができない。

 

だが、具体的に盗みを働いた場合は、有罪として相手を捕えたり、場合によっては殺してしまっても問題ない。

 

あえてバッグの扱いをルーズにして隙を多く見せているのは、リューの罠なのであった。

 

 

 

 

冒険者ギルドの倉庫で素材の出し入れを行っていた時、影からビッグ達赤い流星のメンバーが様子を見ているのにリューは気付いていたので、あえてバッグの影になるような角度にして素材を出すようにした。

 

「これはすげぇな……」

 

ビッグ達は、リューのマジックバッグの性能に驚いていた様子である。彼らはリューのバッグに非常に興味を抱いているようである。

 

すると、ビッグが近づいてきてリューに言ったのだ。

 

「なぁ、俺達と一緒にダンジョンを攻略しないか?」

 

 

 

 

ビッグ達はリューをパーティに勧誘した、わけではなく、臨時雇いとして運び屋(ポーター)をさせたいという事であった。

 

リューのマジックバッグがあれば、大量の物資をダンジョンに持ち込む事ができる。物資は多ければ多いほど、ダンジョン内での活動時間が長くなる。大量の物資をバッグひとつという身軽さで持ち込めるのであれば、ダンジョン攻略の大きな助けになるはずである。

 

リューはビッグと仲良くする気などなかったが(そもそもリューであればダンジョン踏破も一人で可能なのである)、あえて、その申し出を受けることにしたのは、ビッグの紳士的な態度の裏側にある悪意を読み取っていたからであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

また置き去りにされる!

 

乞うご期待!

 

 

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