第16話 リュージーン、奴隷にされる

活気のなくなってしまった冒険者ギルド。

 

「全部ギルマスのせいだ」という職員の声もあからさまに聞こえるようになり、ダニエルは苛ついていたが、これといった打開策も見つからない。

 

職員はリューへの処分を撤回するべきだと言うが、そんな事はできない。処分は効果を上げているはずだ、そうに違いない。。。

 

……多分効果ががあるはず……効果あるといいなぁ……

 

 

 

そんなとき、ダニエルを喜ばせる客がミムルの街の冒険者ギルドにやってきた。

 

Aランクパーティの『赤い流星』である。

 

 

 

 

『赤い流星』は、とある遠方の街の貴族の息子ビッグが率いるパーティである。Aランク冒険者が多いパーティであるが、結成されたばかりで実績は多くない、いわば『売出し中』のパーティである。

 

そこで、『赤い流星』は手っ取り早く実績を上げるため、ミムルの街の東にあるダンジョンを攻略に来たのだった。

 

貴族であるビッグにペコペコするダニエル。この世界において、貴族の地位は絶対である。冒険者とは言え、貴族は丁重に扱わなければならないのだ。

 

Aランクパーティが居てくれれば、この街のギルドも箔がつく。上手く煽ててこの街に拠点を置いてもらえるよう仕向けたい。それに、Aランク冒険者であれば、リューに対抗できるだろう、そんな思惑もダニエルにはあったのだった。

 

 

 

 

そんな事をダニエルが考えているとは露知らず、リューは日課のように毎日冒険者ギルドに顔を出していた。

 

そうすれば、当然、『赤い流星』と出会うことになる。

 

そうして、リューはビッグと再会したのであった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ―

 

実はリューは、子供の頃、奴隷に落ちていた事がある。

 

ある日、とある商家の玄関先に、リューは捨てられていた。その商家の妻の一人が、リュージーンを拾い、育ててくれたのである。

 

だが、すぐに鑑定によって魔力無し、スキルなし、クラスなし、加護なしという事が判明してしまったリュージーン。

 

商家の主は冷徹な金の亡者で、無能な子供は要らないから捨ててしまえと言ったのだが、拾ってくれた母が「将来役に立つかもしれない」と庇ってくれ、とりあえず様子を見る事になったのであった。

 

父親には妻が4人おり、それぞれに子供が居た。つまりリューの義兄弟達である。兄弟達はみな何らかの才能を持っており、将来は家のために力になる事が期待されており、学校にも通わせて英才教育を受けさせていた。

 

リューは、義理の父親から愛情を注がれる事はなく、捨て子である事は早い時期からリューに伝えられていたが、育ての母からは本当の親子のような愛情を注いでもらい、十歳までは差別される事なく他の兄弟達と同じ様に育ったのだった。

 

だが、十歳になった時、その母が病死してしまった。

 

葬儀の後、すぐ父親に呼ばれて言われたのは

 

「生かしておけば何か役に立つ事も有るかと思ったが、やはり無駄でしかないと結論した。」

 

という事だった。

 

無能な子は要らない。リューは義父に出ていくよう宣告されたのだった。

 

しかも、父親はこれまでリューを養うために掛かった費用をリューに払えと言った。

 

リューも、自分をここまで養ってもらったことに感謝はしていたので支払いを了承、だがもちろん十歳の子供が金など持っていないので、出世払いで払うと言った。

 

だが、そんなのは待てん、今すぐ払ってもらうと、父親はリューを奴隷商に売り飛ばしてしまったのであった。

 

「大した金額にもならんかったな、大赤字だ!」

 

スキルもクラスも何も持っていないリューはあまり高くは売れなかったのだ。

 

そうして奴隷商の在庫に並んだリューであったが、たまたまそれを知った同級生が気の毒に思い、商人であった父に頼みこんでリューを買い取ってくれたのであった。

 

その同級生がリューの親友、サンダーであった。

 

サンダー専属奴隷と言う事になったリューであったが、サンダーとその父の厚意でこれまで通り学校にも通わせてもらえる事になった。

 

リューの立場はあくまで奴隷である。いたずらっ子のサンダーには誂われたり虐められたりもしたが、所詮は子供の悪ふざけ程度の話、二人の関係は良好であった。

 

リューはサンダーと彼の父には本当に感謝し、ちゃんと勉強して将来は彼らを支えようと心の中で誓っていた。サンダーとその父もそれを期待していた。

 

 

 

 

だがそんな生活は長くは続かなかった。学校の同級生だった貴族の子息に目をつけられたのだ。

 

専属の奴隷など、自分だって持っていないのに、うらやましい、自分も欲しい、と言い出したその貴族の息子、それがビッグであった。

 

そして、ビッグは貴族である父親に頼んでサンダーの父親に圧力をかけてもらい、リューを無理やり買い取ってしまう。貴族の命令と圧力に、サンダーの父も逆らえなかった。

 

貴族なのだから、奴隷などいくらでも買えるはずであるが、ビッグは「元同級生を奴隷にする事」に魅力を感じたのである。

 

それからは地獄の日々であった。ビッグはリューを地下室に閉じ込め、毎日暴行を加え、いじめ抜いた。

 

毎日拷問を受け続けるような生活……何かを白状すれば終わる尋問ではなく、果てしなく続く単なる暴力。

 

死ぬ寸前まで傷つけられても、ポーションや治療魔法でまた治されてしまう。それは拷問を受ける者に取っては恐怖でしかない。

 

だが、一年ほど経ったある日、それは終わりを迎えた。ビッグの父親が、息子の所業を知るところとなったのである。

 

 

 

 

この世界では、奴隷になると隷属の首輪を付けられ、主人の命令には絶対に逆らう事はできなくなる。

 

だが、それはあくまで仕事をさせるためであり、何をしても良いというわけではない。奴隷には最低限の権利が保証されているのである。持ち主は奴隷の衣食住を保証し、健康な生活を送らせる義務があるのである。

 

奴隷というのはあくまで仕事上の契約の形態の一種なのであり、奴隷の人権は、むしろ平民よりも保護されているのであった。

 

もし、奴隷に対して暴力を振るったり不当な扱いをした事が発覚した場合、奴隷の持ち主は厳罰に処される事になる。貴族といえどもそれは逃れられない。

 

だが、ビッグはそのような法律を理解していなかった。ビッグにとっては、奴隷というのは好きなように弄んで壊してよい玩具だったのである。

 

息子が奴隷の少年を酷く虐待していた事を知った父親は真っ青になった。

 

もしその奴隷の少年が出るところに出てビッグにされた事を訴えたら、ビッグのみならず所有者であるビッグの父親までもが犯罪者となり奴隷にされてしまう事になる。

 

それを恐れたビッグの父親は、慌ててリューを奴隷から解放したのであった。

 

解放してしまえば、リューはただの平民である。この世界では貴族の権力は非常に強い。平民を無礼討ちにしたとしても許されるような世界なのである。平民にしてしまえば訴えられてもなんとでも握りつぶせるだろう。

 

幸い、奴隷の少年は、奴隷の権利についてちゃんと理解していないようで、訴えるという考えはないように見える。

 

そこで、ビッグの父親はリューを遠い街に移動させ、いくらかの金を持たせ恩を着せた形にして解放したのだった。

 

リューが放り出された街が、ここ、ミムルであった。

 

そうして少年リュージーンはこの街で一人で生きていく事になったのである。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

冒険者になったリュージーン

 

乞うご期待!

 

 

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