第9話 反省を促す

リューは、レイドに参加していた―――リューを置き去りにすることを黙認していた―――冒険者は全員殺すつもりであった。

 

だが……

 

自分が切り捨てられ殺されそうになって、許せないと思ったリューであったが、ヨルマに“緊急避難”だと言われた事が引っかかっていた。冷静になってみれば、“命の選別”は前世の地球にもあったのを思い出したのである。

 

トリアージ。救急救命の現場では、誰を優先的に治療するかを選別する必要があるのだ。全員を救えない状況であれば、それは仕方がない事だ。

 

また、緊急時には誰かを殺して自分が生き残ったとしても、助かった人は殺人の罪には問われないというのが地球での法的な解釈であったはずだ。(カルネアデスの板)

 

とは言え、最初から“そのため”に騙して連れて行くというのは違うだろう。

 

トリアージだって、治療の順番を決めるだけで、その場で誰かを殺して治療の材料に使ったりはしない。

 

百歩譲って、仮に誰かを犠牲にして生き延びる決断をしたなら、その指揮官は、後で決断の責任を取るべきだろう。

 

責任も取らず、犠牲にした者の事など一切顧みず、自分は正しい事をしたと堂々と胸を張り、良心の呵責すらもないのは、人間として間違っているだろう。

 

 

 

リューはゴジに尋ねた。

 

「俺以外に、過去に何人、捨て石にしてきたんだ?」

 

何も言わないゴジだったが、リューが空中で手を握る仕草をしたのを見て、慌てて答えた。

 

「さ……三人、いや四人、いや三人です。」

 

「どっちなんだ?」

 

「四人です!」

 

「四人だけか?本当はもっと多いんじゃないのか?」

 

宙を握る仕草をするリュー。

 

「ひぃっ、五人デス、五人くらい居たかも知れませんっ!!」

 

「ふん、五人もか……やっぱり生かしてはおけないなぁ……」

 

「ひぃぃ!死にだくない!お願い、許じてください、反省じてまず・・・!」

 

 

 

 

結局、リューはゴジを殺すのをやめた。

 

死は消滅ではない。

 

死後の世界があり、転生もある。

 

それをリューは自ら体験して知ってしまったのだ。

 

次の世界がある。それをリアルに実感してしまえば、死はそれほど重い罰ではなくなってしまう。

 

簡単に死なせるのは、ただ相手を楽にしてやっているだけだ。本当に憎い相手であれば、簡単に楽にしてやるのでは気が晴れないというものだろう。

 

リューは、“条件付き”でゴジを生かしておいてやる事にした。

 

リューが出した条件は三つ。

 

1つ目は、これまで捨て石にして殺してきた冒険者の遺族を探し出して、誠心誠意謝罪してくる事、遺族が居なかった場合は、墓を作ってやること。

 

2つ目は、今後は二度と誰かを殺して生き延びるような真似をしない事。

 

3つ目は、これからは先輩として新人冒険者を守り導く事。

 

「もし、新人の命の危険があったら、お前が命を捨てて守れ。誓えるか?」

 

「はい……ぢがいます……」

 

「もし約束を破ったのが分かったら、また【お仕置き】を味わう事になるぞ?今度は今回の百倍増でだ!」

 

「ひぃぃぃ……誓いますぅ……」

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

― ― ― ― ― ― ― ―

2時間後、再びギルドに戻ってきたリュージーン。

 

少し遅れて入ってきたゴジは、顔色青く、足取りは弱々しかった。

 

リューにレイラが話しかける。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「何も問題ない。」

 

ゴジはよろよろと酒場のほうへ歩いて行き、待っていた仲間、ゴジとパーティを組んでいるサンジとヨジのところへ行った。

 

「おいゴジ、どうした?」

 

ゴジは青い顔をして何も喋らない。怯えたような表情で、リューのほうを見ようとしない。

 

ヨジが席を立ち、リューに近づいてきた。

 

「てめぇ、ゴジに何しやがった!?」

 

「……さてな?」

 

「てめぇ!」

 

リューに掴みかかるヨジ。

 

「ふん、オマエ達にもお礼をしないといけないよなぁ?」

 

「お礼」が言葉通りの意味ではないのはヨジ達も理解できる。

 

サンジもヨジも、リューに親切にしてやった覚えなどない。むしろ、ずっと酷い扱いをしてきた。ゴジとともにリューに暴行を働いた事もある。

 

先日のレイドでも、リューを見殺しにして逃げた冒険者である。

 

リューとしても、必ず「お礼」はするつもりの相手であった。

 

リューは胸ぐらを掴んでいるヨジの手首を掴み、力を込める。

 

「いでててて痛ぇ!離せ!」

 

リューの加えた力は手首を砕くほどではないが、その寸前くらいには締め上げている。痛みで動けなくなるヨジ。

 

「どうした、ヨジ!?」

 

サンジが慌てて駆け寄ってきた。

 

「二人共、邪魔が入らない場所でじっくり“お話”したいところなんだが、今日は忙しいのでな、日を改めてもらえるか?」

 

リューがジロリとゴジの方を見ると、ゴジが慌てて飛んできて、二人を止め始めた。

 

「ど、どうしたんだよ、ゴジ?!」


「いいから来い!」

 

ゴジはサンジとヨジを掴んで引きずるように出ていった。

 

もちろんリューは、後日、サンジとヨジの二人ともゴジと同じようにキッチリ反省してもらったのであった。

 

ゴジのパーティ「午後の風」は、リューにさせられた約束を守り、過去に捨て石にして殺した冒険者達の遺族への謝罪行脚へと旅立った。(捨て石にされた冒険者は、この街以外から来たものばかりが選ばれていたためである。)

 

遺族の元を訪れ、見殺しにしてしまった事を話し謝罪すると、怒る遺族も居たが、冒険者になった時点で危険は覚悟していたという遺族も多く、仕方がない事だと許してくれた者が多かった。

 

サンジとヨジは、働き手を失って苦労していた遺族の元に残って力になる事にした。そのまま、3人は別の街に住む事となったため、パーティは解散となった。

 

ゴジも、とあるダンジョンに近い街で新人冒険者を助けたのがきっかけで、そのままその街に残り後輩の指導をするようになった。ゴジはリューとの約束をその後も守り、後輩の新人冒険者の面倒を見続けたのである。

 

そして意外にも指導者としての才能を開花させたゴジは、その後、多くの新人達を一人前に育てあげる。

 

そして、15年後、とあるダンジョンで、新人冒険者を守るために犠牲となってゴジは死んだのであった。

 

その後、ゴジに育てられた冒険者達によって、伝説のS級指導員ゴジとして語り継がれるようになるのであるが…

 

それはまた別の物語ストーリーである。。。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

素材の買取は禁止されたけど…

 

乞うご期待!

 

 

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