第28話

僕は携帯の画面から顔を上げた。

魔王学園の校舎、その中にある空き教室だ。

昼休み、食堂で昼食を取ったあと僕とエリーは、この空き教室にやってきた。

今日は委員会の仕事がないので、これからの事について2人で話し合うためだ。


ここには元々生徒があまりこないので、話をするにはうってつけなのだ。


「……いろんな人がいるんだなぁ」


僕は、苦笑しながら呟いた。


「そうだね。

おもしろいね」


隣で同じように携帯から顔を上げ、エリーが言ってくる。

なんだか無性におかしくなって、どちらともなく笑った。


「本当かどうかはわからないけどね」


僕はそう続けた。

考察厨の身の上話は、嘘の可能性もある。

そこを頭の片隅においておかなければならない。

ただ、嘘だったとしても、考察厨のそれは優しい嘘だ。

それはともかく。


「それはそうと、初代のお墓に入る許可は取れなさそう?」


「うん、難しいかな。

ツクネが魔王だってバレちゃいけないから。

なにかしら動こうとすると、お爺様にバレちゃうと思う。

そしたら絶対邪魔されるよ」


エリーのお爺さん世代は、血統、家柄で魔王を決めるように動いている世代だ。

すでに隠居の身だけれど、隠居して自由になったからこそなのか、とにかく好き勝手やってご家族のストレスのもとになっているとか。

エリーや彼女のご両親、既に家を出たおじさんおばさん達からは、大人しくしろと言われ続けているらしい。

なにかしら動けば勘づかれるだろう、もしかしたら僕が次の魔王に決まってしまったことがばれてしまうかもしれない。

そうなると絶対に妨害してくるのは明白だというのだ。


「それこそ、暗殺とかしかねない世代だから」


そう言った意味で、エリーのお爺さん世代は【最悪の世代】もしくは【災厄の世代】と呼ばれているらしい。

はた迷惑すぎる世代だなぁ。


「わかった、とりあえずそれをスレで相談しよう」


僕は、初代の日記が手に入れることが難しいことを書き込んだ。

すると、今度はスレ内で特定班がこんな書き込みをした。


【安価やろうぜっ!( *˙ω˙*)و グッ!】


そして始まる安価コール。

その書き込みを見て、エリーが首を傾げた。

僕は簡単に、安価の説明をする。


安価。

決められたスレッドの数字を狙って、スレ主などにやってほしいことを書き込む行為だ。

現在、僕にはいくつかの選択肢があった。


・初代の日記をなにがなんでも手に入れる。

・初代の日記を諦める。

・人格のことも調べるのをやめる。

・慎重に根回しをして、初代の日記があるだろうトラップだらけの墓に入る。

・許可を取らずに、その墓に忍び込む。


まぁ、こんなところだ。

そもそも、初代の日記の存在はスレ民――特定班の知人であるスネークの厚意でもたらされた情報だった。

自分のことは自分でした方がいい。


でも、僕は。


もう一つの人格の方は強いけれど、僕はその真逆の存在だ。

たった一人で忍び込むことが可能なのか。

そして、罠だらけのそこから果たして生還できるのか。

なによりも、これ以上他人の厚意に甘えていいのか。


「…………」


携帯の画面に視線を落とす。

【考察厨】のコテハンが目に入る。


「…………」


ついさっき、考察厨が書き込んだ書き込みを読み直す。


【近くにいる大人を頼れ】と書いてある。


そして、最新の書き込みを読む。

安価が決定していた。


「ツクネ??」


横から、エリーが不思議そうに声を掛けてくる。

僕は、今の状態をなんとかしたい。

急に現れた人格。

それが本当はなんなのか、それを知りたい。

でも、僕は弱い。

バイト先の先輩に喧嘩技を教えてもらった。

他にはティオさんからも護身術を教えて貰った。

僕は、絶対に魔王としては約立たずだ。

そのことを、僕は誰よりも知っている。

バイト先の先輩や、ティオさん、九代目、おばあさん、そしてエリー。

僕の周囲には、僕よりも大人の人が沢山いる。

年齢とか、どこの誰かとかは関係ない。


「エリー」


僕はエリーを見た。

真っ直ぐに、見た。

僕を支えてくれると言い切った、彼女を真っ直ぐ見つめる。

そして、


「僕と一緒に、悪いことしてくれない?」


そう頼んだ。

安価は【初代の墓に忍び込む】に決定した。

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