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 ロジェ=リュディック・ダリガードン……彼は隣国。現在ベルベットがいる国の教皇で攻略対象者。


 この人は頭脳明晰、容姿端麗、温厚篤実な言うことなしの人物だが、優良物件すぎて何か裏がありそうだと疑いながらプレイしていた。

 まあ、その考えは杞憂で何事も無くエンディングを迎えられた訳だが……


(問題はなんでこの人がここにいるかなのよ)


 こうも立て続けに攻略対象者と関わりなるなんて……これは偶然か……?


 因みに、ロジェルートでの悪役令嬢ベルベットの結末は奴隷落ち。それも性的な意味の。全年齢対象のゲーム故にその後の事は当然分からない。分からないが、性奴隷に安寧はない。

 ようやく見つけた安息の地。ここは何がなんでも早急にお引き取り願いたい。


「えっと……ロジェ様?」

「ロジェでいいですよ」

「いや、それは……」

「ロジェ。と」


 教皇様に対して不敬なのでは?と思うが、この人はまだ自分が教皇だと正体を明かしていない。それより何より、笑顔の圧が怖い。


「ロジェ……」

「何でしょう?」


 圧に負けたベルベットが仕方なく名を呼ぶと笑顔で応えてきた。ベルベットは小さく為息を吐くと、ベッドの傍らに置いてある椅子に腰掛けた。


「具合はどうです?大丈夫そうなら暗く前に森を出た方がいいと思うので、森の入口までリアムに送らせますが……」


「えっ!?僕!?」とリアムは嫌そうに顔を顰めたが、ベルベットが「元はと言えば貴方のせいでしょ!!」と睨みつけたら不満そうにしながらも了承してくれた。


 見たところ怪我などもないし、頭痛などの副作用もなさそう。もし教皇の身に何かあったら罪に問われる所だった。


 ベルベッドが気付かれぬようにホッと胸を撫で下ろしていると、ロジェが申し訳なさそうに口を開いた。


「実は従者の者とはぐれてしまって……もし迷惑でなければ迎えが来るまでここに置いてくれませんか?」


 伏せ目がちに言うロジェは弱々しく、本当にはぐれて困っているのだろう。だが、これ以上の関わりは正直避けたい……


 ベルベットは頭の中で"安寧"と"助力"を天秤にかけた。


 ここで追い出せば安寧は守られるかもしれない。しかし困っている人を助けないのは人としてどうか……

「ん~~」と頭を抱えているベルベットを見て、ロジェはベッドから降りた。


「すみません。ご迷惑でしたね……見送りは結構です。助けて頂き本当にありがとうございました」


 消え入りそうな笑顔で言われ、つい手を取って引き止めてしまった。


「あの、大丈夫です。迎えの方が来るまでここにいてください!!」


 言ってしまった手前、もう後には引けない。


(やっ、やってしまった……)




 ◈◈◈




 ちょうどその頃、ベルベットの家の前に馬に乗ったジェフリーが到着した。家の中から人の声がする事に気がついたジェフリーは扉を叩くのに一瞬躊躇したが、気を取り直して扉を叩いた。


「はぁい!!」


 中から元気の良いベルベットの声が聞こえると、すぐに扉が開かれた。


「どちら様……──え?」


 ベルベットは訪ねてきたのがジェフリーだと分かると信じられないものを見たかのように見返した。


「客人がいるのか?」

「あ、ええ……なのですみませんがお取引を……」


 これはチャンスとばかりに断りを入れると、ジェフリーは手に持っていた紙袋をベルベットに渡して来た。自分を毛嫌いしている者が一体何を?と恐る恐る中を見ると、中には甘い匂いを漂わせたクッキーとガレットが入っていた。


 これは……なに?と訳が分からずジェフリーを見ると


「近いうちに来ると約束しただろ?それは手土産だ」


 当然の如く言い切られた。


「それは……ありがとうございます」


 確かに近いうちに来るとは言っていたが、本当に来るとは思いもしなかったし、まさかジェフリーからクッキーを貰える日が来るとは夢にも思わない。


「客人がいるとは知らず、すまなかった。日を改めてまた来るとする」


 ジェフリーはそれだけ言うと踵を返し、馬の手網を手にした。


(よしっ!!今日は大人しく帰ってくれた!!)


 ベルベットは内心歓喜し、気付かれぬよう小さくガッツポーズをしながら、馬に跨りこちらを振り向いたジェフリーに笑顔で手を振っていると


「ベル?誰か来たんですか?」


 ロジェがベルベットの肩を抱きながら顔を出してきた。その場面を見たジェフリーは眉間に皺を寄せ険しい顔でロジェを睨みつけている。


「ええ、少し前にお世話になった騎士様です」

「そうなんですね。随分親しそうに見えましたが?」

「いえいえ!!とんでもない!!そんなこと言っては団長様に失礼です!!」


 ロジェの言葉に勢いよく首を振り否定すると、背後から凍てつくような視線を感じた。壊れたおもちゃのようにゆっくり振り返ったベルベットはヒュッと喉が鳴った。

 いつの間にか馬から降りており、ベルベットの背後に立っていたと言うだけで恐怖なのに、その表情は恐怖を通り越し死を覚悟する様なほど恐ろしいものだった。


 ベルベットはロジェに無意識のうちにしがみついており、ロジェはそんなベルベッドを庇うように腕に抱きしめていた。


 ジェフリーはそれが酷く面白くない。


「騎士ともあろう方が女性を怖がらせるのは褒められたものではありませんね」

「……怖がらせたつもりはない」

「ははっ、その殺気は無意識ですか?──貴方、それでも本当に団長?」

「なに?」


 ロジェの腕の中にいるベルベットは手に汗握りながらこの様子を見てるしかなかった。

 早く止めなきゃと言う気持ちはあるものの、その一歩が出ない。


「はいはい、二人共そこまでにしときなよ。ベルが怖がってるでしょ?」


 横からリアムがベルベッドを指差しながら指摘してやると、ようやく落ち着きを取り戻した二人はバツが悪そうに視線を逸らしていた。



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