第31話 激戦の後に
ドラゴンの断末魔が辺り一帯に響き渡り、巨大な体躯がその場に崩れ落ちていく。
左肩を押えながら、私はゆっくりと地上に着地する。
「や、やったあああぁぁ!!アキちゃんがやってくれましたっ!」
“うおおおおおおおおお”
“よっしゃあああ!”
“マジでか!”
“アキちゃんすげえええええ”
水無瀬さんとコメントの歓喜の声が聞こえてきた。でも、無理して動いたせいか一気に身体が重くなる。私はその場に膝をついてしまう。
「あ、アキちゃんっ!」
水無瀬さんが驚きの声を上げた。みんなが駆け寄ってくる音が聞こえる。
「まずは手当てからだ。とりあえず、横になりな」
まひろさんの言葉に従って、彼女の治療を受ける。仰向けになると空が良く見えた。ドラゴンが倒れたからなのか、天を覆いつくしていた雲がゆっくりと霧散しつつあった。
本当に倒せたんだ。これで、ダンジョンの異常は元に戻る。そう思った時緊張の糸が切れ、気が付くと気を失っていた。
再び意識が戻った時、私は荒木田さんに背負われていた。どうやら今は移動中らしい。
「おや、目が覚めましたか。灰戸さん、本当にお疲れ様です」
荒木田さんの落ち着いた声が背中越しに聞こえる。
「ここは?」
私の問いにまひろさんの声が答えてくれた。
「30階層まで戻ってきたところ。ここまでくればもう安心かな。アッキー抜きは結構きつかったけど、なんとかなって良かったよ~」
「あ、ありがとう。迷惑かけちゃったね」
「なにを言うんですか。灰戸さんのお陰で全員助かったんです。ドラゴンを倒してくれてありがとうございました」
荒木田さんの言葉に同調するように、水無瀬さんが顔を覗かせてきた。
「そうだよ!アキちゃん、本当にありがとう!」
「うんうん。アッキーがいなかったらどうなってたことか!ありがとーな!」
まひろさんも、私に感謝の言葉を述べる。こんなに面と向かってみんなからお礼を言われるとなんだか気恥ずかしい。
「み、みんながいてくれたおかげだよ。だ、だから。わ、私たち全員の勝利ってことで……」
しどろもどろで返した言葉に、荒木田さんが穏やかな声で答える。
「そうですね。そして、あとは無事に帰るだけです。灰戸さんはゆっくり休んでいてください」
「ありがとう。そうさせてもらおうかな」
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その後、危険な魔物に出くわすこともなく私たちは地上に帰還することができた。
今回は私が動けないこともあって、みんなが家まで送り届けてくれた。その日は家に帰りつくなりベッドで熟睡。あっという間に翌日がやってきた。
目が覚めると、倦怠感はだいぶ薄れていた。都合の良いことに今日は日曜日。回復薬がだいぶ効いたとはいえ、一応大事を取って丸一日休息に充てることにした。
ところが、身体が徐々に活力を取り戻すにつれてだんだん寝ているのが暇になって来た。そんな時、スマホが震えた。
「アッキー、体調どう?」
スマホから聞こえてきたのはまひろさんの声だった。話を聞いてみると、彼女も怪我を完全に癒すために体を休めていたらしい。
そして、私と同様に時間を持て余していたようで、暇つぶしに話をしようと電話をかけたとの事だった。
「もう元気になってるみたいで良かった良かった。ところで、昨日の配信結構すごいことになってるっぽいよ?」
様々なSランクモンスターとの激闘に加え、未知のドラゴンも現れたとあって、かなり話題になっているらしい。配信の見どころを切り抜いた動画が大量に出回って、ネットでは前回以上の盛り上がりを見せていた。
「とっておきの自慢話ができて、アタシとしては満足だよ~」
まひろさんは楽しそうにそう語る。
「それはよかった。予想外だったけど事件自体も解決しちゃったし、言うことなしだね」
しかし、まひろさんは少し声のトーンを落とした。
「まあ、それはそうなんだけど。正直ちょっと残念でもあってさ」
「どうかしたの?」
「かなり命がけだったけど、久しぶりにアッキーたちとダンジョン潜るのも意外と悪くなかったんだよね。なんかワクワクしたって言うか。そんな感じ。だから、口実が無くなるのは寂しいなって思っちゃって」
ダンジョン探索そのものが好きではないって公言していたから、まひろさんがそんなことを言うとは意外だった。そして、私自身もソロでダンジョンに潜るのとは違った高揚感を感じていたのも確かだ。
「私は別に理由がなくてもダンジョンにはいつも行くから、まひろさんが良ければ一緒に行く?」
口に出してハッとする。人との関わりが苦手な私が、自分から他人を誘うなんて!
「えっ、ホント!?いいじゃん!行こう行こう!」
まひろさんは嬉しそうに私の提案を受け入れてくれた。もう楽しみになって来た自分の気持ちに正直戸惑う。でも、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
そうしてまひろさんとの長電話を終えてからはたっぷりと仮眠を取り、目を覚ましたのは夕方だった。
「やば、ちょっと寝すぎたかな」
ベッドから起きて大きく体を伸ばす。もう全身の違和感はすっかり取れて、いつも通りの感覚が戻ってきていた。ちょうどその時、部屋のドアをノックしてお母さんが入って来た。
「お客さんが来たんだけど、起きれそう?」
「お客さん?分かった。今行く」
部屋着から着替えてリビングに行くと、そこには荒木田さんがいた。
「お疲れ様です。お休みのところすみませんね。昨日の今日ではありますが、お見舞いに来ましたよ」
そう言って荒木田さんは手元のお茶をテーブルにコトリと置いた。
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