第27話 すべての元凶

「ま、まひろちゃん!?」


 水無瀬さんが驚きの叫びをあげると同時、グレーターデーモンは呻き声を上げてうつ伏せに倒れ込んだ。


 まひろさんはその背中を足で踏みつけ、刺さった槍を引き抜く。そして、もがくグレーターデーモンの頭へと再び槍の切っ先を向ける。


 頭蓋を一突きにされたグレーターデーモンはそこでついに動かなくなった。


「はあっはあっ。な、なんとかなったね」


 グレーターデーモンからよろよろと離れたまひろさんは、槍を放り投げてその場に膝をついた。


「まひろさん!大丈夫!?」


 すぐさま彼女の下に駆けつけて様子を確認する。右肩と左の太腿にはグレーターデーモンの影に貫かれたはずの傷口は見当たらなかった。『人体改変セルリビルド』を応用して傷を塞いだみたいだ。


 でも、血の跡を見ると結構な出血量であることが分かる。『人体改変セルリビルド』は失った血液や体力までもとに戻せるわけではない。はやく介抱しないと。


「荒木田さん!」


 私が顔を上げると、呼びかけるまでもなく荒木田さんと水無瀬さんがこちらに駆け寄ってきているところだった。


「グレーターデーモンはなんとか倒されました!でも、まひろちゃんの怪我が気になります!手当てするので一旦マイクを切りますっ!」


 水無瀬さんは走りながら、実況を切り上げバックパックから回復薬を取り出した。


“まひろちゃん大丈夫かな”

“さすがに敵が強すぎた”

“こんな危険地帯で調査とか大変すぎだろ”

“あまり無理しないで”


 心配のコメントが溢れかえる中で、まひろさんに回復薬を飲ませる。


 そして木陰で寝かせて休ませること十数分、まひろさんがゆっくりと体を起こした。


「ふう~、だいぶ楽になったかな。みんなありがと」


「よ、よかったぁ!」


 水無瀬さんが今にも泣き出しそうな顔でまひろさんに縋りつく。


「ちょ、ちょっと……。大げさだってー」


「まあ、なかなか厳しい戦いでしたからね。こういう反応にもなるでしょう。とりあえず、大事を取ってここでしばらく休みましょうか」


 荒木田さんの提案に私も大きく頷く。


「そうしよう。みんなで無事に帰るためにも、この先の危険に備えないと」


「そうか~。まあ、みんながそう言うならおとなしく休んどくかぁ」


 少し恥ずかしそうにしながらも、まひろさんは身体を休めることに専念してくれた。


 まひろさんがすっかり元気を取り戻した所で、私たちは調査を再開した。Sランクモンスターを避けながらダンジョンを潜って行き、ついに55階層まで到達。寒さはより一層増してきていた。


「どんどん寒くなるけどさ。これって結局なんでなのかな?」


 まひろさんがポツリと零した疑問に荒木田さんがまじめに答える。


「それを突き止めるのがこの調査の目的です。今のところはそれらしきものは見当たらないので、この先に原因があるということなのでしょう」


 まひろさんはしらけ顔で荒木田さんのド正論に言葉を返す。


「そんなことは分かってんの!ちょっと予想してみようって話じゃん。例えば、なんかすごく冷たい溶けない氷みたいなのがあるとかさ!」


 すると、水無瀬さんがクスリと笑った。


「なんだか面白そうだね!ダンジョンの天気を変えちゃう機械が隠されているとかどうかな?」


「おおー、なんかありそうじゃん!」


 まひろさんは感心しながら手を叩いている。水無瀬さんは口元に手を当てて微笑み、こちらを見た。


「アキちゃんは、なにかある?」


「え、私?」


 こういう連想クイズみたいなのは苦手だ。一応想像を膨らませてみるけど、ロクなアイデアが出てこない。とりあえず、ありきたりだけど真っ先に思いついたことを口に出してみる。


「冷気を操るモンスターが暴れてるとかかなぁ?」


 すると、水無瀬さんは目を輝かせた。


「アキちゃん!すごいありそうだよそれっ!」


「え?そう?」


 私が水無瀬さんの勢いにタジタジになっていると、まひろさんが大きく頷いた。


「アッキーやるじゃん!それならいたらすぐ分かるし、倒せば解決!これは採用でしょ!」


「採用って、一体誰目線なのよそれ……」


 そんな私たちの会話を、荒木田さんが唐突に左手を上げて制止した。


「みなさん、止まってください。向こうになにかいます」


「なによ、いいところだったのに!ってなにあれ?」


 機嫌を損ねたまひろさんが上を見上げたと思ったら、すぐさま呆然とした表情に様変わりした。どうしたんだろう?私もその方向を見てみる。


 すると、そびえ立つ崖の向こうからなにやら巨大な雲が立ち上っていた。それはどんどん大きさを増し、私たちの頭上を覆いつくしていく。


「あ、あれって、もしかして……?」


 水無瀬さんが言葉を言い切る前に、崖の上に巨大な影が現れた。それは白と青を基調とした体色が特徴的なドラゴンだった。しかし、その姿を見て私たちは困惑するしかなかった。


「なにあのモンスター?あんなの見たことないんだけど」


 まひろさんの言葉に荒木田さんが補足する。


「あの姿。管理局のデータベースにもないですね。おそらく未発見のモンスターでしょう。どうやら、灰戸さんの説が当たっていたみたいですね」


 そのドラゴンが身震いすると、身体からたちまち冷気が巻き起こり上空の雲が拡大。そして、雪が降り始めた。

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