第16話 乱入者の脅威
突如現れた乱入者に私たちは一様に驚愕した。
「ワ、ワイバーン!?まさかのSランクモンスター2体目っ!これは予想外!だ、大ピンチですっ!」
“マジかよ”
“サラマンドラも倒せてないのにワイバーン追加はヤバイって”
“これもう逃げるべきでは?”
“つよそう”
水無瀬さんとコメントの反応がこの状況を端的に説明してくれている。さすがにこんなの想定してないって。どっ、どうしよう。あまりの事態に思考がフリーズしかける。
と、ワイバーンがギロリとこちらを見下ろした。不意に大きく翼を広げて前傾姿勢をとったワイバーンは、さらに口を大きく開いた。
そこでハッと我に返る。ヤバイ。避けないとっ!
最小限の視線移動で、地上の一角に座標を指定する。
ワイバーンの口の中で紫紺の光が明滅。転移が終わったと同時に、極太の閃光が天から降り注いだ。私がさっきまでいた場所を正確に射抜き、一瞬で大地が穿たれる。
紫電の
サラマンドラのブレスとは桁違いの速度と貫通力。見てから回避するのはほぼ不可能に近い。私が苦手とするタイプの攻撃だ。
「なんという速さ、なんという破壊力っ!これがSランクモンスターの恐ろしさです!正直もう退散してしまいたいっ!」
“こっわ”
“なにあのビーム”
“ヤバすぎだって”
“アキちゃん無事?”
“実況はもういいからはよ逃げろ”
水無瀬さんも、この場にいない視聴者すらも弱腰になってる。安全のためにここは退いた方がいいのでは。そう思い始めたその時。
「『
ぼそりと呟く荒木田さんの声。それに合わせて、3つの細い光の筋が曲がりくねりながらワイバーンに肉薄する。すべて直撃したが、頑強な飛竜の身体はほとんど傷ついていない。
ワイバーンは鬱陶しそうに荒木田さんを睨みつけると、耳を
「灰戸さん。ここで逃げるのは悪手です。ワイバーンは自分が引きつけます。まずはサラマンドラを処理してください」
私の考えを読み切ったかのような荒木田さんの指示。おかげで一気に思考が明瞭になる。
「わ、分かった。任せて!」
そうだ。一般人の水無瀬さんがいるんだから、背中を撃たれるリスクを負ってまで逃げる選択肢は最初からない。
とはいえ、2体のSランクモンスターを同時に相手するのも危険だ。だからまずは、速攻で片方を潰さないと。
幸いサラマンドラは『
私はすぐさまサラマンドラの背中の上に転移する。もう遠慮は不要だ。
「『
両手をついて、サラマンドラの胴体の真ん中を吹き飛ばす。
麻痺しながらも辛うじて立っていたサラマンドラは、ぐらりとよろめいてその場に倒れ伏した。
「おおっと!?アキちゃん、ついにやりました!度重なる攻撃の末、ようやくサラマンドラが倒れたっ!」
荒木田さんの言葉を聞いてカメラをサラマンドラに向けていた水無瀬さんが、実況でうまく辛勝を演出してくれた。
彼女はこの不測の事態の中でも、的確に自分の役割を全うしてくれている。その頑張りに、私も報いないと。
“やっと倒れたか”
“おおおおおお”
“これであと1体!”
“アキちゃんつええええ”
一転して興奮に包まれるコメントに惑わされず、私はワイバーンを見上げる。
すると今まさに、ワイバーンの口から眩い光が放たれるところだった。
まさに光速のように射出された閃光は荒木田さんめがけて突き進む。
しかし、『
「す、すごい!ワイバーンの破壊光線が弾かれてしまいましたっ!さすがは特級探索者!Sランクモンスターを相手に一歩も譲りませんっ!」
“あのビーム弾くとかどうなってんだ”
“荒木田さん地味にすげえ”
“特級探索者って一般人とは次元が違うんだな”
“サラマンドラ倒したしこれはいけるのでは?”
荒木田さんの防御力に水無瀬さんをはじめコメントも感心しきりだ。それもそのはず。荒木田さんの『
あの壁は私たちがいる空間からの干渉を一切受けつけない。簡単に言えば、どんな攻撃でも絶対に壊れない盾みたいなものだ。
それでも完全に無敵なわけじゃないから、はやくワイバーンを倒さないといけないことに変わりはない。
「荒木田さん、こっちは片付いたよ!今手伝う!」
再び空に飛び出し、右手を構えて『
「くっ、速いっ!」
ワイバーンはこちらに気づいて目を細めた。『
さらにワイバーンは大きく旋回してからこちらへと接近。激しく翼を羽ばたかせ、凄まじい旋風を巻き起こした。
「うっ!?ああああぁっ!」
『
目まぐるしく回転しながらも、なんとか向かっている方向へ背を向けて受け身の態勢を取る。直後、思いっきり背後の木に体を強く叩きつけられてしまった。
「がはっ!」
肺から空気が押し出される感覚。背中にも激しい痛みが走る。
でもっ、これくらいっ!
歯を食いしばって『
「ああっ!アキちゃんが吹き飛ばされてしまいました!くう、ワイバーン強いっ!」
“マジか”
“アキちゃん大丈夫?”
“こいつサラマンドラよりだいぶ強くね”
“空中戦だと分が悪いか”
水無瀬さんと視聴者の声がなんだか遠くに聞こえる。意識を手放さないように必死で呼吸に集中。地面に這いつくばりながらゆっくり息を整える。
軽い素材でできた優秀な防具を身に着けてるのに、それでも衝撃で気絶しそうになってしまった。
しばらく深呼吸を繰り返して、やっとのことで顔を上げる。見ると今は荒木田さんが囮になってくれていた。ワイバーンはまだ軽快に空を駆けている。ほとんど無傷と言っていい。
ワイバーンに対して『
でも、こんな時のために足止めスキルは色々取り揃えてある。
「荒木田さん!ワイバーンを地面に墜とすから、完全防御をお願い!」
「……なるほど。アレを使う気ですか。了解です」
私は左耳のイヤホンを取って立ち上がり、猛り狂うワイバーンを見据えた。
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