「力を統べるべき者|その2」

 その少女―――ナインが語った過去は、予想通りと言うべきか陰惨なものだった。列車が止まることへの拒絶もそこからだと分かった。


 列車が止まれば、実験室に連れていかれる。

 実験が始まれば、強い苦痛と共に意識を失い―――目が覚めれば気が狂った他の実験対象と、実験室から運び出された誰かが遺した鮮血を見せられる。


 そんな地獄がまるで日常のように繰り広げられれば、列車が止まる、ただそれだけのことに強い恐怖を覚えるのも無理はない。


 というか、共感者を求める無意識の願いが反映されたのか、支配下に置けてもいないのに馬鹿げた出力を誇る干渉力によって俺はその過去を追体験させられた。まるでナイン自身になったかのようなリアルな苦痛と吐き気がするくらい生臭い血の臭い。確かにこれは、『クレイドル』に留まりたいと思うわけだよ。


 ナインがたったひとりで抱えていた、俺でさえ目を背けたくなるような過去を前に、最初に感じた膨大な干渉力への恐怖はどこへやら、もうナインの境遇を他人事とは思えなくなってしまった。


 『クレイドル』の使命が第一優先、という原則は変えるわけにはいかないが。

 俺個人として、できる限りこの少女を助けてやりたい。そう思った。

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