オックス・リーを殺した人々

吉冨いちみ

第1話 鎮痛剤

 オックス・リーを殺したのは私ということでいいじゃないですか。医師に処方していただいた鎮痛剤を、彼に譲って飲ませたのは私です。あの日、彼はとても辛そうにしてましたから。鎮痛剤摂取によるアレルギー反応とそれによって生じる脳浮腫のリスクなんて知りませんでしたわ。知っていたとしても、それがあのタイミングで実際に起こるなんてのは予想だにしませんでしたけれど。それでいいじゃないですか。


 彼の最期について詳しく知りたいということですけど、広く世間に知れ渡った事実がすべてですわ。他に彼について話せることなんて何もありません。誰もが知る不世出のアクションスター、銀幕の中では最強の男も、裏では健康に問題を抱えていた。そういうことでいいじゃないですか。


 ジャーナリストであると同時にオックスの大ファンだから、彼についてのことならなんでもいいから話してほしい。訪ねてくる記者の皆様って、判を押したようにそうおっしゃいますのよ。私に何を期待されているんですの。知られざるオックスの美談? 醜聞? もちろん、どちらも存じておりますわ。愛人でしたもの。


 彼はコンプレックスから脱却するために強さを追求し、実際に自身がイメージした通りの姿を銀幕に残すことができました。もちろん克服できない弱さもあったでしょうね。人間ですもの。こう語れば、あなたの満足する美談になりますかしら。それでいいじゃないですか。満足しないんですのね。じゃあ、ひとつだけとっておきの私にとっての美談、ファンにとっては最悪の醜聞をお話しいたします。話し終えたら帰ってくださるかしら。


 ある女優の談話より抜粋。

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