強がり

「えぇ、訓練です。まず、ラミッタさん。あなたの空を飛ぶ速度はあまりに遅い。遅すぎる。まるでカタツムリが空を飛ぶかのよう」


 ヴィシソワの言葉にラミッタは心底イラッとしていた。


「ラミッタさん。今から私が良いと言うまで空を飛び続けて下さい」


「わ、わかったわ」


 一度負けた相手なので、ラミッタは大人しく従う。早速、空を飛び始めた。


「そして、それより酷いのは空も飛べないアナタですよ。マルクエンさん」


 ウッとマルクエンは苦い顔をする。


「あなたはそこの防御壁に向かって光の刃を飛ばし続けていなさい」


「わかりました」


 ヴィシソワが作った防御壁に向かい。マルクエンは剣を振るった。




 一時間もすると、ふたりとも息が上がっていた。


 ラミッタは今にも地面に降りて座り込みたい気分だ。


 マルクエンの光の刃は魔力も使うのだろう。普段は身体強化にしか魔力を使わないマルクエンにとって慣れないもので、非常に辛かった。


 ラミッタの高度と速度が落ちてきたので、ヴィシソワはラミッタに向かって炎を放つ。


「あぶなっ!! 何すんのよ!!」


「あなたが遅いからですよ」


 炎に追いかけ回され、ラミッタは力を振り絞り、速度を上げて飛ぶ。




 二時間半が経ち、二人の魔力がすっかり空になったのを察したヴィシソワが言う。


「まぁ、ひとまずここまでで良いでしょう」


 その言葉と同時に、ラミッタは地上に降り立ち、仰向けに寝転がる。


 マルクエンも膝をついて荒い呼吸をしていた。


「ラミッタ、無事か?」


「こんなに酷い訓練は……。スフィン将軍に鍛えられた時以来よ……」


「私も……。師匠に鍛えられた時以来だな」


「もう音を上げたのですか? 情けない。昼食を食べたらまた訓練ですよ」


 その言葉にラミッタは絶望した。


「ラミッタ、行こう」


「ま、待って……。立てない……」


 ラミッタは魔力をほぼほぼ使い切ってしまい、立ち上がることが出来ない。


「さっさと連れて行きなさい」


 仕方なく、マルクエンはいつぶりだろうか、ラミッタを抱きかかえ、お姫様抱っこした。


「宿敵……。ごめん」


 強がる元気もないのか、申し訳無さそうにしているラミッタ。


「気にするな」


 マルクエンが歩き、地上に上がる前に、ラミッタは腕の中で意識が途絶えてしまった。




「おや、ラミッタさんはどうしたのですか?」


 地下に一人で戻ったマルクエンは尋ねられる。


「ラミッタは目が覚めなかったので、ベッドに寝かせてきました」


「情けない。それではあなたが二人分の訓練を受けてもらいますよ」


「えぇ、望む所です」


 マルクエンも本当は今すぐにでも寝て休みたいが、強がり、剣を構えた。

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