第12話 夜の勉強会


 ルリアの作ったスープと、バケットのようなパンを御馳走になった後、ソファで食休みをしていると、食器を片付け終えたルリアが声をかけてくる。


「どう? ボクの特製スープは。美味しかったでしょー」

「あぁ、思ってたよりは美味かった」

「素直じゃないなぁー」


 ルリアが隣に座り、頬をつついてくる。


「おいやめろ、男に頬をつつかれる趣味は無いぞ」

「さっきまで喜んでたくせにぃ」

「喜んでない喜んでない」

「もうちょっとナイショにしとけばよかったかなー」

「……やめてくれ」


 ルリアがにひにひと笑う。

 これでスープが美味しかったと素直に吐けば、余計にからかってくるであろう事は理解っていたので、言葉を濁したのは秘密にしておこう。


「さてと、そろそろお勉強の続き……やろっか」


 そう言って、ルリアはベッドの近くに置かれていたベージュ色の鞄から分厚い本を一冊取り出すと、これみよがしに表紙を見せてくる。


「じゃじゃーん。子供でもわかる、スペリティアの歴史ー」

「スペリ、ティア?」


「ほんとーになーんも覚えて無いんだねぇ。これは重症だー。スペリティアっていうのは、この星の名前だよ。そんでもって、クラウル地方の都市レストがここの名称だから、覚えておいてねー」


「お、おう……」


 横文字だらけで若干の不安を覚えるが、一般常識的知識は覚えておかなければならない。

 少しずつでも蓄えていこう。


「ちなみに、北のルクランと南のエニスペって国が古くからある大国なんだけど、まぁ今は頭の片隅にでも置いておいてぇ」


 ――本当に覚えられるだろうか。

 不安になった俺は、ルリアからメモになるような紙を借りて、メモを取りはじめる。


 ルリアが教えてくれたことをまとめると、こうだ。


 この世界、スペリティアには多くの種族がおり、大きく分けると、人間族・エルフ族・ドワーフ族・獣人族・花人族かじんぞく・龍人族・妖精族、そして魔族・死霊族アンデットの九種が存在するらしい。


 その中でも更に細かく枝分かれして、多種多様な種族がいるらしい。

 ちなみに俺もルリアも人間族とのこと。


 また、予想していた通りが存在する、所謂『剣と魔法の世界』であった。


 しかし魔法とは、あくまでと呼ばれる能力の小分類に過ぎず、基本的には、このスキルの有無やレベルによって、個々の能力が決まってくるのだそうだ。


 レベルはゼロからじゅうまで存在し、ゼロは一切の使用が出来ない状態。

 レベルいちが最低限で、レベル三もあれば十分中堅は名乗る事ができるレベルだそうで、その分野でレベル七~八の時点で超一流とのことらしい。


 スキルを調べる方法があるらしいので、今度調べてみようとルリアに誘われた。


 思わずワクワクしたが、あまり期待しすぎてガッカリな結果だった場合、非常に悲しくなるので、ほどほどにしておこうと自重した。


 通貨についても教えてもらった。

 通貨の単位はペリンで、いちペリンが銅貨一枚という認識は正しかった。

 ちなみに、百ペリンが銀貨一枚、一万ペリンが金貨一枚とのこと。

 銀貨が百円玉、金貨は諭吉と覚えておくことにした。


「まー、今日のところはこんな感じかなぁ。だいたい理解できたかなー」


「なんとか。とりあえず定期的に見直してしっかりと記憶しておくよ」


「記憶喪失って大変だねー。こーんな事も忘れちゃうなんて。かわいそかわいそ」


「でもお陰でなんとかなりそうだ。ありがとうな、ルリア」


「いいっていいってー、困った時はお互い様ってやつだよぉー」


 ルリアはにひにひと笑いながら顔の前で手を横に振る。


 やつだが、面倒見のいい優しくて気のいいやつなのだ。

 俺はルリアに対しての認識を少し改めた。


「ちゃーんとこの分の借りは返してもらう予定だから、安心していーっぱい借りを作ってってねぇー。にひひひ」


 ……俺はルリアに対しての認識を再度改めた。





 夜もけてきたので、俺は馬小屋に向かおうとする。

 すると後ろから

「あれぇ、どこ行くのぉ。もしかして、本当に馬小屋で寝るつもりだったぁ?」


「ん? もしかして、ここで寝てもいいのか?」

「いいよー別にぃ。その分借りは増えて……」

「わかったわかった。それでもいいからここで寝てもいいか?」


 俺はルリアの言葉を遮る。


「いいよぉー」

 後ろからにひにひという笑い声が聞こえてくる。


 馬小屋で寝なくて済んだのはとてもありがたいが、こんなやつに頼ってばかりいると、本当に骨の髄までしゃぶられかねない。

 早くギルドで仕事を探して、自立しなければ……。


 そう心に強く誓いを立てながら、俺は干し草まみれになっていた布団を、庭でバサバサと振っていた。

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