──お嬢様は乙女を辞めたいそうです……奪われた記憶を求める冒険の報酬は純潔でした……
蒼山りと
第1話 ……幼なじみを護りたい……
ごくごく普通の高校から駅に向かう商店街の雑踏のなか、僕は自慢の女友達とゆっくりと家路についている。彼女とは同じ方向だ。
幼なじみの八海佳奈は運がいい。たぶん、僕とは違う。
「おまえって本当に運がいいよな……」
「なによ? いきなり」
彼女は勉強してないようなのに、テストで僕より良い点を確実に取ってくる。
「おまえ……どうやったらカンだけで最後の記号問題全部正解できるんだよ……」
「え? 実力だよぉ」
嘘だ。絶対嘘だ。なぜかというと。
「なあBE動詞って、どういう動詞かわかるか?」
「何それ? アルファベットのBから始まる動詞のこと?」
「それがわからないヤツが全問正解かよ……」
彼女はとても、美しい長い黒髪をしていて目立つ。それは風が吹くとさらさらと軽くなびく。瞳はくりっとしていて、ひきこまれるような可愛らしい素直さを感じさせた。なんてことのないロングヘアなのに、僕とは人間の基本スペックが違いすぎるのだろう。美人は没個性だといわれる。僕も個性ないが、それとは違う。そのシンプルな存在感ゆえに心を打つ。
「なぁ、おまえ運いいからさ? ひょっとしたらギャンブルやったら最強なんじゃ……」
「今の晴人は不良だね。発想が……。昔の君はもっと、カワイイ少年だったのに」
「期末考査前に遊びまくっていた佳奈にいわれたくない……」
「いうねぇ……。撤回しなさいよ?」
「真面目にノートとって、試験前にバッチリ勉強した僕が負けるのだから、佳奈の運の良さは本物だよ」
「にぶいね……。ちがうよ。運だとおもっていたら。ダメだよ」
彼女は成績が良い。その気になればもっと良い高校も狙えたはずなのに。僕は馬鹿だった。早くそれに気づいていれば、彼女の気持ちに気づけたはずだった。彼女が運がよさそうに見えるのは、そういうフリをしているだけだったのに。
僕は彼女を自慢したい。
「駅にさ、アミューズメントカジノができたのは知っている?」
「行きたいの?」
「僕は君がそこで勝ちまくるとしか思えない……見てみたいんだ」
「なにを?」
「僕の自慢の彼女が注目を浴びるところをさ」
背伸びして幼なじみを彼女と呼んでみた。佳奈は
「なに言っているのよ? 私、山岸晴人くんのこと……弟と思っているもん!」
と笑った。
「くそが!」
「なによ? 年下」
すったもんだの末、僕たちは結局アミューズメントカジノに足を運んだ。その事で日常が終わり、不思議な運命のスタートになると誰が予想できるだろう……。
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