第672話 辺境男爵、禁足地の主とお話しする (3)
世界は多くの真実に溢れている。知っている事、知らない事、知っている事が果たして本当に正しい事であるのか?
真実は人の数だけあるという、それぞれの立場、物の考え方、物事の捉え方。人それぞれに考えがあり、互いの完全な理解というものが存在しないように、完全な真実というものもまた存在しないのであろう。
“バルセリア様の活躍により世界を再びの恐怖に落としていた厄災は討伐された。バルセリア様は厄災を封じる為その地に村を造った。
村はバルセリア様を慕う多くの者たちの訪れにより発展し街となり、都市となり、バルセリア様は各国の王の承認の下、オーランド王国初代国王バルセリア・グラン・オーランド陛下となられた。
これには幾つかの理由があるとされた。世界を救った英雄である勇者を惨殺した厄災を討伐したバルセリア陛下が戻って来る事は、権力者にとって歓迎すべき事ではないという事。
各国の王や宰相を殺した厄災の討伐者であるバルセリア陛下の実力を恐れた事。
何より当時の世界の中心は大陸南部の大地であり、北西部地域は彼らにとって何ら旨味の無い土地であった事。
バルセリア陛下を国から遠ざけ尚且つ厄災を封印する役割を与える。
オーランド王国は彼ら世界の権力者にとって二重の意味での封印の地となった。
月日は流れる、世界は移り変わる。北方の大地に小麦が実り、多くの農民が汗を流す。
国は発展し当初の思惑や建国の目的が忘れ去られるのに然程多くの時間は必要としなかった。封印の地は次第に規模が縮小され、その場所がどういった目的の場所であるのかも人々の記憶から消えていった。
だが決して消えないものがあった。その場に残されたもの、封印により時間と空間を止められてしまった者。
恨み辛みは時とともに風化する。それは日々の生活が執着を許さないから、人の命は短く移りゆく思いは残っていかないから。
戦い破れ、風と共に大地の塵となってしまえば残らなかった思い。人々の恐れから大地に繋ぎ留められてしまった思い。
その綻びは悲劇を生んだ。
それは我が子の死であり、王家に掛けられた呪い。
永遠に続く封印など存在しない、長い月日の中で生まれた綻びは、わずかな隙間を縫って自身の恨みの源泉に辿り着いた。
厄災は再び封じなければならない、その為には王家に近しい者が使命を果たさなければならない。
再びの王家の安寧の為、失った我が子の冥福を祈るため。私は封印の巫女として生涯を捧げた。
私の死後、この役目は誰かが引き継がなければならない。だがそれは自身の生涯を捨てる事。
私が自身の魂を捧げ、封じの楔となることを決めたのは割と早くの事だった。
アーメリア別邸の建築は全てを隠す為、この地に眠る厄災を掘り起こさない為。悲劇の王妃アーメリアの物語はあなたの想像通り、全ては王家安寧に帰結する事実の隠蔽”
語り終え、どこか虚空を見詰めるアーメリア王妃。それは遥か昔、生前の思い出を探るものか。
俺はそんな王妃に言葉を向ける。
「お話ししていただきありがとうございました。この国の歴史の裏、隠されていた真実の一端、確かに私の胸に刻みました。
アーメリア様の思い、それは未だ人生道半ばの私如きに推し量る事は出来ません。アーメリア様がこの地でどれだけの物事を見続けてきたことか、真実を忘れ、使命を失った王家の者たちにどんな思いを抱えてきた事か。
歴史の重み、人の思いの力、辺境の地では知り得ない様々な教えをいただいた思いです。
アーメリア様にお伺いいたします。アーメリア様は今後どうなさりたいのでしょうか。
憂いなく女神様の下に向かいたいというのなら、そのお手伝いをいたしましょう。この地を離れ解放されたいというのなら、その手配をいたしましょう。
幸い私には力がある、優れた仲間がいる、アーメリア様の思いを叶える手段がある。
必ずしもアーメリア様の望み通りとは行きませんがその思いに近しい何らかの結果を約束いたしましょう」
俺はそう言うと深々と礼をする。それは敬意、死して尚王家の為にこの地を守り続けた英霊に対する最低限の礼儀。
“私は・・・”
そして語られるアーメリア様の願い。俺はそのあまりにささやかでありながらこれまで決して叶える事が出来なかったであろう思いに、笑顔を向け了承の意を伝えるのだった。
――――――――――
柔らかな日差しが窓辺から差し込む、朝の気配にベッドから起き上がり、二階の窓辺から外の景色を眺める。
美しく整えられた庭、身体の大きな庭師の男性が忙しなく
“コンコンコン”
扉を叩く音が、静かな部屋の中に響く。
「どうぞ」
入室の許可を与える声に、ガチャリと扉が開かれる。
「失礼いたします。アーメリア様、朝食の準備が整っております。
それと本日のご予定ですが」
「そうですね、今日は久々に王都の街並みを見てみたいわ。
後で馬車の支度を頼めるかしら?」
「畏まりました。それとアーメリア様、大分お身体の使い方が上手になられましたね。私共は元々怨霊として身体を生者のように使うよう仕向けられていましたので、少しの訓練で済みましたが、アーメリア様はそうではなかった。
中々の才能であると思います。
いずれ味覚も獲得なさるかと、私共で宜しければいつでもお手伝いいたしますので、気軽にお声掛けいただければと存じます」
食事の連絡をしてくれた執事が一礼の後その場を下がる。新しい生活、新しい試み、全てはあの者との出会いから。
私は“お気に入りの外出着に着替える”と念じ身に纏う衣服を変化させると、扉を開け部屋を後にするのだった。
――――――――――
アーメリア別邸の地下倉庫、中々の品揃えでございました。
この世の全てを呪うような呪詛を唱え続ける人形から狂気を振り撒く魔剣、身に纏うものを狂人に変える鎧や持ち主を呪い殺す手鏡等々。
流石王都、呪物の大型百貨店でございます。
って言うか結構ヤバ目の品がぞんざいに積み上げられちゃったりしてるんですけど、王家と教会の関係者、これらをちゃんと管理してたんだろうか?
なんかな~、どう見ても産廃場として使っていたとしか思えないんだよな~。
核廃棄物の最終処分場、地下数百メートル地点に埋設処理、未来に向けての贈り物。
最終的にこれをどうするつもりだったんだろう? 絶対何も考えてないよね。
これまで大丈夫だったんだから大丈夫、呪物は狂った聖女と一緒にアーメリア別邸の主が封印してくれるはず。
この状態を見るとそんな教会関係者の考えが透けて見えるような。
まぁ全部いただいちゃうんですけどね。
俺は倉庫全体に濃厚な闇属性魔力を行き渡らせてから一言。
「<収納>」
部屋全体に染み込んだ呪いの残渣があるので地下倉庫全体を範囲指定して、<広域浄土化>により清廉な空気漂う地下倉庫空間に。ゴミ屋敷清掃はお手の物でございます。
で、そんな地下倉庫の更に先、結界の魔方陣が何重にも施された扉をアーメリア様に開けてもらい問題の地下空間に潜入です。
そこは派手に壊して入らないのか? そんな事して後で見つかったら大問題になっちゃうでしょうが。
ここはシュレーディンガーの猫の考察を採用、ガッチガチに封じられた扉の先の猫は果たして生きているのか死んでいるのか。そもそもその場にいるのかいないのか。
開けてみなければ分らないが開ける術がない、だったら大丈夫と思うのが人というもの。自身に開けられない箱を他者が開けることができるとは考えない。長年人任せにしてきた組織であればなおさら。
いずれこの地にアーメリア様がいない事に気が付いて大騒ぎになるかもしれないけど、騒ぐのはごく一部の真実を知る者、そしてその者たちは決して外部に真相を話す事はない。
うん、完全犯罪の完成ですね。
“ガチャリ、ギギギギギギギギ”
最後の封印が解かれ、扉が軋み音を立てて開かれる。
“ブワ~~~”
血の臭いと共に人体が腐ったような思わず顔をそむけたくなるような異臭が周囲に広がる。
「うわ~、こりゃ酷いや。“闇喰らい”、“ブラッディ・クイーン”、“匠”、ここいら一帯の呪いを全部吸っちゃって。“黒鴉”は大地に染み込んだ闇属性魔力や呪いを全部吸ってくれる?」
俺は収納の腕輪から四振りの剣を取り出すと中空にばら撒きます。四本の魔剣はそれぞれが思い思いに飛び回り、地下空間を清浄化していきます。
「ご苦労さ~ん、お礼は後程。次はこの臭いだね。<範囲指定:地下空間全体:クリーン>」
完全な魔力のごり押し、<空間把握>により地下空間全体を指定し、光属性魔法の<クリーン>で周囲を清浄化します。
そこはスキル<清掃>の出番じゃないのか? しこたま空気が淀んでるんだよ、臭いが洒落にならないんだよ、清掃できれいに出来ても空気中の臭いが残るんだよ!!
スキルと魔法は使い分け、内部の清掃より臭い除去を優先させて頂きました。
漸く中に入れるようになったので、封印されし狂った聖女にご対面ってなんか四肢と胸を地面に刺し貫かれている襤褸着を着た女性がおられるんですけど?
赤い瞳をこちらに向けながら、何やらブツブツ呟かれているんですけど?
「滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ滅びろ・・・」
ブホッ、エンドレス呪詛じゃないですか、ノンブレス呪詛って、凄いなおい。
「アーメリア様、こちらの御方が“狂った聖女”様でいらっしゃいますかね? なんか力一杯元気でいらっしゃるんですけど」
“なっ、えっ、一体どうしてこんな事に。私の知る“狂った聖女”は呪詛の力を振り撒く干乾びた遺体であったはずです。
封じの剣により大地に封印されし者、それが“狂った聖女”であったはず。これ程強力な力を持った者であったのならこの地に封印の屋敷を建てる事すら叶わなかった。
どうしてこんな・・・”
驚き恐れに身を震わせるアーメリア様。まぁそうですよね、強力な封印により封じていたはずの呪物が、その封印の下、力を取り戻しつつあったんですから。
“ドカッ”
俺はそんな“狂った聖女”の前に大きな甕を取り出します。
“パカッ”
密閉用の札を取り外し上蓋を開きます。中からは新緑の若葉のような得も言われぬお酒の香りが地下空間に漂います。
「それじゃ、いってみますか。四千年の長きにわたり封印されし“狂った聖女”、一体何杯で正気に戻るのか。
こちら特別にブレンドされたあなた様仕様、光属性魔力マシマシマシマシ聖茶カクテルでございます。お身体に合わず浄化してしまったのならごめんなさいという事で。
黒鴉先生、“狂った聖女”から魔力吸っちゃって~」
“バタンッ”
俺の言葉と共にその場で白目をむき倒れ込む“狂った聖女”。俺はそんな彼女に近付くと、手足と胸に刺さった剣に魔力を纏わせてから引き抜きます。
“なっ、一体何を、そんな事をしてしまったら”
「あ~、大丈夫大丈夫。それにこの封じの剣、そろそろ限界だったみたいだしね。長くもっても後二~三十年ってところだったんじゃない?」
そう言い封じの剣を地面に放り投げる。するとガシャンと音を立てバラバラに砕け散る封じの剣。
その様子に口を開けたまま呆然とするアーメリア様。
「それじゃ一回目、いってみよう」
俺は収納の腕輪から木製ジョッキを取り出すと甕のカクテルを掬い、意識を失っている“狂った聖女”の口に魔力で作った
「一、二、三、四、五“ガバッ、ウエェェェェェ”」
突然両目を見開き起き上がったと思ったら、その場で盛大に吐き散らかす“狂った聖女”。首を押さえて相当に苦しそうです。
「黒鴉先生、二回目です!!」
“バタン”
再びの魔力枯渇によりその場に倒れ込む“狂った聖女”。俺は周囲を<清掃>できれいにしてから再び魔力の漏斗をお口にイン、木製ジョッキにカクテルを掬って・・・。
「二回目、いってみよう」
変化は三回目のチャレンジの最中でした。“狂った聖女”のお口から何やら赤黒い物体がですね。
その物体を吐くと同時に気を失い倒れ込む“狂った聖女”。吐き出された物体は何やらビクビク動いているような。
“ヒュ~ッ、ザクッ”
俺がゆっくり近付こうとすると、横合いから飛び込んできて物体目掛けて突き刺さる一振りのサーベル。
ブルブルと剣身を震わせ感極まったような状態になってるんですけど?
そんで刺し貫かれた物体はそのままサラサラと灰になるって、これ、一体何だったの?
まぁ特に問題ないんならいいんですけどね、ブラッディ・クイーンは用件が終わったんなら下がっていてくれる?
こっちはまだ終わってないんで。
俺はブラッディ・クイーンを地面から引き抜き鞘に戻すと、光属性魔力マシマシマシマシ聖茶カクテル第四回目チャレンジの準備を行うのでした。
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