第64話 転生勇者、行商人を見送る

「それじゃギース、商会長にはよくよく話を伝えてくれ。先ずはグロリア辺境伯様と懇意に成る事、その為の武器は渡したんだからな」

旅立つ友人に言葉を掛け、道中の無事を祈るドレイク村長代理。行商人ギースは今回ビッグワーム干し肉ばかりではなく、数々のマルセル村の可能性を託された。

それは今後の自身の運命をも揺るがす大変な土産物となっていた。


「あぁ、分かってるよ。しかしこれだってまかり間違えば大騒ぎの種に成りかねないって言うのに、それをこんなにあっさり投げ捨てるか普通。王都だったら一財産稼げるだろうに」

行商人ギースはそう言い小箱に詰められた幾つかの陶器の容器を眺める。


「その騒ぎになると言うのが嫌なんだろうさ。製法と現物があるんだ、先ずはモルガン商会で幾つかの試作品を作り、自分の所で使用試験を行ってから話を持っていく方がいいだろうね。

性能の良さ、使い心地に関しては村の女性たちが太鼓判を押して下さっている。香りに関しても村で評判の良かったものを揃えてみた。

レシピの商業ギルド登録をいつ行うかに関してはそちらに任せるから上手い事やってくれ。ケビン君は何だったらグロリア辺境伯様にレシピごと献上し、辺境伯領の産業にしてもいいと言っていたしな。何でもかんでもマルセル村で抱えるのは危険というのが、ケビン君の考えみたいだからな」


今回託されたものの一つ、それはいつか自身がケビン少年に頼まれて仕入れて来た植物性油を使って作られた肌荒れ用の軟膏。ほんのり香る花の匂いが使用者の心を明るくする一品であった。

他にもプチライト照明器具の試作品や光属性が付与された布の試作品(黒)等、取り扱い方に注意が必要なものがゴロゴロと。


「大体この攻撃糸の束や攻撃糸製の布地だって、相当な代物だからな?何でキャタピラー繊維の方じゃなくて貴重な攻撃糸なんだよ。普通逆だろうが」

量的には多くないものの生産体制が整いつつある繊維製品。今後マルセル村発の衣類が出来上がるのは時間の問題であった。


「仕方がないだろう、この村周辺には元々キャタピラーがいなかったんだから。今増やしているところだからそのうち一般的なキャタピラー繊維製品も出荷出来るとは思うが、当面先だろうな。そんなに沢山キャタピラーを狩っても食べきれないしな」

そう言い肩を竦めるドレイク村長代理に、“食べるんかい!?”と突っ込みを入れたいのをぐっと堪え大人の対応に努める行商人ギースなのでありました。


「ソルトさん、ベティーさん、昨日は僕たちの訓練を見てくださってありがとうございました」

「「ありがとうございました!」」

元気良くお礼を述べるチビッ子軍団に、苦笑いを浮かべる現役冒険者の二人。

昨日は結局ボビー老人の暴走の後、チビッ子たちの質問に答える形で対人戦闘の際の立ち回りや護衛対象がいる場合の魔物との戦闘の立ち回り、夜営の際の注意等実際の冒険者活動の際に必要となる知識や経験の話を中心に指導を行う事となった。


一般的な子供たちは冒険者と言えば剣や魔法、スキルの話を聞きたがるものだが、ジェイク君たちはそう言ったものよりも冒険者の基礎的な力となる知識や経験について知りたがる。

不思議に思ったソルトがその事についてジェイク君に聞くと“ケビンお兄ちゃんが言ってたんです。”と言って教えてくれた。


「いいかいジェイク君、ジミー、エミリーちゃん。君たちがこれから冒険者になるのなら最も大事にしなければいけないのは先達の経験だよ。

冒険者と言う職業の歴史は長い、その中で積み重ね培われ研鑽されて来た技術と言うものは何も戦闘に関するものばかりなんかじゃないんだ。薬草の知識や野草の知識、動物の習性や食性を知ってるだけでも夜営の際十分に役にたつ。


依頼は生きて帰って来る事が一番なんだよ、例え依頼に失敗しようともその依頼が失敗したと言う情報が冒険者ギルドに回れば次の挑戦者の選定が出来る、依頼失敗の原因を探る事で成功確率を上げる事も出来る。

冒険者の冒険とは依頼と言う形式を取った段階で決して一人やそのパーティーだけのものではないんだよ。


だからこその経験、これから多くの冒険者と出会うと思うけど、各々が各々の冒険をしてきているんだ。そんな貴重な話を蔑ろにするなんて、勿体ないだろう?

マルセル村の食料事情を救ったビッグワーム干し肉だって、元はボビー師匠の語る“貧乏冒険者たちの話”から教わったんだよ?」

“ケビンお兄ちゃんはそう言って何が一番大事なのかを教えてくれたんです。”

ジェイクはソルトの目を見ながら誇らしげにそう語るのでした。


「「「また来てくださいね~」」」

元気良く手を振る子供たちと村の大人たち。行商人ギース一行はマルセル村の人たちに手を振り返しながら村を離れていく。

“こんな村他に無いから”と言う思いを胸に抱きながら。


「ジェイク君、ソルトさんたち行っちゃったね。今度はいつ来てくれるのかな」

エミリーの呟きに頭を捻り夏くらいじゃない?と答えるジェイク。


「だったら今度は大福の所で擬似ウォーターボール合戦しない?」

「「それはいいかも」」

夏だし、水辺は基本とばかりに決まる現役銀級冒険者ソルトの運命。こうして冒険者パーティー“草原の風”は再びマルセル村の洗礼を受ける事になるのだが、のんびりとゴルド村に向かう彼らはその事を知る由もなかった。


―――――――――――――


ギースさんたち行商人様御一行が領都に向かい戻られて行きます。途中の村々で新たな商材を仕入れつつ商売を行い二十日掛けて戻られるとか。遠いよな~、領都。


何かしらの緊急事態が発生した際に早馬を走らせても夜通しで二日から三日、これが王都なら交代交代で十日程?距離的隔絶の甚だしさよ。

侵略戦争が起きても直ぐに対処出来ないのも当然、その為に我らがグロリア辺境伯様の様なお方にある程度の強い権限を持たせて国境沿いや魔境と呼ばれる地域を監視させている訳でございます。


遠い昔の文献によれば、大森林の先に広がる大魔境のフィヨルド山脈にはドラゴンの棲み処すみかがあるとか無いとか。(「オーランド王国の歴史」フィヨルド山脈についての記述より)

ドラゴン、ドラゴンステーキ、国家滅亡、愚者の夢。うん、俺は何も知らない。ギースさん一行が無事に帰り着く事を祈ろう。


マルセル村に来る行商はギースさんたちモルガン商会の他に後二つ。モルガン商会の行商が年三回、領都との間にあるミルガルの街からバストール商会が一回とヤジル商会が二回訪れる。元々この辺境周辺五箇村はバストール商会が一回回るだけであり、不規則な形で個人や小さな商会が飛び込み行商に来るだけであった。それでもゴルド村迄にしか来ない事が殆どで、予めゴルド村で買い置きして貰い受け取りに行く形式が通例となっていた。


そんな状況を変え、マルセル村までの販売ルートを確立させた村長代理ドレイク・ブラウンの功績がどれ程のものであったか。何でマルセル一族はそこが分からなかったんだろうね~。

因みにバストール商会は地方大手の商会で高圧的、ヤジル商会は個人経営に毛の生えた程度なので物腰が柔らかいが護衛が少ない、たまに外れの護衛を連れてくるって言うね。

人物としてはヤジル商会なんだろうけど、商売相手としては断然バストール商会、安心感が違うんだよな~。モルガン商会には及ばないけど。


そんな理由からチビッ子軍団の相手をしてくれるのはモルガン商会の護衛たちだけだったりします。

今度来るのは夏の収穫期、領都で評判のお野菜をお出し致しますとも。ですんでチビッ子たちの事をよろしくお願いします。

ギースさんたちを見送った後は祭りの後の静けさの如く、普段の村の生活に戻ります。村人たちはビッグワームのお世話やらビッグワーム干し肉の製造やらで忙しく動き、チビッ子たちは“今年こそ打倒大福”をスローガンに日々の修行に戻って行きました。


で、わたくしケビンが何をやっているかと申しますとホーンラビットの経過観察と収穫ですね。

昨年末から冬眠期間に入りすっかりご無沙汰だった五匹のホーンラビット、冬眠期間中に頭の角もすっかり元に戻られておりました。ですんでそのうちの三匹の角を再びスパンと切り落とし、残り二匹を角付きのまま飼育、様子を見ていたんですが、春ですんで新たに子供が生まれましてね。観察用牧場も賑やかに。

そこで角付き一羽と角無し二羽を捌いて味の違いを食べ比べてみる事に致しました。


先ずは角付きから、味付けはシンプルに岩塩で。

“ハムハム”

飼育環境下にあった為か肉質が柔らかく脂も乗っていて中々に口当たりが良い。舌に広がる旨味も大変よろしい。普通のホーンラビットに見られる筋の固さもあまり見られない。やはり安心出来る成育環境というのが良かったんだろうか。


続いて角無しですが、

“ハムハム!?ハム、ハムハム?ハム~!!”


「なんじゃこりゃ、めっちゃ柔らか、適度な弾力に脂の乗った肉の旨味、ビッグワーム改とはまた違った、肉本来の旨味が詰まっている幸せの味。

これってストレスフリーの角無しだからこその特徴?ホーンラビットって本来こんなに美味しかったんだ、スゲー」

ドレイク村長代理、あなたの試みは大成功間違い無しです。こんなお肉の干し肉、美味しくない訳がない。(二重否定)


しかもやたらな餌を与えた訳じゃないから変な効能の心配無し、身体に広がる魔味と言うより肉の旨味、これなら安心。大々的に売り出すにはグロリア辺境伯様の後ろ楯が必要だけど、ポーションビッグワームとかと違って戦争案件にはならないしね。

ビバ、ホーンラビット!

“ガツガツガツガツ”

俺はそんな感慨に浸っている俺をよそに只管ひたすらホーンラビット肉に食らい付く元隠れ里の民三人衆を見ながら、“これは行ける”と明るい未来に思いを馳せるのでした。


「で、団子、お前も角が生えたよな?何でその角先が丸まってるの?」


“キュ?”

あっしも良く分かりませんと言った顔をする団子、「と言うか角付きホーンラビットの突進行動はどうした!?実験牧場のホーンラビットはちゃんと突っ込んで来たんだけど?」


“キュイ~、キュ”

「周りの事は良く分かる様に成ったけどそれ程気にならない?索敵なら任せてくださいってそれは便利だけど!」


実験用魔物四号ホーンラビットの団子、何がどうなってこうなったんだか、全く観察データの取れない別物になってしまいました。だってこいつ角付きホーンラビットの癖にヘソ天で寝るし、やたらデカいし。もうビッグラビットでしょうが、こんなん。

それとですね~、「団子、<ウインドボール>」

“バスッ”

こいつ、風属性魔法使いやがんの、くっそ羨ましい。


「よし、今日の三角ベースのピッチャーは団子。バンバン打ち込んでやる~!」

ケビンと愉快な仲間たちは、本日も平常運転なのでありました。

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